日本橋の小さなイタリア料理店には高い志を持ったシェフがいる
洋食屋さんや喫茶店の懐かしメニューの代表であるナポリタン。もっちりとしたスパゲティとケチャップ味で多くの人から愛されるパスタだ。「昭和の味」「懐かしメニュー」で語られる機会が多いが、日本橋に、従来のそんなイメージとはちょっと違うナポリタンを出す店があると聞いて、さっそくランチタイムに行ってみることに。
東京メトロ日本橋駅から徒歩2分。『食堂ピッコロ』は日本橋郵便局の裏の江戸もみじ通り沿いにある。並行している昭和通りと違って、車の通りも少なく、静かな雰囲気だ。
店内はテーブル席が並び、隠れ家的なイメージもある居心地のよさそうな空間。
「10代の頃に飲食店でアルバイトをしているときに、料理をつくる楽しさや、『おいしいね』と言ってもらえることのうれしさを知って、小さな自分のお店を持とうと決心しました。その後、神田のイタリア料理店やバーなどで修業して、1999年に念願のお店を開店したんですよ」と教えてくれたのはオーナーシェフの小澤康志さん。
ピッコロは「小さい」という意味。「小さなお店」と、小澤さんの名字にも「小」が入っていることから、『食堂ピッコロ』という店名にしたそう。日本橋という場所を選んだ理由は「日本の道の起点だから、ここ日本橋にしたんです」。日本全国につながる場所を新しいお店のスタート地点に選ぶという高い志だ。
大人の味のナポリタンにはシェフのこだわりが詰まっている
それでは、本日の目的のランチメニュー・スパゲティナポリタン700円を注文する。プラス100円で大盛りにしようかと迷ったが、今回は初挑戦なのでまずは普通盛り。
ランチメニューのスパゲティプレートはナポリタンとシラスとキノコの2種類、ごはん系では自家製ロールキャベツ、ハンバーグ 和風おろしソース、ビーフとポテトのカレーライス、メキシカンチキンの4種類が用意されている。どれもおいしそうなメニューで心が動いてしまうが、今回は初志貫徹でナポリタンをいただく。
注文したスパゲティナポリタンが出される。ナポリタンと野菜サラダ、マカロニサラダ、さらににんじんとブロッコリーの温野菜が大きな皿にもられている。
さっそくナポリタンを一口食べると、甘みと酸味がほどよく合わさったトマト味が口の中に広がる。甘さ控えめで、まさに大人の味。トマトソースで酸味と甘みバランスを取っていて、さくさくおいしくいただける。
「ケチャップとトマトソースを混ぜているんです。トマトソースは自家製で、このナポリタンにあうように特別に作っています」と小澤シェフ。
スパゲティは細めの麺。茹で加減は、歯ごたえの残るアルデンテ。昔ながらのナポリタンのもっちり感とは違う食感で、これもこだわりと大人の味を感じる。
粉チーズは控えめにと聞いていたので、最初はそのままでトマトソースの味わいを楽しむ。半分くらい食べたところで、粉チーズをかけて味変。チーズをかけると酸味がおさえられ、トマトソースの味にさらに深みを感じる。
付け合わせのサニーレタスのサラダを一口いただくと、ドレッシングのおいしさにびっくり。聞いてみると「自家製ドレッシングなんです。マヨネーズと、隠し味で醤油を加えてあります」と小澤シェフ。なるほど、ここにもシェフのこだわりがある。
さらにマカロニサラダをいただくと、口の中にひろがる黒胡椒の風味が心地いい。トマトソースの味と、この付け合わせとのバランスもシェフのこだわりのひとつだろう。
ナポリタンは『食堂ピッコロ』が開店してからずっと人気のメニューだそう。今回、ランチでいただいて、その理由がわかった。昔ながらのナポリタンを否定せず、シェフのアイデアとイタリアンの経験をベースに新たに作ったのが、『食堂ピッコロ』のナポリタン。シェフのこだわりがつまった大人の味のナポリタン、大満足でした。
おいしいイタリアンだけではなく、みんなが集まれる空間を提供
『食堂ピッコロ』ではさまざまなイベントも開催している。今回訪問したときは、食堂ピッコロのキャラクターを描いたイラストレーターのとつかりょうこさんの作品展が開催されていた。
また、月に2回ほど落語家を招いて“ピッコロ寄席”を開催している。「日本橋という土地柄、落語に出てくる地名などがすぐ近くにあったりするので、親しみを感じるんです」と理恵さん。開催日には多くのお客さんでにぎわうそう。
おいしい料理を提供するだけでなく、さまざまなイベントを開催し、コミュケーションの場所としてお店を活用している小澤夫妻。おいしい料理をつくるには、料理へのこだわりとともに、まわりの人たちとのつながりが大切なんだと感じた。
大人の味のナポリタンに感激した筆者が、帰り際に「すごくおいしくて、大盛りにすればよかった」と理恵さんへ伝えたら、「メガ盛りもありますよ。プラス200円でパスタが2倍になります」との返事。うん、ここのナポリタンなら2倍でも食べられそうな気がする。次回はメガ盛りに挑戦しようと心に決めて、お店を後にした。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎