今も昔も、はらぺこ大学生&サラリーマンの味方!
飯田橋駅西口から神楽坂方面に進んで横断歩道を渡り、外堀通りに沿って歩くこと1分、1966年創業の『神楽坂飯店』がある。青いテントには「一升炒飯・ジャンボ餃子・百ヶ餃子 挑戦受付中!」と書かれている。今や全国各地にある爆盛りメニューだが、その先駆けとなった伝説の店である。
店の中に入ると、にこやかに迎えてくださったのが、2代目店主でオーナーの竹鼻公和さん。竹鼻さんにこの店の歴史を教えていただいた。
「母がこの店を開店した頃、周辺にある東京理科大など学生たちが多かったの。当時は学食も今みたいに充実してなかったし、みんなお金がなかったから500円札を握りしめてうちへ来ていた。たまに社会人になった先輩が後輩たちを連れてきて、いっぱい食えって振る舞っていたりね(笑)」。
そういうことがあると餃子をチマチマ作っていても追いつかない。店を開店して2年後、当時中学生で、よく店の手伝いをしていた竹鼻さんが、「もう餃子100個分をひとつにしちゃえば?」って言ったのがジャンボ餃子の始まり。こののち次々と爆盛メニューが誕生していく。
「さらに母が『それを全部食べたらタダにしてあげるよ』と言ったのが始まりで、チャレンジメニューと呼ばれるようになりました。これが雑誌に掲載されると、いろんなところで取り上げられて、みなさんに知っていただくことができました。そのほか、一升炒飯は2.5kg、1杯に2玉入りを3杯のジャンボラーメンがあります」。
ただし、2022年6月現在チャレンジメニューはお休み中。時期を見て再開予定だというが、チャレンジメニューはジャンボ餃子9600円、一升炒飯5840円、ジャンボラーメン2250円の3種があり、それぞれ制限時間60分をひとりで完食する。チャレンジに成功すれば料金が無料になるうえ、店が発行する完食証明書を授与される。無料にはならないが、チャレンジメニューをみんなでシェアして食べることも可能だ。
あんかけだからさらさらと食べられる海老かけ炒飯
大食いにはとてもチャレンジできないので、適量をおいしくいただくとしよう。ランチはラーメン550円から、いちばん値段の高いメニューでもきくらげと玉子炒め定食830円。限定の麻婆丼650円にも惹かれたが、事前に調べて今日は絶対、海老かけ炒飯にすると決めてきた。エビは大好物だし、ネギとエビ、玉子チャーハンのコントラストも美しくておいしそう。いわゆる、一目惚れってヤツ……。
注文するや否や、5分と待たずに海老かけ炒飯がやってきた。は、早い!
やや塩が利いたあんには、プリップリのエビと、シャキシャキのネギがたっぷり。玉子チャーハンはふんわりとしている。あんとのバランスを考えてやさしい味付けだが、そのまま食べてもおいしい。
このメニューは、竹鼻さんが37年前にアイデアを出し、当時のコックにレシピを作ってもらったという。チャーハン好きにはパラパラ派もいるが、しっとりを通り越し“あんかけ”にした理由を伺った。
「まず、私はパラパラが好きじゃないんですよ。ポロポロこぼれて食べにくいでしょう? もともとうちのチャーハンはしっとりしているんだけど、さらにこれをあんかけにするとさらさらっと食べやすいんですよね」。
なるほど、確かにお茶漬け感覚で食べられる! ちなみにしょうゆあんの肉かけ炒飯730円もある。食欲がないときも、これならスルスルと口に運べそうだ。
2階客席を麻雀クラブに改装! 料理を食べながら遊べる店に
かつての神楽坂には花柳界があり、出版社や文化人、文壇人が多く、「金はないがうるさ型が多かった。でも面白い人が多かったよね」と竹鼻さん。
チャレンジメニューは、今ではすっかりエンターテイメントになったが、初代店主の「若い人たちにお腹いっぱい食べさせてあげたい」という心意気から生まれたものだった。
「だけど、最近の子たちは『ご飯少なめでいいです』って言うんです。大学はきっちり4年で卒業するし(笑)、とても静かでお利口で、お行儀がいいですよね。私たちが大学生のときは学生運動をしていた時代というのもありますが、学生たちや、神楽坂に当時住んでいたたくさんの文化人たちも、常にいろんなテーブルで議論が巻き起こってましたよ」。そういう光景は見られなくなったと寂しそうに語る竹鼻さんだった。
創業当時からほとんど同じスタッフで、メニューも変わることなく半世紀以上営業してきた『神楽坂飯店』も、コロナを機に新たな試みをすることになった。
僭越ながらキャッチコピーをつけさせていただけるなら“遊べる中華料理店”。コロナの影響で長らく閉鎖していた2階の客席を麻雀クラブにしたのだ。
「かつて麻雀は大学生の“必須科目”だったんですけど、今は“選択科目”のようで(笑)。神楽坂・飯田橋近辺にはたくさん雀荘があったんですけど、だいぶなくなってしまった。だから、麻雀する人が減ってるのかなと思ったら、スマホのゲームで麻雀してる人はけっこう多いんですよね。店の構造上、密になりやすいのでコロナになってからは2階を閉めていたんですけど、そういう流れもいいなと新しい形に生まれ変わりました」。
神楽坂をフィールドとする麻雀ファンの新たなエンタメスポットになりそう。これからは、ランチと一緒に頭のストレッチもどうぞ〜。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢