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Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに17年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)

蔵元やつくり手のセンスが丸出しの夏酒

日差しが強くなってくると、反射的に手に取ってしまうのが夏酒です。今や夏の季語と言ってもいいほど、日本酒好きの間では定着した夏酒ですが、実は、どの蔵も発売しはじめたのはまだ15年くらい前からです。

その前にも主に大手メーカーからは、透明で涼しげな小瓶に入れた日本酒を夏向けとして販売していましたが、夏に特化した日本酒はごく少数でした。日本酒というと、やはり秋冬の需要が高く、特に15年くらい前は焼酎ブームの影響もあり、夏は売り上げが厳しい蔵が多かったと聞いています。

そんな現状を変えるために、地酒専門店『味ノマチダヤ』が夏向けの日本酒の市場を開拓しようと、2005年に“夏酒”と名づけた日本酒を企画。取り扱いがある17蔵の賛同を得て、2006年に仕込みを開始し発売にこぎつけます。その後、参加する蔵が増え続け、『味ノマチダヤ』を飛び越えて、多くの酒蔵が夏酒を開発しはじめました。今では日本酒業界ですっかり定着した夏酒です。

ラベルは夏を思わせる楽しいデザインが多く、味はどの蔵も定番酒に比べるとスッキリと軽快です。ただ軽い酒にするだけではなく、焼酎に使われる白麹というクエン酸を出す麹を使って酸味を利かせたり、うすにごりの発泡タイプにしたり、私がつい眉をしかめてしまう生酒もあるなど(前回をご参照ください)、各蔵が考える夏の日本酒はとても多彩です。

ラベルも含めて夏酒は少なからず、代々守り続けてきた定番酒では表現できない自由な発想が許されるだけあり、蔵元やつくり手のセンスが丸出しです。イケてるのからそうでもないものまで(失礼)色とりどりの夏酒は、見て飲んでおもしろい日本酒なんです。

とはいえ残念ながら、夏酒はどの蔵も製造量が少ないために、今は夏本番だというのに酒販店によってはすでに品薄状態です。先日、買いに走った『恵比寿 君嶋屋』にも夏酒はほんの少し並んでいた程度でした。ですから、読者のみなさんも夏酒を見つけたらすぐに購入することをおすすめします。

手に取った「山形正宗」の夏酒も『恵比寿 君嶋屋』ではラスト一本。花火のラベルが“夏い”感じで気分が上がりますね。

夏酒にぴったりな夏野菜を使ったつまみです

軽快な夏酒に合うのがみずみずしい夏野菜です。今回は、その夏野菜をギュッと閉じ込めたシュウマイをつくりたいと思います。

エビ約250g、トウモロコシ1本、ズッキーニ2/1本、餃子の皮(大きめのシュウマイをつくりたいのであえて餃子用で)、大葉を適宜、塩小さじ2

たくさんつくって残りは冷凍保存したいので材料は多めの分量です。このタネは、春巻きの具材にも使えますよ。

エビは皮をむき、背わたを取って粘りが出るまでみじん切りに。ズッキーニは角切りにし、身を削いだトウモロコシも含めてボウルに入れます。

塩を入れたら少しズッキーニがしんなりするまで全体をよく混ぜます。

皮の中心に具材を入れ、シュウマイの形に包みます。

蒸籠の下に大葉を敷き詰め、包んだものを乗せて火をつけます。蒸籠がない方は深めの鍋かフライパンに、包んだものを乗せた器を入れて、器の中に浸らない程度に水を注ぎ、蓋をして蒸してくださいね。

餃子の皮は厚いので、少し長く蒸します。15分〜20分くらいじっくり蒸しましょう。熱の通り具合によって蒸す時間は調整してください。

皮がしんなりして具材に火が通ったら完成です。

かなり熱々なので火傷に注意しながら、お好みで醤油をつけていただきます。ポン酢とラー油でもおいしいかも。好きな調味料で食べてくださいね。(皮の食感がしっかりしているので、やわらかいのが好みの人はシュウマイ専用の皮を使った方がいいかもしれません)

個人的には出来たてより、少し冷めてから食べるのがおすすめです。トウモロコシやズッキーニの食感と甘みが鮮明で、口のなかで弾けるおいしさです。

さあ、飲みますよ。酒器は「山形正宗」のラベルに合わせて、浴衣にありそうな絵柄の切子を選びました。我ながらすてきな組み合わせです。

この酒は、口当たりがふわふわとやわらかく、おいしい軟水を飲んでいるような飲み口で口溶けもいいです。野菜の味と重なると少し酸が浮き上がり、トウモロコシやズッキーニの甘みをやんわりと包みます。

酔えば酔うほど気持ちが和んで脱力。疲れた一日の終わりにいただきたい、夏の夕暮れが似合う酒とつまみです。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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