「流山って何があるの?」なんて考えていた
出身地の松戸を離れたのは、もう20年も前だ。当時は、つくばエクスプレスもまだ開通しておらず、夜になれば天の川がきれいに見えたことを覚えている。
失礼を承知で言えば今回、界隈を歩くまでは「流山って何があるの?」なんて考えていた。そんなわけで、とりあえず降り立ってみた流山おおたかの森の恐竜的進化に、度肝を抜かれたことは言うまでもあるまい。
「わかります。昔は何もなかったですもんね」とは、『央製パン堂』店主の梅澤和矢さん。生まれも育ちも流山の地元っ子だ。「にぎやかになったのはうれしいけれど、まだ変化に戸惑っている自分もいます」と頭をかく。対して、大阪出身で流山歴17年の妻・正恵さんは、「新しく来た人たちは、自分たちの街を面白くしようと動いている」と、別の視点から街を見つめる。「つい先日、近所の小学校から『生徒考案レシピのパンを店で販売してくれないか』って相談がありました。そういうの、すごくいいなと思ったんです」。どうやら、人の流入とともに新しい試みも増えたようだ。
「昔から暮らしている人の方が『この辺りは、何もないからねえ』と話す気がします」とは、子育てを機に流山へ移住した『machimin』スタッフのはしもとあやさん。「歴史的な街並みとか豊かな自然とか、外から来た私たちからすると、『住み始めた街に、こんなにいろいろあって、ラッキー!』って感じなんですよ」。なるほど、そうした転入者の客観的目線と探求心によって、地元の人々が街の魅力を再認識し、ともに盛り上げようという動きにつながっているようだ。街を彩る切り絵行灯や吊るし雛といった伝統文化の発信も、新旧の住民が手を取り合って、さらに広がりを見せている。
新しいことを始めやすい、隙間と余裕にあふれる街
「正直、ウチはちょっと街から浮いてる気もするんです」とは、『CYCLO』の福田博さん。グラフィックデザイナーの経験から「配合を数値で捉えておいしいものを作れる」と、ドーナツを看板商品に選んだ。店構えも、界隈にはないおしゃれな雰囲気だ。「でも、みんな外から人が来てほしいと思っている。ローカルだけど排他的ではない。だから、流山って新しいことを始めやすいんだと思います」。言われてみれば、『宝物とリボン』の花井典子さんも『松まる』の松田美弥さんも、「私、これが好き!」をカタチにした人たちだ。
「店づくりをしてる時から、声をかけてくれたり、差し入れをくれたりする方もいたんです。温かい街ですよ〜」と、花井さんは目を細める。確かに受け入れる力、半端ない。
外から吹き込む風が古き土壌を潤し、街に活気を与えている。自分たちの街を作ろうとするパワーと、ほのぼのとした人情が相まって、不思議な熱が生み出されている。いやはや「何があるの?」とか思ってスミマセン!すっかり流山、大好きです!
machimin(まちみん)
駅となりの寄り合い場から、街を知る
流鉄タクシーの車庫として使われていた建物を改装した、コミュニティスペース兼観光案内所。「始めた頃は知らないことばかりで」と、創業メンバーのはしもとあやさん。住民と対話をしながら、街の魅力を発信中。
・10:00~16:00(日によって変更あり)。
・☎なし
あかり館@雑貨konocono
あたたかな灯に心癒やされて
店内を彩る美濃和紙の灯りが圧巻。目を奪われていると「2階の座敷で休んでいって」と、店主の工藤浩美さん。自家製パンやコーヒーでしばしくつろぐ。
・10:00~16:30LO(予約パンの受け取りは~17:30)、日・月・火・毎月最終土休。
・☎04-7150-3131
和菓子や めい月
無限に広がる甘みの奥深さに驚き
店主の稲葉なつきさんは「素材はシンプルなのに、味の奥行きは終わりが見えない」と、和菓子の魅力にとりつかれ、赤坂の老舗で修業を積み、2022年12月に開業した。口当たり柔らかで、かすかなしょっぱさが後を引くくるみゆべしは、外せぬ一品。
・10:30~17:00、月・火休。
・☎04-7128-5047
赤城神社
こんなところに流山の地名の由来が
本殿は、住宅地の真ん中の小高い山の上に立つ。大昔に群馬県赤城山の一部が崩れ、この地に流れ着いたという逸話から、「流山」と呼ばれるようになったとか。鳥居には、毎年10月に近隣住民が協力して作り上げる大きなしめ縄が。その迫力に圧倒される。
・境内自由。
CYCLO(シクロ)
サイクリストの宿り木カフェ
自身もサイクリストである店主の福田博さんは、「自転車乗りの拠点をつくろう」と、妻の千絵さんと地元の流山で開業。気付け薬代わりのハンドドリップコーヒー、栄養補給のドーナツなどすべてサイクリングがフックになっている。
・10:00~17:00、月・火休。
・☎04-7128-4961
央製パン堂
耕作地に立つ白い建物が目印
「毎日、食べても飽きないパンを」と、店主の梅澤和矢さん。最低限の素材で作るシンプルな味わいのパンが人気だ。入り口には冷凍パンの自販機も。「営業時間以外も買えちゃいます」と、妻・正恵さんがほほ笑む。
・9:00~15:00、日・月・火休。
・☎04-7150-2066
Tou+ plants(トウタス プランツ)
暮らしを彩る観葉植物をマッチング
店主の佐藤康昭さんは、インテリアショップ出身。「植物×鉢×部屋」をテーマに、その人の暮らしに合わせたアイテムを選ぶ。店内を見渡せば、ドクロ型の鉢など、エッジの効いたものもあり、オモロイ!
・10:00~19:00(土・日・祝は12:00~18:00)、木休。
・☎04-7114-2980
宝物とリボン
強すぎるたい焼き愛にアッチッチ!
ギフト会社を営む花井典子さんは「たい焼きが好きすぎる!」と、流山に移住して専門店を開業。まず味わうべきは、追いバターたい焼き。出来たてアツアツに、カルピス発酵バターを合わせれば、やみつきだ。
・10:00~15:00、祝休(月は不定休あり)。
・☎050-1478-8414
食事処 松まる
とにかく明るい地元民の憩いの場
「料理好きが高じて品数増やしたら、てんてこまい」と、笑うのは女将の松田美弥さん。多彩なつまみや酒も絶品だが、元気なスタッフも名物だ。常連衆の輪の中に入ってしまえばさあ大変。楽しさに時間を忘れ、深酒だ。
・11:30~14:30・17:00~22:30、水休(土・日は昼休)。
・☎04-7199-9442
カフェ&バル蔵ごころ
明治に建てられた蔵で鹿児島名物に舌鼓
「地元・鹿児島の料理と今暮らしている流山の食材の両方を知ってほしくて」と、店主の小園直史さん。鹿児島直送の地鶏の刺し身をつまみに焼酎をやれば、自然と頬が緩む。ゆったりと流れる時間が心地よい。
・11:00~15:00・17:30~22:30、月休(日夜・木昼休)。
・☎04-7197-3116
取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2023年4月号より