秋葉原からすぐ、半地下のワインも楽しめる隠れ家的食堂
JR秋葉原、昭和通り口を出て、ヨドバシカメラを回り込むように進むとすぐに昭和通りにぶつかる。この広い通りを渡ると町名は神田和泉町に変わり、町の雰囲気もビジネス街風のものに変わる。町を歩く人も仕事中のビジネスマンが多くなる。
『nico』はこの昭和通りから脇道に入ったすぐ、十数メートルのところにある。店頭には『noodle+ワンバル食堂 nico』の文字。店は半地下で、何段かの階段を降りたところに扉がある。
店は奥に細長く続く構造。店に入ると右手に長いカウンターがあり、その向こう側が厨房。写真が飾られた壁と沢山の小物が乗ったカウンターに挟まれた通路を奥に進んでいくとテーブルが並んだスペースがある。カウンターの入り口近くには小さなワイン樽が2つ。
半地下ならではのことなのか。昼なのに、店内には暖かい色の照明がともり、それがとても落ち着いた隠れ家感を作り出している。お話をお聞きしたのはご主人の清水宣さん。
「はじめて料理の仕事をしたのは結婚式場のレストランでした。その後、ハワイのレストランで4年間働いて、日本に帰ってきて来て自分のお店を出しました。場所は浜松町。元同僚2人と始めたのですが、1人は元焼き鳥屋さん、1人は元ラーメン屋さん、そして私が料理全般。それぞれの得意なものを持ち寄ってのお店です」。
元料理人と元ラーメン屋さんが営む食堂
その後、ここ秋葉原で『nico』を始めたのは2014年のこと。
「前の店は、焼き鳥が得意だった仲間が引き継ぎ、今も焼き鳥屋さんとして営業しています。こちらに来たのは料理担当の私とラーメン担当の元同僚。ですから出しているのは料理とラーメンという組み合わせになっています」と、ワインバルなのにお昼にラーメンという不思議な組み合わせの、とてもわかりやすい理由を教えてくれた。
今回ランチとして注文した一番人気の塩ラーメンは、やや小ぶりの丼に入って登場。
スープは白湯風スープなのだが、洋風のクリーミーな風味も感じる。麺の上にはバーナーで焦げ目がつけられた大きなチャーシューがトッピングされ、レモンがひと切れ乗せられているところも、なにやら洋風。かけられた焦がしネギが香ばしく、とてもいいアクセントになっている。
ランチメニューはラーメン、汁なし麺などが中心で、月替わりのパスタなども食べることができる。「ラーメンはラーメン屋の味ではなく、あくまで洋食屋さんが出すラーメンというものにしています。同じ麺ということで、パスタや汁なしタンタンメンも出している感じです」と宣さん。ラーメンは飲んだ後のシメに食べる人も多いという。
お客さんがおいしいと思うものをこだわらず出したい
「わかりやすいのでワインバルと名乗っているのですが、中身は町の洋風食堂です。“ワインバルなんだからこう”という堅苦しいスタイルではなく、いろいろ料理があるね、というところをお客さんに楽しんでもらうのがうれしいです」と宣さん。
その言葉通り、夜のメニューをのぞくとメニューにはパスタやピザもあるが、ホルモンや鶏レバーを使った料理やパクチーの料理、それに今回ご紹介したラーメンやつけめん、汁なし担々麺など国もジャンルも超えた、しかしどれも魅力的なメニューが並んでいる。
「本場の味などにもこだわりません。日本人、目の前のお客さんがおいしいと思えるものをお出しすることを心がけています」と宣さん。同じスタイルでやっているお店などもしょっちゅう食べ歩き、おいしいと思ったものはどんどん『nico』風にアレンジしてメニューに取り入れているという。
少し気になったのは、お店の各所に置かれた気になる小物たち。カウンターのちょっとしたところに、キャラクターやアニメ、映画関連と思えるような様々なグッズが置かれている。
「お客さんが持ってきて飾ったものが多いですね。秋葉原に店を開店したのには特に大きな理由はなかったのですが、ここで店をやっていてアニメやキャラクターが大好きという人も来てくれるようになって、その楽しさを私もいろいろ教えてもらうことが多いですね。店に自分のお気に入りのものを置いて、友人を連れて見に来てくれたり。本当にありがたいです」と宣さん。
なかには「毎日この店で食べたい」と、わざわざ秋葉原に引っ越して来たというお客さんもいるとのこと。飾らない、気さくなご主人の人柄ゆえのことなのだろう。
「浜松町のころはオフィス街のど真ん中で仕事の人だけ、という感じだったのですが、ここは仕事をする人、遊びに来る人の両方の方が来てくれるのでちょうどいいバランスですね」と宣さん。
『nico』という店名は、イタリアのレストランを感じさせる明るい響きの店名、ということでつけた。ただ偶然にも人気コミック(アニメ)に同じ名前の登場人物がいたことで、アニメファンがオフ会でお店を貸し切りで利用してくれることもあるという。
取材をさせてもらったお昼時に来ていたお客さんは男女ほど半々。20才代から50才代とお見受けする方までがやってきて、温かい雰囲気の隠れ家的空間で気軽に食事を楽しんでいる。カジュアルなお値段もうれしい、なんとも心が豊かになるイタリアンレストランだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠