サクサクなかつが話題を呼び、女性客でも気軽に来るように

歳を取れば取るほど、年々揚げ物料理は厳しくなっていくもの。特にとんかつのような肉料理は1度食べたら、若者はともかく、アラフォー世代ともなればしばらくは食べないという人も多いはず。ところが蒲田で50年以上、とんかつ屋として営業している『とん清』のとんかつはそうした脂っこさとは無縁のものとして、老若男女問わずに根強い支持を受けているという。

JR蒲田駅から歩いて2分程度。西口クロス通り商店街に面したところにある『とん清』。かつては東急プラザの7階で40年以上営業していたが、2014年から現在の地に移転。厨房を切り盛りする店主、高橋一郎さんはお店についてこう語ってくれた。

店名の上には「京風とんかつ」というキャッチが!
店名の上には「京風とんかつ」というキャッチが!

「店は『京風とんかつ』って銘打っているけど、もともとは創業者である叔父がおばんざいなどの京都の食文化が好きで、品のあるものを提供したいという思いからつけたんです。それもあって僕らもガッツリとしたかつというよりも、サクサク感が楽しめてサッパリとした味わいを引き続き守っていきたいと思っています」

お話を伺った高橋一郎さん。食材へのこだわりを貫き、先代からの味を継承している。
お話を伺った高橋一郎さん。食材へのこだわりを貫き、先代からの味を継承している。

とんかつのイメージからは程遠い「サッパリとした味わい」。言葉にするのは難しいが、取材直前まで来店していたお客さんは女性の方が多く、中にはひとり客も少なくなかった。男性客だけでなく、女性客にも受け入れられるという『とん清』のとんかつの秘密とはどんなところにあるのだろうか?

明るい雰囲気の店内はとんかつ屋というよりも洋風レストランの雰囲気も。
明るい雰囲気の店内はとんかつ屋というよりも洋風レストランの雰囲気も。

1日わずか10食程度!? 超激レア「特上ひれかつ定食」とは

とん清のメニューを開くと、定番のロースかつからひれかつ、中にはチーズ巻きかつやポテサラコロッケなどの個性的なメニューも数多く並んでいる。ランチタイムにはこれらのメニューを組み合わせてリーズナブルに楽しめるセットも人気を博しているが、中でも特上ひれかつ定食1980円の人気が高いという。

たっぷりの卵に肉をくぐらせた後、パン粉の中へ。このパン粉もあのサクサクの食感の源に。
たっぷりの卵に肉をくぐらせた後、パン粉の中へ。このパン粉もあのサクサクの食感の源に。

オーダーが入ると、高橋さんの表情が変わる。厳選された豚肉を打ち粉、卵、そしてパン粉へと順序良くつけていき、最後は油へ。最初は高温でジュっと揚げてから、中温へ移してじっくりと揚げるのが『とん清』流。しばらくすると、いい香りとともに見るからにサクサクなひれかつが目の前に現れた。

特上ひれかつ定食1980円。かつの旨味を最大限引き出すためにお米も味噌汁に使う味噌も見直したため、ひれかつとの相性も抜群だ。
特上ひれかつ定食1980円。かつの旨味を最大限引き出すためにお米も味噌汁に使う味噌も見直したため、ひれかつとの相性も抜群だ。

1日でわずか10食程度しか出せないという貴重な部位を使っている『とん清』の特上ひれかつ定食。なぜそれほどまでに少ないのかを店主の高橋さんに訪ねると、こんな答えが返ってきた。

ひれかつの断面をチェック! こんがりと揚がったきつね色のころもが美しい。
ひれかつの断面をチェック! こんがりと揚がったきつね色のころもが美しい。

「特上ひれで使っているひれ肉は通常のひれ肉の真ん中部分にある一番柔らかいところを厳選して使っています。大体、1本のひれ肉から1食分しか取れない貴重なものだから、どうしてもウチのお店でも1日10食分用意するのが精一杯なんですよ。ただ、このひれかつはぜひ食べてみてほしい。他の店のひれかつとはひと口目が決定的に違うと思うんですよ」

店主の高橋さんのお話を受けてから、カツをひとくち食べてみたが……確かにこの肉の味わいは抜群。豚肉ならではの甘みもあり、かといって硬すぎない。柔らかい肉質なうえ、衣もサクサクとしている。ひと口かじっているうちに、気が付けば、ご飯をワシワシとかき込んでいた。

「肉にも当然こだわっているけれど、漬物も自家製にしているし、ご飯も米にこだわって、定食としてトータルで楽しんでもらえるようにしています」

特製ソースをひれかつへ! ドレッシング代わりにキャベツにかけるのも○。
特製ソースをひれかつへ! ドレッシング代わりにキャベツにかけるのも○。

確かに佐渡米を使用しているというご飯に、具沢山でこれだけでもご飯が進む自家製の味噌汁など、定食として備えられているものもまた、特上ひれかつの味を引き立てているように思える。そして何より大事なのがこのソースである。

「詳細は教えられませんが、ソースはレモンやトマトケチャップなど数種類の材料を使って大きな鍋で混ぜて自家製でブレンドしています。通常のとんかつソースと比べるとちょっと甘めなので、ドレッシング代わりにキャベツの千切りにかける方も多いです」

噛みしめるたびに甘みが口に広がっていく特上ひれかつにピタリとマッチするソース。これもまたかつの味わいをより深めていく。これならリピーターが絶えないのも納得である。

お客様においしく食べてもらうため、ゼロベースですべてにこだわりを

ひと口噛めば、特上ひれかつの甘みが伝わり、ご飯がグイグイと進む。気が付けば、完食しているほどだったが、揚げ物料理を食べた後特有の満腹感はなく、むしろ心地いい気持ちに浸れる。そんなこだわりのとんかつを提供している高橋さんに、最後にお店のこだわりを伺った。

「定食の値段としてみると、もしかしてちょっと値が張るかもしれないけれど、僕たちのお店では美味しいものをお客さんに提供するように衛生面からこだわっています。なので、蒲田に来られた際はウチでゆっくりと食事を楽しんでほしいです」

サクサクに揚がったひれかつ同様、御主人のコメントもどこかカラッと明るい。毎日でも食べたくなる『とん清』のとんかつ、蒲田に来たらぜひチェックしておきたい。

住所:東京都大田区西蒲田7-45-4-1F/営業時間:11:00~15:00・17:00~20:00/定休日:無(月・水は昼のみの営業)/アクセス:JR・私鉄蒲田駅から徒歩2分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘