鳩サブレー

原材料は小麦粉、砂糖、バター、鶏卵、膨張剤とシンプル。大正時代に小児医博士が「離乳期の幼児食に最適」と推奨したことで、ヒットにつながった。4枚入り540円~。

鳩サブレ―が“鳩”なわけ

——鳩サブレーはどのような経緯で誕生したのですか?

広報 創業して3年くらい経った頃に外国人のお客様がいらっしゃったそうです。初代はその方からもらった焼き菓子を口にして、今まで食べたことのない味に感動したといいます。それで自分なりに再現してみようと独自のレシピを考えて、自分の舌を頼りに味を近づけていきました。そしてたどり着いたのが、鳩サブレーの原型です。

——当時から鳩の形を?

広報 試作品は丸い形でした。鶴岡八幡宮を崇敬し、かねてから八幡様にちなんだお菓子を作りたいと思っていた初代は、掲額に書かれた八幡宮の「八」の字が2羽の鳩をかたどっていることに気づき、鳩の形にしようと考えたんです。形状は現在も変わりませんが、一つだけ違うところがあります。それは尻尾に入ったライン。当初は2本でしたが、よりふっくらして見えるようにと、3代目が3本線にしたんです。

——鳩サブレーは、創業時からの商品ではなかったんですね。

広報 関東大震災で多くの資料が失われてしまって正確な記録はほとんど残っていませんが、現存する資料によると、和菓子屋として創業した当初は「古代瓦せんべい」が看板商品でした。今でも、形は小さくなりましたが、後継商品の「もののふ」があります。鎌倉には昔、武家屋敷がたくさんあって、当時の古瓦が出土しています。その古瓦がモチーフになっているのが「もののふ」です。

もののふ 12枚入り 846円。古瓦を模したデザインが印象に残る歯応えのいい瓦せんべい。
もののふ 12枚入り 846円。古瓦を模したデザインが印象に残る歯応えのいい瓦せんべい。

鳩サブレーは和菓子? 誰もが気になる謎にせまる

——ところで、鳩サブレーは和菓子なのでしょうか?

広報 同じように、「焼き菓子をヒントにしたのなら鳩サブレーは洋菓子なのでは?」という質問が届きますが、明治時代の日本で手に入れることのできた材料で作り上げた、「和」の心を持ったお菓子です。なので私たちは和菓子だと思っています。ちなみに、初代の頃にはバターは簡単に手に入らず、横浜の異人館まで足を運んだそうです。また、欧州航路から帰国した友人の船長に試作品を食べてもらったところ、「フランスで食べたサブレーというお菓子に似ている」という感想をもらい、初代はそこで初めて「サブレー」という言葉を知りました。日本人の「三郎」という名前に語呂が似ていたので、親しみを抱いたようです。そこから「鳩サブレー」と名付けられました。

昭和30年代の本店外観。若宮大路沿いの現在の店舗と同じ場所にある。
昭和30年代の本店外観。若宮大路沿いの現在の店舗と同じ場所にある。
若宮大路にある、現在の豊島屋本店。1階はお菓子売り場、2階にはギャラリー(現在休業中)がある。
若宮大路にある、現在の豊島屋本店。1階はお菓子売り場、2階にはギャラリー(現在休業中)がある。

——遊び心ある名前だったのですね。

広報 「三郎」という名前は、本店限定販売のグッズに生かされています。鳩サブレーそっくりの根付「鳩三郎」は、「鳩これくしょん」が始まった2002年からある商品です。この「鳩これくしょん」は、現社長の4代目が「もっと豊島屋に親しみを持ってもらおう、ファンになってもらおう」と始めたもので、そのきっかけは、缶入りの鳩サブレーを購入してくださったお客様から、「食べ終わった後に空いた缶を物入れにして使っている」という声をたくさんいただいたことでした。実は、「鳩これくしょん」は企画から製造まで4代目が極秘で進めています。発売直前まで、どんなグッズができたのか社員もわからないんです。

——サプライズがお好きなんですね!

広報 はい。みんなを楽しませたい、喜ばせたい、笑顔にしたいという気持ちがあるんです。例えば『鎌倉駅前 扉店』で2014年から始めたベーカリーには、キューブシリーズという商品があって、キューブ型のあんぱんには求肥が入っています。ライス入りのカレーライスパンもあります! これも元々は4代目のアイデアです。

創業以来受け継がれ、育まれてきた地元愛

—— その『扉店』でベーカリーを始めることになったのには、どのようなきっかけがあったのですか?

広報 戦後のことです。豊島屋は自分たちの電気釜を持っていたので、配給用のパンを作っていた時期がありました。しかし、あのご時世ではちゃんとした材料が手に入らず、おいしいパンができなかったと聞いています。ベーカリーをオープンさせた根幹には、実は、初代の「みんなにおいしいパンを」という思いがあるんです。現在、3階のパーラーで使うパンも、さらに『洋菓子舗 置石』のカフェで提供しているホットサンドも、こちらのベーカリーで製造しています。また、ベーカリーの豊島屋クロワッサンには、鳩サブレーに使われているものと同じバターを使っていて、それを目当てに来てくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。和菓子屋なので、キューブあんぱんやあんバターのあんこはもちろん自社製です。

——和・洋と、いろいろあるのが楽しいですね。

広報 地方に行くと、和菓子と洋菓子を一緒に販売している昔ながらの菓子店があります。弊社も以前はそうでした。しかし、それだと洋菓子の印象が強くなり、和菓子を表現しづらくなってしまいます。そこで、和と洋を分けるために本店の斜め向かいに『洋菓子舗 置石』をオープンしました。

——入り口の横で販売されているソフトクリームは、300〜400円台とリーズナブルです。普段のおやつとして地元の人々にも人気だとか。

広報 豊島屋は、鎌倉のみなさんに育てていただきました。その恩返しをするためにも、気軽に楽しんでもらえるようにこのような価格設定にしています。それに、まずは地元のお客様を大事にしないと、観光でいらしたお客様にも喜んでいただけないと思っています。そういえば、このソフトクリームには種類がいくつかあって、なかでも置石ミックスには、うちの「あの焼き菓子」を細かくしたものが練り込まれているんです。

——「あの」というのは……絶対あれですよね? 企業秘密でしたか!

広報 バレバレですよね(笑)。けれども、店舗のメニュー表にも、公式サイトの商品説明ページにも、あえてくわしいことは伏せて「あの焼き菓子」と書いているんです。お客様がそこに「絶対あれでしょう!」とツッコミを入れてくれたり、会話のネタにしてくれたりして、おもしろがってくれるとうれしいです。

—— あちこち細かいところにも遊び心が見えますね。本店の「鳩これくしょん」の陳列棚も、よく見ると鳩サブレーの形をしていました。

本店「鳩これくしょん」のメインの陳列棚は、上から見ると、ちゃんと鳩サブレー形!
本店「鳩これくしょん」のメインの陳列棚は、上から見ると、ちゃんと鳩サブレー形!

広報 店舗スタッフが着ている制服のデザインにも鳩が潜んでいます。男性スタッフのネクタイも、チャンスがあれば注目してみてください。そういうちょっとしたところについこだわってしまうのが豊島屋なんです。もっと驚かせたい、もっともっと楽しませたい、もっともっともっと喜ばせたい! そんな「もっと」がどんどん重なって、今に至ります。

本店だけのお楽しみ キュート&シュールな鳩これくしょん

実用的なものから非実用的(?)なものまで遊び心満載の「鳩これくしょん」。
手に取ると何だかクスッと笑っちゃう。デスクの隅やバッグの中に忍ばせておくとふとした時に癒やしてくれるかも!?

鳩三郎

鍵につけて一緒におでかけしよう

鳩三郎 500円。
鳩三郎 500円。

鳩サブレーをかたどった根付。「鳩これくしょん」がスタートした当初からある人気商品だ。デザインはほんの少しバージョンアップし、現在は裏に「鳩三郎」の文字が入る。

hatoson 810

ただのおもちゃじゃないアイデア商品

hatoson 810 1200円。
hatoson 810 1200円。

手のひらサイズの手動式ミニクリーナー。足の裏がブラシになっていて、デスクの上を走らせるとパタパタ動き、細かいゴミを取ってくれる。名前の由来は某海外製掃除機から。

ポッポーチ

正真正銘実用的! 便利な収納グッズ

ポッポーチ Sサイズ 1000円 Mサイズ 1200円 DXサイズ 3000円。
ポッポーチ Sサイズ 1000円 Mサイズ 1200円 DXサイズ 3000円。

サイズやカラーが豊富で(DXは紺色のみ)、Mサイズより大きいものは中に仕切りがあり、使い道が増える。トラベルポーチにしたり、文房具をまとめたり、おやつを入れたり……。

『豊島屋 本店』店舗詳細

たくさんの限定商品にわくわく

ショーケースには正統派の和菓子もずらり。おみやげにテッパンの鳩サブレーを選ぶか、意外性を狙って鎌倉の四季を題材にした干菓子の若宮大路にしようか、また別の本店・鎌倉限定商品がいいか、そうやって迷う時間も醍醐味だ。「鳩これくしょん」が気になる人も本店へ。ちなみに、外壁にあしらわれた鳩の目は非常灯になっていて赤く光っている。

「本店・鎌倉限定商品もあります!」
「本店・鎌倉限定商品もあります!」
若宮大路 648円。鎌倉市内の店舗でのみ購入できる和三盆製の打ち菓子。お茶はもちろん、コーヒーにも合う。
若宮大路 648円。鎌倉市内の店舗でのみ購入できる和三盆製の打ち菓子。お茶はもちろん、コーヒーにも合う。
住所:神奈川県鎌倉市小町2-11-19/営業時間:9:00~19:00
/定休日:水(祝の場合は営業)/アクセス:JR横須賀線・江ノ電鎌倉駅から徒歩4分

取材・文=信藤舞子 撮影=加藤熊三 写真提供=豊島屋
『散歩の達人』2022年6月号より