半澤隊員がすすめる! 甘みが辛さを引き立たてる絶妙な麻婆丼

半澤

「攻撃の突破口を開くために あるいは敵の出足を止めるため 左パンチをこきざみに打つこと」。これはマンガ『あしたのジョー』で、丹下段平が「ジャブ」の大切さを伝えるために、矢吹ジョーに送ったハガキの一文である。『中華屋 啓ちゃん』のマーボー丼を初めて食べたとき、この一文を思い出した。麻婆丼というものは辛さというパンチ力勝負のメニューだと思っていたが、啓ちゃんのマーボーには砂糖が入り甘みが強い。これが見事なジャブとして突破口を開き、豆板醤を使ったピリ辛ソースの右ストレートがより効いてくる。ジャブ・ジャブ・そしてストレート。甘いと辛いのパンチの応酬は濃厚だけど爽やかという複雑な味わいを生み出し、一杯の丼を食べ終わる頃には誰もがノックアウトされてしまう。甘いのに、いや甘いからこそパンチ力抜群。強い、強すぎるよ『啓ちゃん』!

濃厚で万人に好かれる、師匠譲りの『中華屋 啓ちゃん』のマーボー丼

豆板醤、醤油、そして砂糖。ニンニクと中華スープ。それだけ聞くとシンプルそうだが『中華屋 啓ちゃん』のマーボー丼750円は実に複雑な味わいだ。濃厚、パンチが効いて男性的。でもこのスパイシーさと風味のよさは女性も絶対ハマる。

万人がおいしいと叫びたくなるこの味は、店主幸田啓さんが修業していた中野富士見町の名店『尚チャンラーメン』のマーボー丼をベースとしている。「僕自身も好きで、まかないでよく食べていましたね」と幸田さん。『尚チャンラーメン』では自分のまかないを作るのが、料理人としての第一歩。納得のいく味が作れるようになってから、お客に料理を出すシステムだったという。

のれん分け文化を令和に継ぐ貴重な店

店主・幸田啓さん(右)と竹村皓太さん。この名コンビゆえに、通し営業かつずっと混雑するという店が成り立っている。チームワークの良さと、気持ち良い接客にもぜひ注目してほしい。

この『尚チャンラーメン』出身の町中華はほかにもあり、福島県南相馬市には幸田さんの兄弟子の店『尚ちゃんラーメン』がある。2018年にオープンした高円寺『中華屋 櫂ちゃん』と合わせ、町中華探検隊では「ちゃん系」と呼んでいて、今の時代に珍しいのれん分けの町中華として注目してきた。「『尚チャン』で働いていたメンバーは今もつながっていて、仲がいいですね」と幸田さん。

そう、町中華=昭和レトロではない。平成生まれの店も多いし若い人がやっている店もある。『中華屋 啓ちゃん』は今年で10年目を迎えるが、これまでの年月は序章にすぎない。これから何十年と、町中華文化を未来に引き継いでいくはず。今度はこの店からのれん分け、新たな「ちゃん系」の登場。そんなニュースが届くことを楽しみにしている。

赤みそと白みそをブレンドし、花がつおで出汁をとった上品な風味。その一方で、豆板醤がしっかりインパクトを残す。みそつけ麺800円も幸田さんが修業時代からまかないでよく食べていたという一品。
ただでさえ繁盛店なのに現在は「Uber Eats」にも対応。店内には鍋を振る音が絶えず響き渡り、活気にあふれている。コの字のカウンターから忙しそうな啓ちゃんの姿を見るのもこの店の楽しみ方の一つだ。
食券機システムを採用。メニューがあふれてしまい、一部のメニューは「同額の食券」で対応という独自のスタイルをとっている。最近はPayPayも導入と、若い店らしくテクノロジーも活用中。

荻窪『中華屋 啓ちゃん』店舗紹介

住所:東京都杉並区天沼3-31-35/営業時間:11:30~23:00LO(日は~22:00LO)/定休日:月/アクセス:JR中央線・地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩6分

取材・構成=半澤則吉 撮影=山出高士