音楽を介したコミュニケーションも醍醐味(だいごみ)『CHILLOUT Coffee &...Records』【両国】
レコードを裏返す間の無音状態も心地よい。「さっきの『Close To You 』のカバーは誰ですか?」と気になったことを聞くと、「Gwen Guthrie です。いくつかバージョンがあって……」と、店主の村田俊介さん。日中はゆるめのソウルやラバーズ・ロックをかけることが多いらしい。なんだか今日の天気にも合っているし、寛(くつろ)げるなぁ。
村田さんがこれらのジャンルに目覚めたのは20歳前後、トラックメーカーをしている先輩に教わり、D’Angelo やTLCなど90年代のR&B、ヒップ・ホップを聴くようになったのがきっかけだとか。「それからサンプリングソースを掘り始めて、ジャズやソウル、ワールドミュージックまで好きに」と、音楽談義は尽きない。友達の家に遊びに行ったら、棚から取り出した一枚をかけてくれて「お、これいいね!」なんて語り合う、あの感じに近いかもしれない。
『CHILLOUT Coffee &...Records』店舗詳細
音に包まれ、オーディオ沼の深淵をのぞく『tonlist(トンリスト)』【下北沢】
下北沢の老舗劇場『ザ・スズナリ』の1階、鈴なり横丁。その一軒を訪れるとテンポのいいジャズが流れている。タンノイのスピーカーから出る音は粒立ちがよく、野外フェスのような開放感。しかもひとつひとつの余韻が空間に留まってくれるから臨場感も感じられ、世界に引き込まれる。
かかっているのは現代のジャズ。店主が言うには「(往年の名曲と比べて)音数が多くて、低音が深い。タンノイはそれをきれいに再生してくれると思うんです」。ジャズ喫茶のスピーカーとして主流のJBLがアメリカでシアター向けに開発されたのが始まりなのに対し、タンノイの発祥地・イギリスでは、BBCが採用するモニターに厳しい基準を持っていて、それでスピーカーが発展した。音響など、店主のこだわり方で同じ曲でも違って聴こえる。これを味わうためにカフェを巡るのもいいね。
『tonlist』店舗詳細
音楽のために造られた空間で酔いしれる『Café Otonova(オトノヴァ)』【浅草】
西浅草のかっぱ橋道具街からヒョイっと路地に入る。築60年以上になる建物は、かつて飴(あめ)屋の店舗兼住居だったという。学生時代から30年以上レコードを収集し、DJもする店主の渋谷航介さんは、「リノベーションするにあたり、設計士さんにDJブースありきでお願いしました」。店構えなど、イメージしたのはエコール・ド・パリの時代のカフェ。コーヒーはもちろん、昼からアルコールも飲め、ほろ酔いでバンドネオンの音楽を聴けば気分はパリにひとっ飛び。
通常営業時にDJを入れることもしばしばで、ジャズ、ラテンなど「その人の選曲によって店の雰囲気が変わります」。毎月第1土曜日に開かれるレギュラーイベントでは、スカやレゲエを中心に幅広くミックスする「東京ロンドン化計画」のMA☆SA氏を招集する。グラスを片手にゆらゆら揺れながら、どこまでも浸りたい。
『Café Otonova』店舗詳細
/定休日:不定/アクセス:つくばエクスプレス浅草駅から徒歩6分
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年10月号より




