予算1000円!旅とは
我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。
ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。
・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹
1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。
2021年夏に移転オープンした『奈良まほろば館』
店長の花岡さんと広報の谷口さんがせんとくんと一緒に迎えてくれた。お二人とも奈良県出身だ。同じ関西出身なので、関西なまりの挨拶に親近感を覚える。
さっそくだが、「奈良ってどんなところなん?」と聞いてみた。
「前までは、なんにもないと思っていたんですけどね。東京の皆さんは、奈良のことをいっぱい褒めてくださる。やっぱり自然が多くて、歴史が詰まっているのが魅力です」「家の近所に文化財があるのが普通になり過ぎて。改めてすごいんだなと思いましたね。移転してお仕事途中のビジネスマンや若い世代の方もいらっしゃるので、奈良の魅力をもっと伝えていきたいです」とお二人。
奈良にまつわるお話を聴きながら店内を一周する。
旬の野菜や生菓子が日替わりで入荷し、奈良の魅力の詰まったお店のポップアップスペースも。移転前と商品セレクトを変え、スギやヒノキなど奈良の木材を使用した什器に陳列。奈良のいまに生きる伝統や歴史の魅力を詰め込んだ店だ。イートインカウンターもあり、かき氷やそうめん、柿の葉寿司など、気軽にご当地グルメが味わえる。
超定番の奈良漬、そうめんは抜群の品揃え
店長の花岡さん:
「奈良県といえば、三輪そうめんです。生そうめんや、時間をおいても伸びにくいお弁当用のそうめんなど、あまりスーパーなどでは見かけないような商品も揃えています」
広報の谷口さん:
「私、一人暮らしするようになって、初めて実家のそうめんが美味しかったって知ったんですよね。それくらい地元では、美味しいそうめんが当たり前なんです」
花岡さん:
「そうそう、大人になってから知るけど、実はちょっといいお値段だったりするよね」
花岡さん:
「奈良漬も種類豊富。東大寺のすぐそばにある森奈良漬店さんのスタンダードなものから、スイカやキュウリのほか、なかなか東京では手に入らないものもあります」
花岡さん:
「あと、柿も奈良の名産品です。ハウス柿も扱っているので、夏から食べられますよ」
谷口さん:
「柿はみんなバクバク食べます。柿はしばらく置いておくと追熟するのですが、シャキシャキの若いまま食べる派とプルプルの完熟で食べる派がいるんですよ」
花岡さん:
「おばあちゃんとかは、結構な完熟派でスプーンですくって食べるよね」
花岡さん:
「最近、クラフトコーラが流行っていますが、奈良にも地元に根ざしたコーラのシロップを作っているブランドがあります。大和コーラは古き奈良をコンセプトにしていて、大和橘、大和当帰、キハダの実など古来から体に良いとされてきた天然素材を使用しています」
谷口さん:
「曽爾村(そにむら)という自然豊かな場所で作られています。炭酸で割るだけで、味わい深いコーラが作れますよ」
花岡さん:
「大和コーラに入っている大和当帰(とうき)は、瓶詰めでも売っています。古くから滋養強壮に良いとされ、漢方にも使われる大和のハーブです。セロリのような香りでお肉料理やピクルスなんかにあいます」
谷口さん:
「美容にもいいと言われていて、入浴剤やスキンケア用品などもありますよ」
花岡さん:
「ギャラリースペースもあり、アート作品や仏像が購入できるようになっています。神社やお寺のグッズも揃えています」
一回りしたら、ひと休み。そうめんと炙った柿の葉寿司の横には奈良漬、デザートに葛餅までついたランチセットをいただくことにしました。喉ごしのいいそうめんと、炙って香ばしくなった柿の葉ずしを交互に食べて、少しだけ奈良にいる気分。奈良のご当地グルメは罪悪感の少ないものばかりなのも、なんだか嬉しい。
どれも店頭で買えると聞き、今回の1000円のセットでどれを買おうか迷いが出てきました。う〜ん。
私の奈良県1000円セット
というわけで、今回の1000円セットは?
柿の葉寿司 579円
ハウス柿 210円
柿ダノミ 162円
しめて、951円〜。今回は柿づくしのセットにしてみた。酒飲みにはありがたい柿ダノミなる錠剤付きである。
肝心のお酒は1000円に収まらなかったが……。
編集のシラタキが買ってくれた!!
百樂門は、葛城酒造が500年以上前から伝わる手法を元に作った日本酒。淡麗辛口で食中酒にもぴったりなので、きっと柿の葉寿司ともあうはずだ。味わってみると、派手ではないけど優しい口当たりでスルリと入ってきて、じんわり旨みが広がる。
たまらん、おつまみを!と急いでセッティング。
柿の葉の香りがふわりと香り、程よくしまった鯖の寿司を一口。日本酒でスイスイと追いかけレバ、鯖のジワリとした脂を流しながら、米の甘みがふくらむ。良いではないか。
お弁当のように包まれた寿司を手づかみでポイと食べていると、旅の時間を思い出す。柿の葉寿司を食べて日本酒を飲む、新幹線のひとときが恋しいなぁ。
4つじゃ足りない。ガハハ、と上機嫌で食べきり、お次は柿。
私は歯ごたえのある柿が好きなので、若いまま。若いといっても甘みがしっかりあって、サクッとした食感も心地いい。個人的に気取らない日常の果物だと思っていたのだけど、尾を引く上品な甘みが高級フルーツのようだった。
この味わいが辛口の日本酒を誘うから、ありがたいやら、困ったやら。ちょっと味見と思ったら、昼飲みの扉が全開になってしまった。
1000円オーバー! はみ出し購入品
ほろ酔いの気分に任せて、追加購入品もオープン!今回購入したのは、そうめんとおかきだ。この2つは、谷口さんと花岡さんに「どうしても買ってしまうもの」を聞いて購入した。
お二人いわく高山かきもちは、手土産にもらうことも多く、子どもの頃におやつでよく食べていたのだそう。贈答用は大入りの赤い缶が目印ですが、アンテナショップで扱っているのは、ひとりでも食べきれるサイズの袋入り。
「大人になってからはお酒の友になった」と聞いて、買ってみたら、これが香ばしくて塩気が程よくてお酒が止まらない……。
本場、三輪で作られる三輪の神糸の味わいはいわずもがな。絹糸のように細く、コシがあって、なめらか。これは食べたら、お手頃なそうめんには戻れないかも、と思わせる味わい。やはり、現地の人が食べ続けるものは絶対なのだ。
どうしても我慢できなくて買ってしまったのは、インスタントの天理ラーメン。以前食べたことがあり、東京でこの味が?と気になってカゴに入れてしまった。
奈良県天理市のご当地ラーメンで、豚骨鶏ガラベースのスープにニンニクピリ辛味。白菜やにらがたっぷりのったスタミナのつきそうな味わいだ。
湯にスープを入れてから、明らかに部屋が天理ラーメンの匂いに包まれ、白ご飯を携えたくなる。待ってましたと言いたくなるパンチ力。インスタントながら、具沢山で満足感がある。
通いつめたいアンテナショップがまたひとつ
中銀カプセルタワービルから至近ということもあり、何度も足を運んでいる。仏像をみるのもいいし、伝統の奈良絵が描かれた器を手にするのもいい。でも、通っていて飽きないのは、奈良で暮らす人たちが愛する味があるから。柿の葉寿司にそうめん、日々のご飯で何度食べても美味しい!と思えるものがたくさん詰まっている。改めて、アンテナショップ最高!と叫びたくなった。
取材・文・撮影=福井 晶