酒店からイタリアンに転換して20年以上。本格イタリアンを追求する

モダンな一軒家、『オステリア西国分寺』の外観。駅から徒歩1分とついふらっと立ち寄りたくなる距離。
モダンな一軒家、『オステリア西国分寺』の外観。駅から徒歩1分とついふらっと立ち寄りたくなる距離。

ログハウス風の店に入ると、出迎えてくれたのは店主の牧山源(はじむ)さん。

「僕は2代目店主なんです。2014年に初代店主である父から受け継ぎました。試行錯誤をしながら世代交代をしつつ、一緒に店をやっています」

元は酒店だったが業態を変換して、1997年にイタリアン『オステリア西国分寺』を始める。家族で一から試行錯誤をして飲食の道を極めた。

初代店主であり、ピザ職人でもある父 仁一郎さん。店のピザ作りを一手に引き受ける。
初代店主であり、ピザ職人でもある父 仁一郎さん。店のピザ作りを一手に引き受ける。

食への愛情の入れ方も抜かりはない。厨房に構えるのはイタリアから直輸入した本格薪窯。今時珍しく店には煙突も備えている。

薪窯は火加減の扱いがとても難しい。今でもその扱いを器用にこなせるのは父、仁一郎さんのみという。長年積み重ねてきた、繊細な技術なのだ。

提供しているピザは全て薪窯で焼く。
提供しているピザは全て薪窯で焼く。

イタリア流儀の料理に、自慢の酒をペアリングする

店一番人気のピザは、マルゲリータ。濃厚なトマトソース、モッツァレラチーズに、生バジルの青々しい香りがふわりと鼻をくすぐる。

ピザの耳はハンドクラフトならではの厚みがあり、もっちりと食べ応えがある。ガス窯とは一線を画した香ばしさは、薪窯ならではの500℃という高温で一気に焼き上げることで出来る味。ほんのりとした苦味が病みつきになる。

本場イタリアのようにハサミで切りながらいただくのが流儀だ。

店一番人気のピザ、マルゲリータ1490円。1枚1枚ハンドクラフトで生地を作る。
店一番人気のピザ、マルゲリータ1490円。1枚1枚ハンドクラフトで生地を作る。

酒類の豊富さからも目が離せない。困ったときには店主の源さんを始め、スタッフに相談することがおすすめだ。

日本酒からリキュール、ワイン、スパークリングワインとその数50種類以上も揃っており、ハズレなしのフードとのペアリングが楽しめる。

日本酒からワイン、リキュールまで豊富に揃う。料理に合わせてセレクトするのが楽しい。
日本酒からワイン、リキュールまで豊富に揃う。料理に合わせてセレクトするのが楽しい。

訪れる客のことを誰よりも考える

何より店主の源さん、観察力と接客力が抜きん出ているのだ。

中学を卒業後、進学せずに飲食業界一筋。『オステリア西国分寺』を継ぐまでにも、複数の飲食店でホール、調理、店長と修行に励んだ。中でもホール業に関しては、「人たらし」と言われるほどに客に愛され、常連客が多くついていたと言う。

「イタリア料理に重要なのは、人の交流と場の雰囲気です。楽しく食べることが何よりも大切。だからお客さんとの会話と交流が欠かせないですね。スタッフにも力を入れて教えています」と話す。

何気なく会話をしている客の姿や雰囲気、注文をする料理を、さりげなく且つくまなく観察し、好みを常に汲み取っている。そこに合わせた酒をおすすめしたり、提供する料理の味つけを個々人のシチュエーションに合わせて微妙に変化を加えたりと、見えない箇所でさりげなく配慮しているというのだから驚きだ。

2代目店主の牧山源さん。客とのコミュニケーションを何より大切にする。
2代目店主の牧山源さん。客とのコミュニケーションを何より大切にする。

食材への遊びも忘れない。リーズナブルな料理が揃う店内で一際目立つのは、愛知県産の高級卵「たまゆら琥珀」。東京都内で唯一取り入れている店がここ『オステリア西国分寺』だという。聞けば、1個300円もする高級卵だ。そんな高級卵を使っていながらもリーズナブルな料理の提供は変わらない。

大丈夫なのだろうか、とつい心配したくもなる。

「いや、本当に美味しいんですよ。だから店で取り入れたいなと思って。いいものを扱えるなら皆そうしたいですよね。原価度外視ですけど、他のことでバランスが取れればいいかなと思って」とカラッと笑うのは、厨房を担当する店長の高橋一世(いっせい)さん。

高橋さんは、2代目店主の源さんが引き抜いてきた元パティシエ。若い彼らが店を盛り上げるためにバッテリーを組んでいる。

たまゆら琥珀と黒トリュフのふわとろ焼き1320円。東京都内で唯一仕入れている愛知県産の卵「たまゆら琥珀」を使用。バケットに乗せていただく。
たまゆら琥珀と黒トリュフのふわとろ焼き1320円。東京都内で唯一仕入れている愛知県産の卵「たまゆら琥珀」を使用。バケットに乗せていただく。

無理なく楽しく、それがイタリアン

店主、店長を始め、この店のスタッフ全員に共通しているのは、面白いことや楽しいことの追求をし、無理なく上手にバランスを取っているということ。彼らがその志向にこだわるのは、それがイタリア料理の流儀に基づいているものだからなのだ。

こうしたスタンスは2代目店主の源さんが上手に取れ入れた。それを初代店主を務めた父、そして母が陰ながら応援し、支えているという姿も微笑ましい。

「長く良い経営をするためには、楽しく無理をしないことが大事。先代たちの積み重ねた軌跡に敬意を払いつつも、自分たちが楽しくないとお客さんも楽しくないからね」と笑う源さん。

こうしたスタッフたちの姿に魅了され、多くの常連客が後を絶たない。この店は昔からの常連客と、2代目店主に交代してからの常連客にと永続的に愛されている。

「お客さんから手紙や差し入れなどいただくこともあり、ありがたいですね」

さあ、このディープな店『オステリア西国分寺』に足を伸ばしてみよう。その居心地の良さに、足繁く通いたくなることだろう。

住所:国分寺市西恋ヶ窪2-6-21/営業時間:12:00~20:00LO/定休日:毎週月・第一日(月が祝日の場合、翌火が定休)/アクセス:JR西国分寺駅から徒歩1分

取材・撮影・文=永見薫