生産者とも密着した地元のイタリアン
国分寺駅南口を出て、殿ヶ谷戸庭園沿いに坂道を下っていくと、およそ5分ほどの位置に小さく店を構える。住宅地にたたずむ「街の食堂」といったフランクな雰囲気だ。
テラスには色鮮やかな旬の野菜がギュウギュウとひしめき合って並ぶ。赤いリヤカーに収まる姿がなんとも素朴で愛らしい。
「このリヤカーを自転車の後部につないで走り、毎朝国分寺の『小坂農園』まで野菜を調達に行きます」と話すのは、チーフの小俣友貴香(ゆきか)さん。
調達する野菜は、その日の畑のコンディション次第で、お楽しみ。小俣さんが小さい頃から家族のように接し、気心が知れた人たちの営む農園で、セレクトは彼らにお任せしている。
「野菜がね、本当に美味しいんです。畑に行くと農園の子どもたちが、生でボリボリとかじって、まるでおやつ感覚。『何も手を加えなくてもおいしいこの野菜たちを存分に生かしたい』と思うようになってから店のメニューも野菜がメインのイタリアンに変化していきましたね」
「素材の良さを引き出す」シンプルな北イタリアの家庭料理を再現
提供される料理は同じイタリアンでも、日常のシーンにぴったりで気取らない家庭的な「北イタリア料理」。こうした素朴なメニューを選んだのは、小俣さん自身がイタリア修行に行ったとき、北イタリアの料理に心惹かれたからということも影響しているそう。
料理は、野菜や肉、魚介など、そのものの姿や味わいを大事にしている。何より鮮度にこだわっていると何度も口にする小俣さん。
「十分においしい素材たちは、味付けも調理法もシンプルに。たっぷりのオリーブオイルと塩をメインにしていますよ」
『トラットリアカレラ』を訪ねたのならば、まずはこの「小坂農園さんのサラダ」を注文して欲しい。色鮮やかな姿とそのボリュームに圧倒されてしまう。野菜だけでお腹がはちきれそうなほどだ。
おなじみのブロッコリーやトマトを始め、旬の野菜である紅心大根、ロマネスコ、赤大根、マスタードグリーンなども。プレートの上でおよそ10種類以上の野菜たちがひしめき合う姿は、まるで宝石箱のよう。
野菜だけではない。魚介類も想像以上のボリュームだ。毎日、地元国分寺の鮮魚店から旬の素材を仕入れる。そこへ掛け合わせるのは、自家製よもぎのタリアテッレ。小俣さんの弟さんが、毎日よもぎを練り込んだ麺を丁寧に仕立て上げる。
鮮やかな緑と、白いクリームソース、そして珍しい紫白菜との色合いのバランスが実に美しい。味わいももちろんのことだ。ほんのり薫るよもぎの青々しさ、爽やかなクリームソース、旨味のギュッと詰まった魚介の味わいがちょうど良いバランスで交錯する。
前菜には色鮮やかなビーツのラビオリをおすすめしたい。濃厚な味わいのビーツとリコッタチーズ、そこへクルミのソースが優しく重なり合う。
小俣さんの作り上げるメニューは、何より色が美しく鮮やか。前菜からメイン料理、サラダ、並ぶとテーブルが華やぎ、ワクワクする時間が訪れる。
イタリア修行を経たメニューは、前菜からデザートまで情熱を込めて仕込み、振る舞う
元は製菓学校出身の小俣さん。パティシエになるための学びを深めたあと、イタリアンに魅了され、この世界に飛び込む。それゆえ『トラットリアカレラ』はスイーツも驚きのクオリティだ。
ショーケースに並ぶ姿は、まるでケーキショップのよう。「わあ!」とつい歓声を上げて見入ってしまう。店内でデザートとして注文するだけではなく、帰り際にテイクアウトしていく人も多いそう。
「やっぱりデザートが充実していると喜ぶ人が多くて。季節に合わせて複数用意しています」
これだけのボリュームのメニュー、仕込みに週3日かけるというのも頷ける。小坂さんをはじめとして、弟さん、お母様と一家で全身全霊尽くして営む店はこの地に根付き、親子二代で通う人も。
美味しく彩り豊かで心躍るメニューが、気軽に味わえる街の食堂。国分寺にとって貴重な財産といえるだろう。
取材・文・撮影=永見薫