富山から愛知を経て、稲毛へ移転した『はんぺい 三ツ星』

JR千葉駅の隣にある稲毛駅は、東京から総武線の快速で30分ほどの距離にある。稲毛はかつて別荘地として文人たちに愛されていた土地で、現在は住宅地が広がっている。

東京に通う人々も多く、駅前は多くの人でにぎわっている。駅にはペリエ稲毛というショッピングセンターがあり、駅から徒歩4分の距離にはイオン稲毛店も営業しており、住みやすい街となっている。

稲毛といえば海が有名だ。海沿いは稲毛海浜公園として整備されており、美しいホワイトビーチが広がっている。東京湾を一望でき、天気のよい日は富士山を眺めることもできる。

今回紹介する『はんぺい 三ツ星』は稲毛駅の東口、イオン稲毛店のすぐ隣にある。訪れた日はお店に隣接する青果店のオープン日だった。

実は2ヶ月ほど前にも訪れたのだが、夏季は金、日、火曜日のみの営業となっていたため定休日だっだ。この頃はまだ青果店の横断幕はなかったので、久しぶりに来店する際は外観の違いに驚くかもしれない。

お店に入ると、奥に厨房(工場、こうば)、その手前にさまざまな種類の揚げ蒲鉾が並んでいた。脇には店頭で煮たおでんも販売しているが、夏季のため休止していた(2023年10月頃から再開)。

『三ツ星』は昭和22年(1947)に富山市の総曲輪通りで創業し、昭和40年(1965)に愛知県岡崎市で「はんぺいの揚中総本店」として営業していた。このため、関東での揚げ蒲鉾の呼び名である「さつま揚げ」ではなく、愛知での呼び名である「はんぺい(半平)」を使用しているのだ。

すり身にイカ墨を混ぜたいか墨ぎんなんやイイダコが入った蛸巻など、『三ツ星』には他店にはないオリジナリティにあふれた揚げ蒲鉾が多い。これらは現在お店に立つ二代目店主がすべて考案したものだ。

揚げ蒲鉾に使用しているのは最上ランクとなるSA(特級)のイトヨリダイのすり身だ。『三ツ星』では愛知での営業当時から冷凍すり身を使用しているという。

揚げ蒲鉾はトングと籠を使って好みのものを自分で選ぶパン屋さんのようなスタイルとなる。東京のおでん種専門店ではあまり見かけないが、埼玉県では採用しているお店が多い。

店主に稲毛に移転した理由を聞くと、笑いながら「飼っている犬のためなんですよ」と教えてくれた。当時5匹のボクサーを飼っており、のびのびと過ごせる場所を探していたという。その際、千葉のお知り合いから稲毛を紹介され、移住を決意したそうだ。

揚げ蒲鉾の脇で売られている牛どて煮は名古屋の名物だ。どて煮は牛すじや豚モツを八丁味噌とみりんで煮込んだもので、名古屋の居酒屋や家庭では一般的に親しまれている。

店主に稲毛のお客さんの反応をうかがうと、非常に好評だという。特に玉ねぎを混ぜた玉ねぎ天が人気なのだそうだ。ただし、関東では揚げ蒲鉾をそのまま食べずにおでんにする人が多いので、夏場の売上は厳しいそうだ。おでんにしてもおいしいのだが、オーブントースターなどで温めてから生姜醤油などをつけて食べると魚のすり身のおいしさが際立つ。おでん以外でもぜひ味わっていただきたい。

『はんぺい 三ツ星』のおでん種

二代目店主にお話をうかがいながら、揚げ蒲鉾を8種類ほど購入した。

時計回りに12時から、いか墨ぎんなん、蛸巻、えび巻、いんげん天、あさり天、春菊天、コーン天、うずら巻。

揚げ蒲鉾のほかに『三ツ星』オリジナルのおでん汁の素も購入した。ラベルをよく見ると、愛知での店舗名である「揚中」の文字が確認できる。10倍に薄めるだけで、本格的なおでんを作ることができる。

また、牛どて煮も購入した。甘辛い味付けのなかに深い肉のうまみが感じられる一品だ。ごはんとの相性がよく、どて煮をのせて食べれば何杯でもおかわりしてしまう。

おでん汁で揚げ蒲鉾を10分ほど弱火で温めたら食べごろとなる。

『三ツ星』のすり身はもちもちしたソフトな食感となっている。魚のうまみがやさしく感じられ、丁寧な店主の仕事ぶりが窺いしれる。

いか墨ぎんなんはイカ墨が加わり、しっとり、ねっとりとしたすり身と、ほくっとした食感の銀杏が印象的だ。闇夜にぽっと輝く月を見ているような芸術的な外観もすばらしい。

いんげん天は細長い形状の場合が多いが、『三ツ星』では円状になっている。すり身はつなぎ程度でインゲンがふんだんに使用されている。そのためインゲンの独特な爽やかな香りとしゃきしゃきとした食感を楽しめる。

あさり天にはたくさんのアサリが練り込まれている。ふわふわでねっとりしたすり身に、くにくにとしたアサリの食感がよく合っている。飲み込んだあとにふわっと漂うアサリの香りがすばらしい。

春菊天は魚のすり身に春菊がふんだんに練り込まれている。口に運ぶごとに春菊の芳香が広がる上品なひと品だ。おでんだけでなく、蕎麦やうどんにのせたり、そのまま食べてもおいしいだろう。

蛸巻は飯蛸を使った珍しい種だ。筒状の上部分はすり身のみとなる。大ぶりのイイダコはもうまみがぎっしり詰まっており、柔らかく食べやすい。もちもちしたすり身と一緒に味わえば、さらにおいしさが倍増する。

コーン天はひと口噛み締めるだけでとうもろこしの甘みが洪水のように押し寄せる。魚のすり身とよく絡み、ふくよかなおいしさに思わず笑みがこぼれることだろう。

うずら巻は海苔がすり身に混ぜ込まれている。非常に風味が豊かで味わい深く仕上がっており、まろやかなうずらの味を引き立てている。

えび巻は定番の種だが、最近見かけることが少なくなった。『三ツ星』のエビ巻はジューシーなエビのうまみを堪能できる。ぷりっと肉厚で味わい深く、魚のすり身によっておいしさが引き立てられている。

『はんぺい 三ツ星』は富山と愛知で培った味を守り続ける一方で、新しい揚げ蒲鉾の開発にも取り組み続けている。新天地となる稲毛でも受け入れられ、今後はふるさとの味として定着していくことだろう。冬になったら再訪し、店頭で調理するおでんを味わってみたいと思う。

『はんぺい 三ツ星』の基本情報

『はんぺい 三ツ星』
〒263-0043 千葉県千葉市稲毛区小仲台2-8-12
03-3800-0328
定休日:月、水、木、土(夏季)、木曜(冬季)
営業時間:11:00~20:30

取材・文・撮影=東京おでんだね