昭和2年(1927)に誕生し、全長450mに約70店。「下町人情キラキラ橘商店街」 という名称は1985年に公募で選ばれたが、今、名は体を表すような楽しい出来事が目白押しだ。
4軒長屋の元美容室に2021年4月に開店したのは 『ウィヴァネストペンギン』 。しかも隣部屋で8年営む『herb stand サテライトキッチン』 の小畑亮吾さんがなんと間の壁に穴を開けた! 「彼は友人で、2年前にここが空いた時、店をつなげることを思いついたそうで、店を出したがっていた私を誘ってくれました」 と飛田佳寿子さん。 「寛容な大家さんのおかげ。この街は物件が空きそうとか借りたがっている人がいるとかの情報は結構、口づてで回るんです」 と小畑さん。
20年ほど前から向島エリアで始まったアートイベントなどを機に芸術家やクリエイターが移住・出店する例も多い。2021年秋開催の 「すみだ向島EXPO」 で芸術監督も務めたヒロセガイさんは自身の作品の場だった元米屋を 『Art&Nepal Tokyo!(京島駅)』として継続。「僕は人が立ち寄る場を作ることが多くて、ここもお店というより家族で食事をするイメージ。この街で古民家再生や作品づくりをする仲間が “おいしい”を通して集まれる場ができたと思います」 。
それから2020年秋、店主亡き後閉店した商店街の名物 『ハト屋パン店』の復活も外せない。不動産サイトで売りに出されているところを救った新オーナーは、近所の長屋に住んでいた紙田和代さん。都市計画コンサルタント業を続けながらパン焼き修業をし、1年未満で開店にこぎつけた。新設したのはカフェスペースで、 「早朝から一人暮らしのお年寄りが食べに来てくれる。ランニング帰りの人も学生も来る。交流の場所になっているようです」 。
商店街には今、大きな更地がある。大型スーパーができるというが、意外にも街の人は 「集客につながり共存できる」 という。許容力があって“迎え入れてくれる商店街”である限り今後もきっと変化を楽しませてくれそうだ。
herb stand サテライトキッチン
心身を癒やして整えるハーブティー
ヴァイオリニストの小畑亮吾さんが営むオリジナルハーブティーと焼き菓子の店。60種類ほどあるハーブを使い、お客さんの要望や体調を聞いて調合してくれる。テイクアウト可。月1回ほどのペースで多彩な展示会も両店共同で開催。
『herb stand サテライトキッチン』店舗詳細
ウィヴァネストペンギン
雑貨好き、手芸好きの心もくすぐる
飛田佳寿子さんがボタン付け220円~や丈詰めなどの洋服直しから、Tシャツのリメイクバッグ制作4400円~、手作り雑貨の販売を行う。プロ用ミシンも使えるミシンレンタルは1時間880円。店内でお直しを待ちながら隣のメニューを注文するのもOKだ。
『ウィヴァネストペンギン』店舗詳細
Art&Nepal Tokyo !(京島駅)
レストラン丸ごとアート作品なのだ
アーティストのヒロセガイさんが営む、アート活動の一環であるネパールレストラン。相棒のネパール人シェフ・マニュさんが腕を振るい、本格的なタンドールでナンを焼き上げる。チャイ300円。尼崎店と毎週行き来するため週半分ほどの不定期開催。看板が出ていれば営業中の合図だ。
『Art&Nepal Tokyo !(京島駅)』店舗詳細
ハト屋パン店
コッペパンの名店がパワーアップして復活
閉店した大正創業の名物店を地元在住の紙田和代さんが復活。以前のコッペパンを踏襲しつつも、材料に北海道産強力粉や高級バターを使いリッチな味わいに。プレーンほか12種類ほどのバリエーションが楽しめる。カウンター3席あり。
『ハト屋パン店』店舗詳細
取材・文=下里康子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2022年2月号より