「流山って何があるの?」なんて考えていた

赤い三角屋根が可愛らしい流山駅。自動改札機がなく切符で入場。牧歌的な雰囲気だ。
赤い三角屋根が可愛らしい流山駅。自動改札機がなく切符で入場。牧歌的な雰囲気だ。

出身地の松戸を離れたのは、もう20年も前だ。当時は、つくばエクスプレスもまだ開通しておらず、夜になれば天の川がきれいに見えたことを覚えている。

失礼を承知で言えば今回、界隈を歩くまでは「流山って何があるの?」なんて考えていた。そんなわけで、とりあえず降り立ってみた流山おおたかの森の恐竜的進化に、度肝を抜かれたことは言うまでもあるまい。

この地で命を落としたと言われる新選組局長・近藤勇。本町には彼が過ごした陣屋跡が残る。
この地で命を落としたと言われる新選組局長・近藤勇。本町には彼が過ごした陣屋跡が残る。

「わかります。昔は何もなかったですもんね」とは、『央製パン堂』店主の梅澤和矢さん。生まれも育ちも流山の地元っ子だ。「にぎやかになったのはうれしいけれど、まだ変化に戸惑っている自分もいます」と頭をかく。対して、大阪出身で流山歴17年の妻・正恵さんは、「新しく来た人たちは、自分たちの街を面白くしようと動いている」と、別の視点から街を見つめる。「つい先日、近所の小学校から『生徒考案レシピのパンを店で販売してくれないか』って相談がありました。そういうの、すごくいいなと思ったんです」。どうやら、人の流入とともに新しい試みも増えたようだ。

「流山キッコーマン」の外壁は、「流山本町まちなかミュージアム」になっている。白みりん誕生200周年の記念の壁画が描かれる。
「流山キッコーマン」の外壁は、「流山本町まちなかミュージアム」になっている。白みりん誕生200周年の記念の壁画が描かれる。

「昔から暮らしている人の方が『この辺りは、何もないからねえ』と話す気がします」とは、子育てを機に流山へ移住した『machimin』スタッフのはしもとあやさん。「歴史的な街並みとか豊かな自然とか、外から来た私たちからすると、『住み始めた街に、こんなにいろいろあって、ラッキー!』って感じなんですよ」。なるほど、そうした転入者の客観的目線と探求心によって、地元の人々が街の魅力を再認識し、ともに盛り上げようという動きにつながっているようだ。街を彩る切り絵行灯や吊るし雛といった伝統文化の発信も、新旧の住民が手を取り合って、さらに広がりを見せている。

野田との境にあたる利根運河。このあたりは、早朝には朝もやがかかり、風情を増す。
野田との境にあたる利根運河。このあたりは、早朝には朝もやがかかり、風情を増す。

新しいことを始めやすい、隙間と余裕にあふれる街

「正直、ウチはちょっと街から浮いてる気もするんです」とは、『CYCLO』の福田博さん。グラフィックデザイナーの経験から「配合を数値で捉えておいしいものを作れる」と、ドーナツを看板商品に選んだ。店構えも、界隈にはないおしゃれな雰囲気だ。「でも、みんな外から人が来てほしいと思っている。ローカルだけど排他的ではない。だから、流山って新しいことを始めやすいんだと思います」。言われてみれば、『宝物とリボン』の花井典子さんも『松まる』の松田美弥さんも、「私、これが好き!」をカタチにした人たちだ。

利根運河のほとりには、幸福の神様・ビリケンさんが。地域の繁栄を願って建立されたという。
利根運河のほとりには、幸福の神様・ビリケンさんが。地域の繁栄を願って建立されたという。

「店づくりをしてる時から、声をかけてくれたり、差し入れをくれたりする方もいたんです。温かい街ですよ〜」と、花井さんは目を細める。確かに受け入れる力、半端ない。

日が傾き始めると、街中の切り絵行灯に火がともり、闇夜を幻想的に照らし出す。
日が傾き始めると、街中の切り絵行灯に火がともり、闇夜を幻想的に照らし出す。

外から吹き込む風が古き土壌を潤し、街に活気を与えている。自分たちの街を作ろうとするパワーと、ほのぼのとした人情が相まって、不思議な熱が生み出されている。いやはや「何があるの?」とか思ってスミマセン!すっかり流山、大好きです!

流鉄流山駅付近の江戸川の夕景。中州の樹木のシルエットが郷愁を誘う。
流鉄流山駅付近の江戸川の夕景。中州の樹木のシルエットが郷愁を誘う。
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machimin(まちみん)

駅となりの寄り合い場から、街を知る

「近くを散歩してて」と、ふらり現れた青年たちは、時間を忘れて花札に熱中していた。
「近くを散歩してて」と、ふらり現れた青年たちは、時間を忘れて花札に熱中していた。
ひとつずつ手作りの流鉄車両缶バッジ300円や流山駅Aセット1700円などのグッズも販売。
ひとつずつ手作りの流鉄車両缶バッジ300円や流山駅Aセット1700円などのグッズも販売。

流鉄タクシーの車庫として使われていた建物を改装した、コミュニティスペース兼観光案内所。「始めた頃は知らないことばかりで」と、創業メンバーのはしもとあやさん。住民と対話をしながら、街の魅力を発信中。

・10:00~16:00(日によって変更あり)。
・☎なし

あかり館@雑貨konocono

あたたかな灯に心癒やされて

たまごの針刺し1980円やサメのがま口2750円など、可愛らしい見た目の小物も販売する。
たまごの針刺し1980円やサメのがま口2750円など、可愛らしい見た目の小物も販売する。

店内を彩る美濃和紙の灯りが圧巻。目を奪われていると「2階の座敷で休んでいって」と、店主の工藤浩美さん。自家製パンやコーヒーでしばしくつろぐ。

・10:00~16:30LO(予約パンの受け取りは~17:30)、日・月・火・毎月最終土休。
・☎04-7150-3131

和菓子や めい月

無限に広がる甘みの奥深さに驚き

「季節の和菓子もたくさん揃えています」。
「季節の和菓子もたくさん揃えています」。
豆大福180円、季節の干し菓子350円、くるみゆべし260円。日々、研究を重ねて商品開発にいそしむ。
豆大福180円、季節の干し菓子350円、くるみゆべし260円。日々、研究を重ねて商品開発にいそしむ。

店主の稲葉なつきさんは「素材はシンプルなのに、味の奥行きは終わりが見えない」と、和菓子の魅力にとりつかれ、赤坂の老舗で修業を積み、2022年12月に開業した。口当たり柔らかで、かすかなしょっぱさが後を引くくるみゆべしは、外せぬ一品。

・10:30~17:00、月・火休。
・☎04-7128-5047

赤城神社

こんなところに流山の地名の由来が

本殿は、住宅地の真ん中の小高い山の上に立つ。大昔に群馬県赤城山の一部が崩れ、この地に流れ着いたという逸話から、「流山」と呼ばれるようになったとか。鳥居には、毎年10月に近隣住民が協力して作り上げる大きなしめ縄が。その迫力に圧倒される。

・境内自由。

CYCLO(シクロ)

サイクリストの宿り木カフェ

「体が元気になるドーナツがたくさんあるよ~」
「体が元気になるドーナツがたくさんあるよ~」
サイクリング仕様の手提げも人気だ。
サイクリング仕様の手提げも人気だ。
左上から時計回りに、フルショコラ457円、ハンドドリップコーヒー500円、ストロベリー305円、グルテンフリー340円~。
左上から時計回りに、フルショコラ457円、ハンドドリップコーヒー500円、ストロベリー305円、グルテンフリー340円~。

自身もサイクリストである店主の福田博さんは、「自転車乗りの拠点をつくろう」と、妻の千絵さんと地元の流山で開業。気付け薬代わりのハンドドリップコーヒー、栄養補給のドーナツなどすべてサイクリングがフックになっている。

・10:00~17:00、月・火休。
・☎04-7128-4961

央製パン堂

耕作地に立つ白い建物が目印

左から時計回りにロデヴ・フリュイ340円~、パンオレ295円、バゲット・ドラディッション350円、クロワッサン230円。
左から時計回りにロデヴ・フリュイ340円~、パンオレ295円、バゲット・ドラディッション350円、クロワッサン230円。

「毎日、食べても飽きないパンを」と、店主の梅澤和矢さん。最低限の素材で作るシンプルな味わいのパンが人気だ。入り口には冷凍パンの自販機も。「営業時間以外も買えちゃいます」と、妻・正恵さんがほほ笑む。

・9:00~15:00、日・月・火休。
・☎04-7150-2066

Tou+ plants(トウタス プランツ)

暮らしを彩る観葉植物をマッチング

店主の佐藤康昭さんは、インテリアショップ出身。「植物×鉢×部屋」をテーマに、その人の暮らしに合わせたアイテムを選ぶ。店内を見渡せば、ドクロ型の鉢など、エッジの効いたものもあり、オモロイ!

・10:00~19:00(土・日・祝は12:00~18:00)、木休。
・☎04-7114-2980

宝物とリボン

強すぎるたい焼き愛にアッチッチ!

スパイスが効いた自家製クラフトコーラ450円。追いバターたい焼き320円。
スパイスが効いた自家製クラフトコーラ450円。追いバターたい焼き320円。

ギフト会社を営む花井典子さんは「たい焼きが好きすぎる!」と、流山に移住して専門店を開業。まず味わうべきは、追いバターたい焼き。出来たてアツアツに、カルピス発酵バターを合わせれば、やみつきだ。

・10:00~15:00、祝休(月は不定休あり)。
・☎050-1478-8414

食事処 松まる

とにかく明るい地元民の憩いの場

「カウンターに座ったら家族も同然の扱いです~」
「カウンターに座ったら家族も同然の扱いです~」
人気のマグロ刺し1078円に合わせるなら、日本酒550円100㎖を飲み比べで。
人気のマグロ刺し1078円に合わせるなら、日本酒550円100㎖を飲み比べで。
運が良ければ出合えるシマアジの釜揚げ650円も絶品だ。
運が良ければ出合えるシマアジの釜揚げ650円も絶品だ。

「料理好きが高じて品数増やしたら、てんてこまい」と、笑うのは女将の松田美弥さん。多彩なつまみや酒も絶品だが、元気なスタッフも名物だ。常連衆の輪の中に入ってしまえばさあ大変。楽しさに時間を忘れ、深酒だ。

・11:30~14:30・17:00~22:30、水休(土・日は昼休)。
・☎04-7199-9442

カフェ&バル蔵ごころ

明治に建てられた蔵で鹿児島名物に舌鼓

「流山のみりんハイボールもおすすめです」。
「流山のみりんハイボールもおすすめです」。
昼はデリ3品を選べるデリセレクトランチ1200円。こぼれ梅、流山産の春キャベツなど、地産食材を使った品も。
昼はデリ3品を選べるデリセレクトランチ1200円。こぼれ梅、流山産の春キャベツなど、地産食材を使った品も。

「地元・鹿児島の料理と今暮らしている流山の食材の両方を知ってほしくて」と、店主の小園直史さん。鹿児島直送の地鶏の刺し身をつまみに焼酎をやれば、自然と頬が緩む。ゆったりと流れる時間が心地よい。

・11:00~15:00・17:30~22:30、月休(日夜・木昼休)。
・☎04-7197-3116

取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2023年4月号より