予算1000円!旅とは

我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。

ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。

・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹

1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。

唎酒師の資格あり! 期待を裏切らない藤原さん

夏の日の光を浴びてアツアツになった龍馬像とともに迎えてくれる藤原さん
夏の日の光を浴びてアツアツになった龍馬像とともに迎えてくれる藤原さん

お店へ伺うと、高知出身の副店長 藤原さんが出迎えてくれた。「お待ちしていました」と弾けるような笑顔で、手には一升瓶である。藤原さんは主にお酒コーナーを担当しており、唎酒師の資格をもっているのだそう。期待を裏切らない人選に心が飛び跳ねる。焦るでないと自分に言い聞かせて、案内してもらって店を一周することに。

魅力をまるっと! 高知のアンテナショップ『まるごと高知』

藤原さん:『まるごと高知』は2021年で11年目を迎え、高知ゆかりの品をおよそ1700アイテムも揃えています。1階は食料品を扱う「とさ市」、地下1階は日本酒や工芸品を扱う『とさ蔵』、2階は高知のおきゃく文化を感じていただけるレストラン『TOSA DINING おきゃく』になっています。県出身者はもちろん、県外の方も多くご利用いただいています。食料品売り場では、毎日、高知県産の野菜も入荷しているんですよ。

実は、高知県って生産量日本一の野菜や果物がたくさんあります。皆さんご存知の柚子と生姜をはじめ、なす、ししとうあたりは代表選手です。

不動の売上No. 1! 万能おかずしょうが

山積みになっている万能おかずしょうが 324円。
山積みになっている万能おかずしょうが 324円。

藤原さん:高知のしょうがは、やや小ぶりで味や香りがぎゅっと凝縮されていて、美味しいと好評です。万能おかずしょうがは、県産の生姜を刻んで醤油だれに漬け込んだもの。何年も売上No. 1を譲らない不動の人気商品で、リピーターの方は大量にまとめ買いしてくださいます。ご飯にのせて食べるとおかわりが止まらなくなる味わいで、焼いた肉や魚にのせてもバッチリ。

私は冷奴にのせるのが好きです。最高のお酒のつまみになります。アレンジレシピとして、お米と一緒に炊き込むのもおすすめですよ。

高知県の家庭は、柚子ポンがデフォルト

ここにあるのは全部柚子ポン酢!
ここにあるのは全部柚子ポン酢!

藤原さん:高知には柚子を使った商品や郷土料理がたくさんあります。家庭にあるポン酢は、絶対に柚子ポン酢! 柚子を使った商品はこんなに種類があります。柚子の一大産地である馬路村の柚子を使ったものがほとんどですね。

中でも、幻の赤キャップともいわれる“千人の村”は東京では取り扱っているお店が少なく、人気です。柚子果汁をたっぷり使用し、まろやかな酸味、化学調味料なしで鰹や利尻昆布などのだしがきいています。これを買ったら浮気できなくなるんですよ〜。

爆売れする鰹のタタキ、 龍馬タタキ

冷凍庫にパンパンに詰められた龍馬タタキ
冷凍庫にパンパンに詰められた龍馬タタキ

藤原さん:生姜、柚子ときたら、龍馬タタキも外せません。鰹は秋の戻り鰹を新鮮なまま船内凍結させたもの、藁焼きのワラは四万十川流域の米ワラを使用し、職人が伝統製法の「完全ワラ焼き」で一節ずつ焼き上げます。急速冷凍してあるので、美味しさそのまま!自宅で職人の味が楽しめます。

買わなきゃ損!みたいな品ばかりで、今回も予算オーバー必至。続いて、県民が慣れ親しんできたローカルグルメも教えてもらう。

素朴な味わいのローカルパンぼうしパン

藤原さん:私がこのお店に赴任したときに「あぁ、懐かしい!」と思ったのは、ぼうしパンとひまわりコーヒーとリープルです。この3つは県民のソウルフードといってもいいと思います。

藤原さんは県民のソウルフードについて説明しはじめると、急に早口になり情報量が爆発的に増えた。これは推しを教えてくれる人の口調……と静かに聞きながら、購入を決意。リープルの正体は記事の後半で明らかになるぞ。

アンテナショップ試飲コーナーの先駆け。日本酒が揃うお酒コーナー

藤原さん:地下1階の『とさ蔵』では、高知のお酒を試飲していただけます。(※20218月現在は休止中)今でこそアンテナショップで試飲できるのは珍しくありませんが、ウチはかなり早い段階ではじめたほう。酒飲みのファンも多くて、高知出身の吉田類さんのイベントを開催したこともあります。

藤原さん:高知にある全ての酒蔵の日本酒を揃えています。18箇所というと少なく聞こえるかもしれませんが、高知の人口って練馬区や大田区の人口ぐらいしかないんですよ。その人口に対して18も酒蔵があると考えると、一人当たりどれだけ飲むか……。お年寄りでも水のようにスイスイ飲んで酔わない人がけっこういらっしゃいます。土佐の酒は淡麗辛口。もうこれは何杯飲んでも飽きない味わいを追求した結果なんでしょうね。

また、高知の宴会「おきゃく」は、県外の人から驚かれますね。お客さまへのおもてなしからはじまった宴会文化で、どんどん飲んで食べて、とにかく楽しくお酒を酌み交わしながら交流を深めます。今はご時世柄難しいですが、落ち着いたら是非お酒好きの人たちに味わってもらいたいです。

 

話を聞いて納得。どおりで日本酒の圧がすごいわけだ。

藤原さん:一升瓶の日本酒をここまで揃えているアンテナショップは少ないと思いますね。他のアンテナショップ負けないぞと頑張っているうちに、品揃えがどんどん増えてしまいました。

ここでも早口の藤原さん。高知愛ゆえの酒のラインナップに痺れた。

とにかく買いまくって5000円ごえ

ワクワクが止まらないまま、うちへ帰って広げてみると

明らかに買いすぎている。

そして、今回の1000円セットは?

私の高知県1000円セット

ぼうしパン 208円
ごっくん馬路村 135円
ひまわりコーヒー 110円
リープル 110円
ミレービスケット 108円×2=216円
ゆずガリ 250円

しめて、1029円!

藤原さんの勢いに押され、地元民の愛するおやつセットを揃えた。一つずつの単価が安いため、8点も購入できたのには驚きだ。

ひまわりコーヒーとリープル は、高知県民なら誰もが知っているひまわり乳業が手がけるドリンク。ひまわりコーヒーは、パック入りコーヒーらしい甘さがあり、リープルはピルクルなどの乳酸菌飲料に近い味わい。かなり濃厚である。

実はリープルは、「全てをハイにする」という別の記事でも紹介したことがあるのだ。2つとも、喉の奥にぼんやり残る甘みがなんだか懐かしさを覚える。

ごっくん馬路村もリープルに並ぶくらいポピュラー。柚子の一大産地である馬路村で作られていて、はちみつが入ったいわば柚子版のレモネードである。開けた瞬間から柚子の香りが広がり、ごっくんの名の通りゴクゴク飲める。このボトルサイズもう少し大きくしてくれませんかね??

メインディッシュは、ぼうしパン。ぼうしパンはとあるパン屋さんが間違って、パン生地にカステラの生地をかけたのがはじまり。帽子のつばの部分はカステラ生地が薄く焼かれていて、モクっとした食感。食べている自分まで優しくなれそうなくらい素朴な味わいだ。

脇を固めるのは高知県の鉄板お菓子『野村煎豆加工店』のミレービスケット。香ばしい独特の香りは、揚げ油に豆を揚げた油をブレンドしているから。この美味しさが口コミで広がって、プレーン味はいつも食べているので、スーパーなどではあまり見かけないレモンとわさび味をチョイス。レモンの爽やかさ、わさびの辛さは主張しすぎず、サクサクいける!ミレービスケットって、止まらなくなっちゃうのよね。

最高のおやつタイム!!
最高のおやつタイム!!

え? 柚子が香るゆずガリはどうしたかって?

当然のごとく、ガリサワーです。焼酎とゆずガリをグラスに入れて炭酸で割るだけ! 残りはご飯に混ぜて酢飯にしたり、酢の物に混ぜたり、アレンジ自在であった。

1000円オーバー! はみ出し購入品

左から、特別純米酒 鳴子舞490円、豊能梅 純吟 660円、ゆずしぼり 1,530円、龍馬タタキ 1480円。
左から、特別純米酒 鳴子舞490円、豊能梅 純吟 660円、ゆずしぼり 1,530円、龍馬タタキ 1480円。

なんというか、はみ出し購入品の域をはみ出している。鰹のタタキで飲むのを前提に買ってしまったのは、明らかである。

龍馬タタキを流水解凍して……

薬味たっぷり盛り付けて、完成!

龍馬タタキはワラ焼きの香りが鼻をぬけ、ぎゅっと鰹の旨味が広がる。冷凍だと少しなめていた。お店からテイクアウトしたようなクオリティなのだ。付属の塩で食べれば上品な味わいになり、日本酒をスルリと流し込めば、そこはもう高知である。

日本酒も全然飲み足りない。やはり一升瓶を買っておくべきだったのだろうか。

柚子サワーを作るために買ったのは、馬路村のゆずしぼり。藤原さんに「高知の人は自宅にゆず果汁を常備していて、お酢の代わりに料理に使うんです」と聞き、購入を決めた。100%ゆず果汁でできていて、添加物や他の果汁が混ざっていないので、蓋の近くに柚子の油が浮いている。料理にも使ってみたが、柚子の香りが加わり酸味もまろやか。急に華やかな料理になった。

高知の人たちに会いに、高知へ行きたい

生姜、柚子、鰹。高知は、こじゃんとうまい(とてもうまい)もんだらけじゃった。でも、お酒を飲むときばかりはちょっと物足りなく感じてしまう。もちろん酒の味に文句などない。高知県のお酒文化は高知の人々が作り上げていて、あの空気感が欲しいのだ。

落ち着いたら、まずは『まるごと高知』へ試飲しに駆け込まねば。

住所:東京都中央区銀座1-3-13 オーブ プレミア/営業時間:10:30~20:00(1階・地下1階) ※変更する場合あり。/定休日:無/アクセス:JR有楽町駅、地下鉄有楽町線銀座一丁目駅よりすぐ

取材・文・撮影=福井 晶