街中にたたずむ一軒家のコーヒー店
行き先の目印は川越市役所。川越駅から15分ほど歩くと、中心地より少し外れた、ほどよく生活の香りがする場所に『glin coffee 元町 1号店』は店を構える。『glin coffee』の創業時の想いが込められた鮮やかな「g」のカップロゴが印象的だ。建物はセルフビルドしたのだろうか。どこか素朴な雰囲気を感じさせる佇まいである。
店内へ入り、2階に足を延ばすと明るく開放感のある空間が広がる。所々に飾られるドライフラワーやグリーンが安らぎをもたらしている。1杯のコーヒーを飲みながら過ごすひと時は、心が穏やかになる時間だ。友人や家族と過ごせば、また心躍る楽しいひと時ともなるのだろう。
感動の体験からコーヒー店での修行に明け暮れ、独立開業
オーナーの大谷周平さんは「コーヒーと共に、楽しい時間や場所を提供したくてお店を始めました」と話す。
それまでアパレル店舗で接客業や店舗マネジメント業に勤しんでいた大谷さん。ある日、日本に上陸したばかりのスターバックスコーヒーで、衝撃的な体験をする。そこには単純にコーヒーを提供するだけではなく、客への何気ない一言や気遣い、カップへ書かれるメッセージをはじめとしたちょっとしたコミュニケーションがあった。
「今までにない体験だ」と感動した大谷さんは、その企業理念や行動を学ぶべくして、スターバックスコーヒーへ転職。九州エリアで店長業を経てマネージャー業を営むように。
居心地の良い空間や、おいしい1杯のコーヒーが楽しい時を作る、そしてスタッフとお客様のコミュニケーションにより新たな化学反応や生まれる、そうした出会いに喜びを感じながら仕事をしていた。
しかし、心のどこかでいつかは自分の故郷である川越で店を立ち上げたいという気持ちを抱いていた。帰郷するタイミングで願いを実現したのが『glin coffee』なのだ。
厳選したコーヒーと多彩なラインナップのメニューでワクワクを提供
コーヒーチェーン店出身である大谷さんは、もちろんコーヒーへの造詣も深い。コーヒー焙煎士とともに、厳選して仕入れるコーヒーは中南米、アジア、アフリカなどと世界各地の豆を幅広く採用。その味は口当たりが良く、香りが華やかなものを重視している。
「最近は酸味のある浅煎りのコーヒーが主流ですけれど、その中でも酸味を強く感じさせず、香りが高いものを採用しています。深入りのコーヒーも、刺激がお腹の中に残りにくく、何杯でも飲めるコーヒーを扱っていますね」
主力のコーヒー以外にもバリエーション豊かなメニューを揃える。フローズンドリンク「パーズン」は、ミルクとエスプレッソを練り合わせたものをベースに仕上げたドリンクだ。ベースに氷を使っていないため、キンとした冷たさがなく、滑らかな口当たり。まるでパフェを食べているかのような食感だ。
また、元町1号店を訪れたからには一度は食べたいのが「かわごえコッペパン」。手のひらで包みこめるサイズの可愛らしい丸コッペは、常時12種類以上がそろう。パン生地は川越近郊で名の知られる、幸手市の製粉メーカー『前田食品』特注。外はパリッ、中はふんわりとしたプレーンの生地と、しっとり柔らかなドーナツタイプの生地の2種類。食事系とスイーツ系それぞれのメニューに合わせて使用している。
ドリンクやフードは素材や味、食感はもちろんのこと、心がパッと華やぐような鮮やかな色合い、可愛らしいフォルムなど、見た目も大切にしている。それは店に訪れた人へワクワクした気持ちと、楽しい体験を提供したい、というオーナーの大谷さんの強い想いがあるからこそのこと。
様々な業種との共創で地域を盛り上げる
パンの特注にとどまらず、『glin coffee』では近隣の店舗とのコラボレーションやコミュニケーションなど、地域貢献や活性化にも力を入れて取り組む。人気No.1のコッペパン、あんバターコッペは、川越の老舗和菓子店『龜屋』のあんこを使用。老舗と若手との共創の一品だ。
また、川越のコーヒー店6店でのコラボ商品として、各店のコーヒー詰め合わせセットをつくり上げ、店頭で販売。ご当地コーヒー店巡りができると好評を博している。
業種の垣根を超えた取り組みにも抵抗は一切ない。そこにあるのはただ地元を盛り上げたい、という熱い想いのみだ。
「観光地として活性化し始めた川越ですけど、まだまだ発展できる可能性のタネがたくさんある。そのタネを育てて、花が開く瞬間を増やしたい。そしてここで育てた文化は川越にとどまらず、多くの場所に届けたいと心を燃やしています。目指すは国内海外に100店舗ですね」と大谷さん。
5年経たずして7店舗へと拡大した店には並々ならぬエネルギーがみなぎっている。若きスタッフたちの情熱と行動力があれば、目標100店舗も夢ではないのかもしれない。
/定休日:無/アクセス:西武鉄道新宿線本川越駅から徒歩15分
取材・文・撮影=永見薫