大のラーメンフリークが手がけた1号店
「今も食べ歩きは続けています」と渡辺さん。これだけ食べ歩いて飽きることはないのか聞いてみると、「今のところ飽きないですね。自分でもよくわからないですけれど、好きなんだと思いますよ」とひと言。
渡辺さんのラーメン好きは高校生時代に遡る。高校1年生の時に、渋谷にあったラーメン専門店「げんこつ屋」(現在は閉店)で食べた味にインパクトを受け、はまるきっかけになったという。独学でラーメン作りを行い、知人や友人に振る舞うようになり、大学生の頃にはラーメン専門店のプロデュースも手がけた。
26歳という若さで『渡なべ』を開業し、その斬新な味はラーメン業界からも注目を浴び、一躍業界の寵児となった。「お店をやろうと思った時に、サラリーマンも学生も、アイドルタイムにもお客さまが来るような場所というイメージがあった」と話す。
これまでにない1杯を求めて誕生した無化調のラーメン
ラーメンは、いわゆるWスープの豚骨魚介系。自家製の中細ストレート麺は濃厚なスープによく絡む。半熟の味玉はやさしい醬油の甘さが染みていて、おいしい。
開業ギリギリまで、どの味でいくのか迷っていたと渡辺さん。「無添加のラーメンを提供したいと思ってはいましたが、どの味でいくか当時は2つで迷ったんです。一つは、大学生の時に自分でおいしいのができたと納得した『永福町 大勝軒』の味を参考にしたもの。もう一つは未だ世の中にないラーメンにするか直前まで迷いました。結局、皆をびっくりさせようと思ってオリジナルの味である今のラーメンになりました」と話す。
使用する器も九州へのラーメン食べ歩き旅行の中で出合った小石原焼。既存のラーメンの器ではなくオリジナルものを求めていただけに、直感で購入を決めたという。「自分よりも若い陶芸家が作った作品で、その方の初作品というのも魅力的でした。第1号店にはぜひこの器がいいと思い、作ってもらうことにしたんです」と話す。
時代に左右されることなく日々進化し続ける
化学調味料を使わず素材の味を活かしたスープ、それに合った自家製麺、食材の産地や器まで徹底するという、今や標準とも思えるラーメンを『渡なべ』はすでに20年前から確固たるものとしている。
また毎年、開業周年に合わせて出す限定ラーメンは、“もっとおいしい渡なべ”というテーマで、いつもより素材を増量して力強い1杯を作りあげ、追究がやむことはない。
渡辺さんは「取材ではよく、この先どんなラーメンが流行りますかとか聞かれますが、実際のところ誰も予測がつかないんですよ。流行に左右されることなく、僕自身がおいしい、ワクワクするラーメンを作り続けていきたいと思っています」
20年もの間行列が絶えない理由は、渡辺さん自ら新たな需要や流行を生み出しているからかもしれない。
取材・文・撮影=千葉香苗、構成=アド・グリーン