多彩な酒で色めきはじめた日本酒蔵の世界

意外かもしれませんが、日本酒蔵として有名なところが、清酒以外の酒を造るのは昨今、珍しいことではなくなってきています。以前から、ビールや焼酎、リキュールなどを併用して造っている日本酒蔵は少なくありませんでしたが、どちらかというと大々的にではなく、例えば地元用に細々と製造しているところが多かったのではないでしょうか。

しかし、今は主力商品の日本酒とともに、蔵の顔として積極的に売り出すケースが増えている気がします。つまり、日本酒の片手間に造るのではなく、全国で売れるために、本気で酒を開発しているということです。

他ジャンルの酒の醸造場が、年々増加傾向にあることも、それに拍車をかけていると思います。現在、日本酒の製造免許はほぼ新規参入ができない状態で、新たに酒蔵を立ち上げる場合は、稼働していない酒蔵の免許を買い取るのが一般的です。

一方、他の酒は新規参入がしやすく、特に小ロットから製造可能なビールにハーブなどを入れた発泡酒のブルワリーは、2011年にあった46の醸造場が2018年には244まで増加。(「酒文化研究所NEWS LETTER第68号」より)

ここ数年は国産のウィスキーやジンなどが海外でも注目を集めた影響で、新しい醸造場が設立されたり、同じ蒸留酒を製造する本格焼酎の酒蔵が、新たにウィスキーやスピリッツの製造をはじめたりと、酒蔵が造る酒の多様化は、すでに日本酒いがいの世界で著しく目立っているのです。

この百花繚乱ぶりに、触発される日本酒蔵が出てくることは、想像に難くありません。酒粕を使った蒸留酒や、米を使ったウォッカなどのスピリッツ、ブルワリー顔負けのクラフトビール、ブドウ栽培から手がけたワインなどが、日本酒蔵から続々と発売されています。

日本酒蔵の世界が、他ジャンルの酒の介入でにわかに色めきはじめました。

実は、人気銘柄として知られる日本酒「仙禽」(せんきん)も、近々、りんごを発酵させたシードル「domaine parlor」を発売するそうです(まだ発売前なのでノンラベルです)。

地元のりんごを使った穏やかな発泡感があるこの酒は、りんごの果汁感たっぷりでスキっと爽快な酸味が特徴です。

蔵元いわく「日本酒造りは複雑な工程を重ねるので、よくも悪くも人間の手を介入させれば製造中に修正することは可能ですが、シードルはいったん発酵しはじめたらコントロールが効きません。そこが大変であり、原料の個性を生かせるおもしろさでもあります。」

今日は、夏季限定で発売している「仙禽かぶとむし」と一緒に飲んじゃいます。

酒に合わせると口の中がカラフルになるつまみです

というわけで、「仙禽かぶとむし」と「domaine parlor」に合わせたつまみを作りますよ。

ラム肉145g、ズッキーニ1本、トウモロコシ1/2本、プチトマト5〜6個、ピーマン3個、生姜1/2、塩小さじ3、カレー粉、サラダ油、胡椒。

ラム肉は荒くみじん切りにし、ズッキーニとピーマンは角切りに。トマトはくし切りにして、生姜はみじん切り、トウモロコシはそぎ切りにします。

サラダ油にみじん切りの生姜を入れ、火をつけます。

フライパンが温まってきたらラム肉やズッキーニ、ピーマンを入れて中火弱で炒めます。

ラム肉に少し火が通ってきたら、塩を全体に振りかけてさらに炒めます。

全体がしんなりしてきたらトウモロコシを投入。

トウモロコシが少し透明になってきたらカレー粉を入れ、黒胡椒をたっぷり振ります。ちなみにカレー粉の量はお好みで入れてください。辛みが強くビターな味が好みの私は多めに。小さじ4杯くらい入れました。

カレー粉を入れると焦げやすくなるので、火加減に注意しながら全体をよく混ぜ合わせ、味見をして塩が足りなければ追加してください。そして、最後にトマトを投入。トマトがしんなりするまで炒めたら完成です。

つまみを皿に盛りつけて、さあ呑みましょう。このつまみは、スプーンを使い思いきり頬張って食べてください。いろんな味や食感がにぎやかで、口が楽しくなります。

お好みで、柑橘をしぼると素材の味がより引き立ちます。(今回はカボスを使いましたがレモンやライムでも)仙禽の酸味にもバッチリ合いますよ。

透明感があって酸味がみずみずしい「仙禽かぶとむし」と、ジューシーなシードルの果実味は、原料が全く違うのに同じ酒蔵で生まれたからなのか、とってもよく合う! トーンが異なる二つの酸味が、自然な形で無理なく寄り添っているんです。これは意外な発見。どちらか単体ではなく、ぜひ同じタイミングで交互に味わってほしいなあ。

そして、つまみの肉や野菜たちの個性が混じり合うと、とんでもなく口の中がカラフルに。いろいろな味が次々に顔を出します。でも、それはバラバラではなくて、日本酒・シードル・つまみは妙に連帯感があります。仲良しの女同士で、楽しいおしゃべりをしているときみたいな組み合わせかな。酔えば酔うほど脳内がにぎやかになり、今夜はちっとも眠れそうにありません。

 

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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