三鷹で15年続く隠れた焼き菓子の名店

三鷹駅から歩いておよそ15分。個人経営のパン屋さんやスタンド形式のカフェなど、個性あふれるお店が建ち並ぶ三谷通り商店会の一角に、知る人ぞ知る焼き菓子の人気店がある。その名も『焼き菓子co-ttie』。店主の小笠原朋子さんがお菓子作りから販売までを一人で切り盛りしている。

この店が創業したのは2008年のこと。OLから製菓業界への転身を決意した小笠原さんは、昼間は町のお菓子屋さんで現場修業を積みながら、夜は製菓学校でお菓子作りの基礎を学ぶ日々を送る。その後は、都心のフレンチレストランやイタリアンレストランで、パティシエとして多岐に渡る経験を経てきた。

「イタリアンレストランで働いていた頃は、パティシエが私一人だったので、デザートメニューの企画から製造まで、すべてを担当していました。提示された予算の中で、原価や利益率などを計算しながら新メニューを考えるような経験ができたことは、その後の独立にもとても役立ったと感じています」と小笠原さん。

生菓子を扱うことが多いレストランでの仕事を続けてきたなか、なぜ焼き菓子で独立することを選んだのか。尋ねてみると、「焼き菓子が好きだから」というシンプルな答えが返ってきた。美しくきらびやかなデコレーションを施したケーキやパフェなどに代表される生菓子と比較すると、目立たない存在と捉えられがちな焼き菓子。小笠原さんは、そんな一見「派手さはないけど、しみじみおいしい」焼き菓子が自身の原点になっていると話す。

とは言え、お菓子屋さんとして店を営むにあたり、「自分の好みだけを押し付けることはしたくない」という理由から、プリンやロールケーキ、チーズケーキなどの生菓子も提供している。しかし、そのどれもがデコレーションなどは一切なく、シンプルな見た目で統一されているのも、小笠原さんの焼き菓子への想いが表れているようだ。

地に足のついた、安定したお菓子を目指して

お客さんが二人も入ればいっぱいになってしまうような、こぢんまりとした店内には、看板商品のフィナンシェをはじめ、パウンドケーキやクッキー、季節の果物を使ったタルトなど、種類豊富なお菓子が並ぶ。そのひとつひとつを作り出すうえで、小笠原さんが大切にしているのは温もりだ。

「私は、小さい頃から母の手作りのおやつで育ってきたんです。ポテトチップスとか、たい焼きとか、手間のかかるものも全部一から作ってくれて。上手い下手は別にして、手作りのものには愛情みたいな温かさを感じますよね。なので、私も着飾ってはいないんだけれども、しみじみ温もりのようなものを感じられる焼き菓子をお出ししたいなと思っているんです」。

※2023年1月時点のラインナップ。
※2023年1月時点のラインナップ。

焼き菓子に使う素材も、白砂糖の代わりにきび砂糖や三温糖を採用するなど、食べる人を思いやる心遣いが感じられる。そんなこの店のお菓子は、すべて小笠原さんが理想とする仕上がりに基づいて、独自に配合された完全オリジナルのレシピをもとに作られている。

そのため、通常は金塊を模した長方形の型を使って作られるフィナンシェも、理想の配合で作るには小判形の型が適していたのだそう。「たまに洋菓子に精通するお客様から、ご指摘を受けることもあるのですが……」と話す小笠原さんだが、それぞれのお菓子の定義も踏まえたうえで、自身のこだわりを貫いているのだ。

「これからも変わらずに自分の店の味を作り続けたい」と話す小笠原さん。店を始めて、早15年。その間ほぼ新作は出さずに、季節でお菓子の入れ替えを行いながら営んでいる。その背景には、定番のお菓子たちが店を彩る「顔」となることで、お客さんに落ち着いた安心感を届けたいという想いがある。この味が食べたいと思った時に、変わらずそこにある安心感――。それこそが、この店の一番の魅力なのかもしれない。

『焼き菓子co-ttie』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市西久保2-25-15/営業時間:12:00~18:00/定休日:月・木・第3日/アクセス:JR三鷹駅から徒歩13分

取材・文・撮影=柿崎真英