浅草詣での腹ごしらえといえば『梅園』。まずは老舗の店構えを楽しもう

東京メトロ浅草駅から徒歩約3分。浅草寺を正面に、仲見世商店街から1本左に入った通り沿いに、手書きの提灯と野点傘が趣深い『梅園』本店がある。

所狭しと並んだあんみつや季節の和菓子、そしてにこやかな看板娘の呼び声に、浅草寺の参拝客が次々に立ち止まる。安政元年(1854)に、浅草寺の別院である梅園院の一角に茶屋を構えたのが始まりという『梅園』は、浅草でも屈指の老舗甘味処だ。

店の入り口右脇には、いかにも古そうな水瓶が無造作に置かれている。実はこれ、昭和20年(1945)の東京大空襲で焼け残ったもの。当時の建物や文献などが全焼したなか、『梅園』の歴史を伝える貴重な遺物だ。

店先のガラスケースで食べたい甘味を決めたら店内へ。『梅園』は食券制なので、初めにカウンターで注文を済ませてから席に着こう。

創業当時の志を伝える、『梅園』名物あわぜんざい

『梅園』が創業した安政元年当時、もち米は高級品で庶民が食べられるものではなかったという。そこで創業者が田畑のあぜ道に生える粟を材料にして生み出したのが、のちに江戸名物となったあわぜんざいだ。現在は、粟よりも香りや味のいい餅きびを原料にしているが、熱々のあわぜんざいを食べたときの感動は、昔も今も変わりないはずだ。

直前までセイロで蒸して温められたお餅に、熱いこしあんをたっぷりとかけて提供されるあわぜんざい792円。お椀の蓋を開けた途端に豊かな餅きびの香りが広がって、それだけでも幸せな気分になってしまう。お餅はおはぎのような半搗(つ)きで、餅きびのプチプチした食感と、なめらかなこしあんとの対比がおもしろい。
口の中が甘くなったところで食べる、小鉢のしその実漬けがピリリと塩辛くて、これまた絶品だ。

梅園2
炊飯器で簡単に再現! 老舗『梅園』の看板メニュー・あわぜんざいのレシピ
今回レシピを教えてくれたのは、『梅園』営業部長の羽山健雄さん。『梅園』本店で提供されるあわぜんざいは、餅きびを蒸して搗(つ)くという工程で作られるが、今回は家庭でも真似しやすいよう、炊飯器とヘラを使って作る方法を教えてくれた。こしあんも市販のものを使用するので、思い立ったら気軽に作れる内容になっている…

とろり濃厚な黒蜜が決め手の、白玉クリームあんみつ

甘味処へ来たら、王道・あんみつも頼まずにはいられない。なかでも店一番の人気を誇る、白玉クリームあんみつ946円を注文。華やかな見た目と、予想より一回り大きな器に気分が一気に盛り上がる。

さっそく黒蜜をかけてみると、その濃厚さにビックリ。黒糖のコクと香りがしっかりと感じられて、アイスクリームの存在感に負けていない。

寒天は、天草の香りが強すぎず透明感のある味わいで、他の具材を引き立ててくれる。白玉は4つ、求肥は2枚も入っていて、ボリュームたっぷり。こちらの求肥は店で手作りしているので、形は不揃いだが既製品より大ぶりで、できたてのもちもち感が味わえる。

具だくさんの梅園ぞうには、甘いものが苦手な人にもおすすめ。

甘い物に食べ飽きたら、こちらの梅園ぞうに990円がおすすめ。甘味処の食事メニューだからと侮るなかれ。中には大きな角餅が2切れと、エビやかまぼこ、うずらの卵、たけのこなど8種類の具材が贅沢に盛り付けられて、しっかりとお腹が満たされる一杯だ。

自社工場からその日使う分だけ仕入れるというお餅は、搗きたての弾力ともち米の粒感がほんのり感じられて、手作りならではの美味しさだ。おつゆは鰹節と昆布のだしに塩を加えた、とっても繊細な味付けで、お餅や具材の味や香りが生きている。
お雑煮というとお正月に食べるイメージだが、こんなに美味しいものは一年中食べないともったいない! 甘味と両方頼んで交互に楽しむのもアリなので、まだ食べたことがない人はぜひ一度ご賞味あれ。

日常に寄りそう『梅園』の甘味

観光客で賑わう『梅園』も、午前中は比較的空いている。時折ふらりと粋な常連さんが現れて、お雑煮やあわぜんざいをサッと食べていく。一大観光地・浅草にあっても、『梅園』は地元の人がふらりと朝ご飯を食べに立ち寄れるような店なのだ。

地方在住の人や、日頃なかなか外食しづらい人にも食べてもらえるようにと、『梅園』はテイクアウトや地方催事、通販にも力を入れている。浅草を訪れたときはもちろん、地元のデパ地下であんみつやわらび餅を見かけたときにも、自分用のおやつに一つ買ってみてはいかが?

『浅草梅園』店舗詳細

住所:東京都台東区浅草1-31-12/営業時間:11:00~17:00/定休日:水(祝の場合は振替あり。売店は定休日無)/アクセス:地下鉄銀座線浅草駅から徒歩約3分

取材・文=岡村朱万里 撮影=井原淳一