Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに17年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)

無意識に“日本酒脳”になりたい

昨今は、和食だけではなく、他ジャンルの料理に日本酒を合わせる店が増えています。日本酒はこんな料理にも合うものなのかと、プロの好奇心と手ほどきに感心することばかりです。イタリアンやフレンチにキリッとした酸味が持ち味の日本酒、中華にコクのある燗酒なども好きな組み合わせです。

でも、自宅ではとにかく頭を使わずラクに飲みたいので、日本酒を飲む比率が高くても“無理に日本酒を合わせない”のが私のモットーです。熱々の揚げ物を食べれば冷えたビールが飲みたくなりますし、脂が多めの豚肉を香ばしく焼き、ひきたての黒コショウを振れば焼酎のソーダ割り、というように。

日本酒も合わなくはないけれど、他のお酒の方がおいしく飲めるのならば、そっちを選ぶのが自分にとっては健全です。日本酒愛が強い私ですが、意固地になり、なにがなんでも日本酒を合わせて悦に入るような、フェチズム的な飲み方は好きじゃないんです。

ですから、日本酒を飲むときは、それに合いそうな料理をひたすら妄想します。必然的に洋食よりも和食寄りになるのですが、無意識に日本酒じゃなければだめ、というような“日本酒脳”になるつまみを考えたいのです(本連載もそうなるつまみを紹介しているつもりです)。

調味料ひとつ変えるだけで日本酒つまみに

“日本酒脳”になる料理をつくるにはどうしたらいいのか?

答えはいくつかあるのですが、実は、私がもっとも気を使っているのが料理に使う油です。市販されている油は種類がたくさんありますが、日本酒つまみをつくるときは、サラダ油や米油、菜種油のような淡白な油を使うんです。

日本酒と合わないわけではないのですが、どうしてもオリーブオイルを使えばワイン、濃いごま油の香りをかぐとビールや焼酎などの蒸留酒を飲みたくなってしまいます。あくまでも個人的な感覚なのですが、特に個性の強い油は“日本酒脳”のさまたげになる気がしています。ということは、中華や洋食のレシピでも、使う油を淡白なものに変えるだけで、日本酒が飲みたくなるつまみに近づく気がしています。

スペイン料理のアヒージョを日本酒つまみにする

では、ものは試しで、白ワインが進むスペイン料理のアヒージョを、淡白な油でつくってみたいと思います。今回は、援軍として長らく日本酒の相棒をつとめてきたイワシの丸干しと、旬の新ジャガや生の実山椒(みさんしょう)を使います。

イワシ丸干し3本、茹でた新ジャガ3個、実山椒小さじ2弱(辛みが苦手な方は小さじ1)、サラダ油を適宜。七味小さじ2、日本酒小さじ1/2。

フライパンに油を写真くらい入れて火をつけます。

油が温まってきたらイワシの丸干し、適当に切った新ジャガを入れたら中火弱で焼いていきます。

片面が焼けてきたら裏返し、実山椒を入れてイワシの丸干しと新ジャガを両面、さらに焼きます。う〜ん。いい匂い。イワシの丸干しは強力な助っ人ですね。匂いをかぐだけで、日本酒のことしか考えられなくなります。

このつまみに合わせるのは、福島県の「会津娘」です。ほのぼのした米の甘みが口に広がり、ほのかな酸と苦味が全体を引き締めています。そんなに冷やさずに、やや冷えからの常温で飲むのがおすすめですよ。

さて、全体が香ばしく焼けたら完成です。私はイワシの丸干しの塩気だけで十分なのですが、もし塩味が足りなければ、お好みで塩をふりかけてくださいね。

七味に日本酒(会津娘)を少し注ぐと、しっとりとして生七味みたいになります。これを味変の調味料として添えます。

イワシのほろ苦さと新ジャガの土の香りは、会津娘のほのぼのした甘みに合いますね。実山椒の鮮烈な辛みやしびれも、優しく包んでくれます。イワシの肝が溶けたオイルに、新ジャガをペトペトつけながらつまむのも口がうれしいです。

残った実山椒オイルは、熱々のごはんに万能ネギとともに混ぜたり(つまみで旨い)、イカを炒めるときに入れるなど、捨てずに調味料として使ってくださいね。日本酒七味も、そばやうどんに入れるのもおすすめですよ。

このように日本酒七味もつけてどうぞ。実山椒とは違った芳醇な辛みがまたクセになる! 日本酒がいくらでも飲めちゃいます。私の脳内は夜ふけまで“日本酒脳”なのでした。

写真・文=山内聖子

気がつけばもう4月ですね。しぼりたての新酒の後は、春酒という、この季節限定で発売される日本酒が顔を見せはじめます。今回は、この春酒について考えてみました。
こんばんは、山内聖子です。私は、趣味が日本酒、仕事も日本酒の物書きです。長い間、日本酒のことばかりを考えて毎日を過ごしているのですが、このコラムは、そんな私が偏愛するあらゆる日本酒の話と、日本酒を飲みたくなるつまみの簡単なレシピを、毎回ひとりごとのように紹介する記事です。どうぞ、体を楽にして読んでいただけたらうれしいです。