伊豆にある自家焙煎所で厳選した豆を炭焼するこだわりの珈琲
1991年にオープンした『備屋珈琲店』は、ローストビーンズ色とオフホワイトを基調にした落ち着いた雰囲気で、希少なアンティークカップやお皿や絵画が店内を飾り、カフェというよりは上質な喫茶店の佇まいだ。
平日の昼下がりに訪れると、店内はお客さんでいっぱい。穏やかな話し声があちらこちらから聞こえてくる。
「カウンターへどうぞ」と案内してくれたのはチーフマネージャーの有賀孝行さん。コーヒーを淹れながら「恵比寿店のほか、伊豆高原店と伊東駅前に自家焙煎工房もあります。名物は厳選した豆を炭焼したコーヒーとビーフシチュー。オーナーがこの店のルーツである、銀座・数寄屋橋通りにあった「楽亭」の賄いに度々登場していたシチューを、いつか世に出したいという願いが『備屋珈琲店』で実現しました」と解説してくれた。
有賀さんは約20年前に入社し自家焙煎事業の立ち上げに携わった。自らコーヒー豆のセレクトや管理、ブレンディングを伊豆にある自家焙煎工場で行っている。
「最高・最良の厳選した生豆を使用しています。しかも、地域や農園指定のスペシャルティコーヒーだけです。炭火焙煎は焼く時の温度管理や仕上げ時が難しく大変ですが、それでも炭焼きにこだわりをもっておいしい珈琲を提供したいと考えています。店で提供するのは焼いてから1週間以内の豆のみ。オーダーを受けてから1杯ずつ豆を引き、ハンドドリップで抽出して提供させていただきます」と有賀さん。
自分好みのステキなカップで至高のコーヒーをいただく。誰かと一緒に来るのもいいけれど、カウンターに座り、有賀さんが優雅なお点前でハンドドリップしている様子をぼんやりと眺めながらコーヒーを飲むのもいいな。
しっかり甘くてコーヒーに合う! もっちりむっちり固めのバニラカスタードプリン
おいしいコーヒーを飲んだら甘いものも欲しくなるのがセオリー。メニューを見ながら悩んでいると、有賀さんが「どれもコーヒーに合いますよ」とにっこり微笑む。
エア(空想)で試食してみて、いちばんときめいたバニラカスタードプリン800円を選んだ。「けーきせっとにするとケーキ代プラス450円でドリンクがついてきますよ」と有賀さんがおすすめしてくれたので、また備屋流珈琲をお願いした。
改めて飲んでもやっぱりこのコーヒーはおいしい。1杯につきたっぷり25gもの豆を使用しているという。有賀さんは「ほかの喫茶店に比べると豆をリッチに使っている方かもしれません。香りが良いけどスッキリとした飲み口になるようにドリップしています」と語る。
喫茶店のプリンといえば釣鐘型が定番だが、こちらはまるでケーキのような佇まい。スプーンを入れると程よい抵抗感がある。これはイイ予感……! 筆者が好きなもっちり、むっちり、固めで濃厚な卵の味がする。黒蜜のように濃厚なカラメルソースは糸を引かんばかりの粘度でプリンと合わせてしっかり甘い。
また、隣のバニラアイスもバニラビーンズを贅沢に加えた濃厚なミルキーテイスト。
オーソドックスなプリンだが、実はケーキメニューの中では最も新しく、2019年に誕生したそうだ。
「コーヒーをはじめ、ドリンクに合うよう作っています。青森・奥津軽産のプレミアム卵を使っているんですよ。このプリンは3層になっていて、上から3分の2は卵が濃い部分です。蒸し焼きにして作っていますが、作り方が特殊であまり数が出せないんです」。
かなり手が込んだプリン。焙煎した香ばしいコーヒーの香り、プリンのカラメルの香ばしさと甘さがぴったりマッチ。そして濃厚な卵とミルクの味わいがふんわり溶けていく。最後はソース状になったバニラアイスとカラメルをプリンに絡めていただいた。うーん、最後までおいしい!
磯の香りがする! 伊豆産天草で作った豆かん天
『備屋珈琲店』のもうひとつの自慢といえば、寒天を使ったデザートだ。伊豆の海で取れた天草を煮溶かし、型に流して冷やし固めたものだ。これはなかなかお目にかかれない。
四の五の言わずにいただきましょう。伊豆天草の豆かん天850円をお願いします! ほどなくして到着した豆かん天はガラス細工みたいでキレイだ。
鈍く透き通った寒天が駿河湾の岸壁に波が砕けるように、口のなかで磯が弾け、黒蜜の甘さと塩気のあるえんどう豆が淡白な磯の味を引き立てる。熱いコーヒーで温められたところへ、ひんやりと喉を滑っていく豆かん天。先ほどのプリンと違ってあっさり味だからコーヒーに合うのかな? と疑っていたけどすごく合う!
筆者の様子を見て有賀さんが「おいしいでしょう? 常連さんは近所にお住まいの方や働いている方が多いんですが、だいたいコーヒーを飲んで、シチューと寒天を食べて帰るっていうのが定番なんですよ」と微笑む。
なるほど、それが鉄板コースですか。でも、コーヒーはもちろんのこと、メニューのひとつひとつを丁寧に作っているからきっとどれをオーダーしてもアタリなんだろうな。今度はビーフシチューを目当てに伺います!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢