東急多摩川線 Local Line Data
かつて目黒と蒲田を結んでいた目蒲線の一部。2000年に目黒線と分離し、多摩川~蒲田間の7駅から成る路線として生まれ変わった。同じく多摩川の名を冠する西武多摩川線と区別するため「東急多摩川線」が正式名称となっている。
落ち着きある街並みにユーモアがチラリ
多摩川駅周辺は、凝った意匠の家々が並び、まるで別荘地のよう。沼部駅、鵜の木駅に向かうと、徐々に小さな商店街が現れ、昭和風情が香ばしく漂ってくる。この地で生まれ育った『とん清』店主の高橋利昌さんは、「昔は畑ばかりで、毎日富士山が拝めました。今では閑静な住宅地ですね」。どうやら、近隣に住民が増えたのは、ここ数十年の変化らしい。
下丸子駅を境に商店街はにぎわいを増す。明治初期創業の『北嶋屋』は、長らく瓶詰の酒の販売のみだったが、平成に入って量り売りスタイルに変えた。「もともと酒屋って量り売りなので」と、先代店主の北嶋教雄さん。手書きのオリジナルラベルも始め、原点回帰して進化も遂げている。また、2007年に行われた多摩川アートラインプロジェクトでは、沿線にあまたの現代アートが設置された。新田神社の境内にある石の卓球台もその一つで、毎日子供たちが遊ぶ。新たな日常も、生まれているのだ。
終着駅の蒲田に着くと一気にビルが増え、今までの下町風情とのギャップに脳が追い付かない。古墳が眠る多摩川からガッツリ繁華街の蒲田へ出る東急多摩川線は、街の移り変わりをのぞき見できるタイムマシンのような路線であった。
古墳マニア垂涎のスポット『多摩川台公園古墳展示室』[多摩川]
館内でまず目に飛び込むのは、巨大な古墳のイメージ模型。横穴式石室を持つ古墳を再現している。中には出土した土器や勾玉、太刀などのレプリカを展示。タイムスリップ気分でうっとり。
・9:00~16:30(入館は~16:00)、月休(祝の場合は開室)
・☎03-3721-1951
素通り不可能の面白ベーカリー『アヤパン』[沼部]
幼少期に観たサーカスに感動した店主の瀧本彩さん。「近隣のみなさんを笑顔に!」と、サーカスがコンセプトのパン屋を開いた。ライ麦の食パンといった定番と、日替わり品を豊富に揃える。イタリアン出身の夫・浩基さんの手作り総菜を挟んだバーガーも大人気。
・11:30~19:00、日~火休
・☎080-6564-8454
住宅地に隠れた名店で舌鼓『とん清 鵜の木店』[鵜の木]
ランチの定番はロースかつ定食1210円。「米油で揚げた生パン粉の衣が自慢です」とは、店主の高橋利昌さん。かぶりつけば、衣がサクサク音を立て、中の豚ロースはしっとり。甘みある肉汁に頬が緩む。セットの豚汁はゴボウの風味が優しく、密かな人気だ。
真っすぐ伸びるパイプの迫力「ガス橋」[下丸子]
昭和初期、東京ガスが鶴見製造所で製造したガスを東京へ送るために造られた。当初はガス管だけの橋だったが、のちに道が設けられ、人や自転車、リヤカーが往来。狭い道ではたびたび言い争いが起き、「けんか橋」と呼ばれていたことも。そんな風景も今は昔。橋にかかるガス管のワイルドさに、見とれるばかりだ。
呑んで、知って、贈って、深まる酒愛『世界で一つのプレゼント 北嶋屋』[武蔵新田]
「味わって、お気に入りを見つけてほしい」と、5代目店主の北嶋雄さん。先代・教雄(のりお)さんの頃から酒は全て量り売りで、5代目は角打ちも始めた。店奥の樽入り生原酒「新田浪漫」はここでしか味わえない。オリジナルラベルも作れるので、ぜひ沿線みやげに。
・13:00~18:00(金は~20:00、土は11:00~20:00)、木休
・☎03-3759-4210
境内ピンポンでスマッシュを決めろ!「新田神社」[武蔵新田]
破魔矢発祥の地、縁結びの御利益で知られる神社だが、境内に入って目を奪われるのは石の卓球台。沿線活性化の取り組み・多摩川アートラインプロジェクトの作品のひとつだ。「社務所でラケットを貸し出しているから、楽しんで~」と、宮司の品川宋久(むねひさ)さん。ハート絵馬や破魔矢おみくじなど、お守りもかわいらしい。
マグロを隅から隅まで食べ尽くせ!『和泉水産』[矢口渡]
三崎港や横浜中央市場直送のマグロを刺し身、丼にして店頭で販売。店の裏手は酒場で、刺し、焼き、揚げなどマグロずくめの肴がズラリ並ぶ。「ぜひこれを!」と、店主の嶋村貴人さんが勧めるのは、血合いや尾身といった希少部位のマグロ串。ビールのアテに最高じゃないか!
・11:00~21:00、月休
・☎03-6715-5992
取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2022年10月号より