「ラザニア専門店って、あんまりないよね?」のアイデアが出店のきっかけ
生パスタ専門店で修業をしていたオーナーの江隅さんは、あるアイデアに取り憑かれていた。それは、「ラザニアの専門店って珍しい」「店名は『ラザニ屋』だったらおもしろい!」というもの。そのアイデアを、2013年に実現した。そして、三鷹に『ラザニ屋 Labo』、『ラザニ屋 三鷹北口店』をオープンさせ、現在では3つの店舗とオンラインショップを営んでいる。
ちなみにラザニアに入っている四角い板状の麺も平打パスタの1種。ところが、手打ちの生パスタを提供する店でも、ラザニアは乾麺という店が多いという。江隅さんはここに目をつけ、「乾麺のラザニアにはない弾力やモチモチ感を味わってもらいたい」。そう考えたのだ。
生のラザニアのために試行錯誤を繰り返す
開店して最初の1年は、自身で手打ち、製麺していたという。しかし、ほどなくして提供する数が間に合わなくなり、委託先を探し始めた。しかし、製法にもこだわりがあるため、なかなか委託先が見つからない。
「デュラム小麦100%、無加熱製法でパスタを作るためには、パワーのある機械がどうしても必要なんです」と江隅さんは話す。
かつて江隅さんが働いていた生パスタ専門店で使っていたのは、パワーに定評のあるイタルパスト社のパスタマシーン。そのことを覚えていた江隅さんは、この機械を持つ工場を探すことにした。時間がかかる作業だったが、ようやく見つかったのは千葉の工場。何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく納得するパスタが出来上がったという。
看板商品は「ラザニ屋のラザニア」。2種のソースがたっぷり
「ラザニ屋のラザニア」には、ミートソースとベシャメルソースの2種類のソースが使われている。
ミートソースは、豚挽き肉とデミグラスソース、トマト缶、トマトピューレを3日間煮込み、4日目に赤ワインで味を調える。そのうえで、さらに1日寝かせるというから、仕込み始めて6日目に、ようやく食べられるという手間のかかった濃厚なソースだ。
対して、ベシャメルソースは重くなりすぎないように、絶妙な配合で生クリームと牛乳を使用しているため、カロリーも低め。こちらも出来上がったものを1日寝かせ、2日目が出来上がりだ。
この2つのソースを贅沢に使って作るラザニア。簡単に図解したので見てほしい。
ラザニアの上にベシャメルソースとミートソースを塗り、さらにラザニアをのせ、ベシャメルソースとミートソースを塗り…。途中にフレッシュトマトの層を挟みながら、ラザニアだけでもなんと5層!その上に溶けるチーズ、まわりにはたっぷりとベシャメルソースをかけ、オーブンで焼くこと3〜4分。
乾麺では出せない弾力のパスタと濃厚なソース
さて、いよいよ実食といこう。高さ約5cm、5層のラザニアの表面にはチーズがとろ〜り。切り分けるのにもずっしりと確かな手ごたえを感じる。切ったそばからミートソースがじわりと流れ出し、周りにかけたベシャメルソースの白と、ミートソースの赤が鮮やかだ。
熱々を一口。肉々しい脂が熱く濃厚なミートソースと、なめらかなベシャメルソースが混じり合う。じっくりと時間をかけて煮込まれたミートソースは、とてもリッチで豚肉の旨味もたっぷりだ。しつこさのないベシャメルソースは生クリームの風味がよく、とても深い味わいになっている。
芳醇なソースがかかっていても、強くアピールしてくるのが生ラザニアの存在感だ。噛むごとにもちっと反発してくる弾力があり、つるりとしているのにしっかりとした食感が口の中に残る。ぐっぐっとした歯ごたえが楽しく、ソースの絡み方も抜群だ。これが生パスタならではの力強さだと実感する。
「本当の出来たて」?自宅でも楽しめるラザニ屋の味
通常、テイクアウトの商品は、出来上がったものをパッケージに入れて持ち帰り、自宅であたため直して食べることが多い。そんなときに、「出来たてはもっとおいしかったんだろうな」と思うことはないだろうか。
では、自宅で出来上がる半調理の状態で販売したらどうか。江隅さんのアイデアが冴え渡る。パスタが伸びないように、茹でてから氷水で冷やしたものにソースをはさみ冷たい状態で販売する。食べる前に電子レンジで温め、オーブンやトースターで焼いてはじめて出来上がる。これならば「本当の出来たて」が楽しめる。
店内のものはラザニアが5層、オンライン販売する冷凍のものは4層と違いがある。冷凍のものは湯煎で温めるのだが、さまざまなテストの結果、4層が限界だったとのこと。限りなく「おいしさ」を追求する姿勢が感じられた。
オンラインショップで販売しているのは冷凍のラザニアだ。冷凍されていることを除けばテイクアウトのものと変わりはなく、自宅で出来たてが食べられるのも同じだ。しかし、この冷凍の技術にも江隅さんのこだわりがあった。
層になったラザニアを、単に冷凍するのでは味が落ちてしまう。そこで出てきたのが3D瞬間冷凍という技術。湿度を保ちながら急速に冷凍するため、水分が奪われにくいのだという。これを知った江隅さんは、三鷹の『ラザニ屋 Labo』にこの装置を導入し、オンラインでの販売に踏み切ったという。江隅さんの瞬発力には驚くばかりだ。
今後の目標は「8種あるラザニアの種類を10種にしたい!」。それから、どうしても売上の下がる夏に向けてなにか仕掛けていきたいとのこと。常にアンテナを張り、アイデアと実行力のある江隅さん。どんな企画が出てくるのかが楽しみだ。
取材・文・写真・図=ミヤウチマサコ