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Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに18年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)

いろいろな酒を飲む現在の蔵元たち

日本酒蔵の蔵元を取り巻くお酒の風景は、私が日本酒に出会った約18年前と比べてずいぶん変わった気がしています。

日本酒の世界に入ったばかりの頃を振り返ると、お酒の席にいる蔵元たちといえば、日本酒を飲んでいる姿しかほとんど記憶にありません。その頃は、深い付き合いをする蔵元たちがまだ少なく、個人的に飲みに行く機会がほとんどなかったということもありますが。当時は、日本酒蔵がおおっぴらに他ジャンルの酒を飲むのが、ちょっとはばかられるような雰囲気がありました。

ひょっとしたら、同業他社の日本酒すら酒場で飲むのを許されない空気みたいなものを漂わせていたと思います。他の銘柄をすすめても、「いえ、私は自分の蔵の酒を飲みます」と律儀に断られることもありました。

営業のためとはいえ、生活の娯楽にもなる酒を仕事にすることの気苦労を、勝手に痛感した私。蔵元たちの自社の酒に対する忠誠心に敬意を持ちつつ、一方で、いろんな酒を自由に飲めない(と推測する)姿は心苦しくもありました。

しかし、現在は、少なくとも私と付き合いがある蔵元は、様々な酒を自由に飲んでいます。ビールにワイン、焼酎、ウィスキー、ブランデーなどなど。締めにペルノー(アニスやコリアンダーなど多数のハーブが主成分の40度の蒸留酒)を飲むのにハマり、後輩と深夜にボトル1本開けたという逸話を持つ酒豪の蔵元もいるほど、18年前に比べて日本酒蔵の蔵元たちの飲酒自由度はずいぶん高くなっています。

飲酒の自由度が高くなったのは、酒蔵同士の交流が活発になり互いの酒を飲む機会が増えたこと、現蔵元たちは学生時代からいろんな酒を飲んでいた素地があったことなど、いくつか理由が考えられます。ともあれ、同業他社の日本酒だけではなく、他ジャンルの酒を飲む機会が増えるのは、ものづくりをする人たちにとって新たな創造をもたらすことであり、日本酒造りの可能性がもっと広がるチャンスでもあると思うのです。

ラベルが鏡文字になっているのは、この酒は蔵元が今まで造らなかった“裏バージョン”であり、日本酒業界の再起を願った造り手の思いである“Reverse”などを掛け合わせたことに由来する。
ラベルが鏡文字になっているのは、この酒は蔵元が今まで造らなかった“裏バージョン”であり、日本酒業界の再起を願った造り手の思いである“Reverse”などを掛け合わせたことに由来する。

会えば必ず「早くビール飲みたい!」と言い、電話で話しながら飲むときはよく「プシュッ」と缶を開ける音がするほどビール好きな、「冩樂」の蔵元が造る地元銘柄の「宮泉 アッサンブラージュ」も、他ジャンルの酒であるワインがもたらした概念です。

アッサンブラージュとは、複数の酒を混ぜることによって新たな味を生み出す手法で、昨今の日本酒業界で挑戦する蔵が後を絶たない注目のアプローチです。古くから日本酒の世界でも、味を均一化するためのブレンド法はありますが、新しい酒質を創るために酒を混ぜるというアプローチは、ワインから得たものです。

「宮泉」のアッサンブラージュは、新しく仲間入りした3人の蔵人たち(敬称略:二瓶・井上・星)が中心になり3種類の「宮泉」をブレンドした酒で、ラベルの裏には、

“今までの「原料を磨き上げ洗練し続ける宮泉」の味に新しく「アッサンブラージュ(ブレンドの技術)」、デザイン(チームのカラー)、想い(日本酒の未来)をのせ完成しました”

とあります。磐梯山や会津盆地の裏風景、裏磐梯、五色沼をイメージしたというラベルが美しいこの酒は、通常のシャープな「宮泉」よりもふくらみのある味わいで、一回りスケールが大きくなったと思わせるような味幅があります。これは、一つの酒では表現できない味わいだと思いました。

日本酒にもビールにも合うつまみです

さて、折しも快晴で猛暑の本日。今回はビール好きな「冩樂」の蔵元を思い浮かべつつ、「宮泉」とビールに合う酢鶏を作りたいと思います。まずは、冷え冷えのビールをゴクリ。う〜ん、うまい! みなさんもぜひビール片手に作ってくださいね。

鶏もも肉170gくらい、トロ茄子1/2本(普通の茄子の場合は1本)、めんつゆ大さじ3、濃縮還元レモン果汁大さじ3、塩小さじ1、片栗粉とサラダ油を適宜、タバスコをお好みで。

ぶつ切りにした鶏もも肉をボウルに入れ、塩をまぶして全体をもみます。

トロ茄子は角切りにします。

塩もみした鶏もも肉に片栗粉をたっぷりかけ、よくまぶします。

鶏もも肉が半分浸るくらいの油をフライパンに注いで火をつけます。油が温まったら鶏もも肉を入れ、両面を中火弱で揚げ焼きにします。

両面を揚げ焼きにしたらいったん取り出し、揚げ物バットあるいはキッチンペーパーの上に乗せて油を切ります。

片栗粉が残ったボウルに茄子を入れて軽くまぶしたら、鶏もも肉を揚げ焼きにしたフライパンで今度は茄子にも火を入れます。両面を香ばしく揚げ焼にしたら、茄子も取り出して別のバットなどに乗せて油をよく切ります。

余談ですが、フライパンにある油と半分残ったトロ茄子をどうにかしたかった私は、これもついでに揚げ焼きに。おかかと醤油をかければ別の一品になります。食べきれない場合は冷蔵庫に入れて、常備菜にしてもいいですよ。

ちょっと脱線しましたが、話を戻します。

フライパンに残った油をキッチンペーパーなどで取り除き、揚げ焼きにした鶏もも肉を並べます。そして、めんつゆと濃縮レモン果汁を混ぜた調味料を注ぎます。

油を切った茄子も入れ、とろみが出るまで全体をよく混ぜ合わせたら完成です。

皿に盛りつけたら仕上げにタバスコをお好みでかけてくださいね。全体の味がタバスコの辛味で引き締まります。最初は少しだけかけて、徐々に辛くして食べるのもおすすめです。

ビールはすでにカラになってしまったので、いよいよ本格的に「宮泉」を飲みますよ。定番酒にはないやわらかいふくよかさは、やはりアッサンブラージュの効果だなあと感じました。でも、キレのある後口は通常の「宮泉」と同じく健在なので、さらっとした気持ちいい飲み心地です。

レモンのキリッとした酸味が効いた酢鶏に合わせると、爽快な酒の酸味が浮き上がってきます。茄子はとろとろと口の中で溶けていきます。オイリーなつまみですが、酒とつまみの酸が口の中をさっぱりさせるので、いくら食べてもちっとも飲み疲れしません。

しかし、我ながら、これはまたビールが欲しくなるつまみですね。と、冷蔵庫に走る私。今日はビールをチェイサーに「宮泉」を飲み続けようと思います。

文・写真=山内聖子

日本酒は、どんな料理にもなんとなく合ってしまう柔軟性が魅力です。中華にイタリアン、フレンチなどでも、合わせたときに対立する料理がほぼないということです。しかし、私は特に自宅だと、日本酒を合わせてみよう、と考察させられる料理よりも、無意識に日本酒を飲みたくなるつまみを好みます。今回は、そんなつまみをつくるちょっとしたコツについて書きます。
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