善知鳥

おかわりが止まらない優しい燗酒

青森県出身の店主、今悟さんがつける燗酒は体に優しく染みわたる。

かつて阿佐ケ谷にあった燗酒の名店『善知鳥』が一時休業し、5年の歳月を経て西荻窪で復活したのが2015年。店主の今悟さんが手の感覚だけでつける“ほっこり”した燗酒のファンは常連客のみならず、移転後、ますます増えている。銘柄は全15種類を揃えるが、阿佐ケ谷時代から燗をつけ続けている「長珍」「豊盃」などの定番5種は外せない。「酒の本質をわかって両思いになるには時間が必要です」と笑う店主がつければ、驚くほど味わいがやわらかくなる。手作りの青森おでんや自家製の珍味を肴にすれば果てしなくおかわりが止まらず、温泉に浸っているみたいに心地いい。だが、長居しすぎてのぼせるのにはご注意を。

ホタテの繊細な出汁を利かせた青森おでん(各200円)は生姜味噌をつけてどうぞ。
テーブル席はホッとする昭和の雰囲気。

『善知鳥』店舗詳細

住所:東京都杉並区西荻北3-31-10 2F/営業時間:17:00~ 22:30(肴21:00LO、酒21:30LO)/定休日:日・祝/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩5分

日本酒 根津 多田

若い店主が丁寧につける愛の燗酒

出汁のいい香りが酒を呼ぶ、かき豆腐とオニオンヌーボー980円。

オープンは2015年で、店主の多田修平さんは当時まだ30歳。だが、「顔の見える造り手の酒を丁寧に注ぎたい」と日本酒への情熱は並々ならぬものがあり、早々に蔵元からの信頼を得た。そんな店主が選んだ全40銘柄のうち、燗向きとすすめるのは重厚な「不老泉」や初心者にぴったりな「弥右衛門」など約8種類。燗つけは発展途上だと控えめだが、「お燗を知ったほうが、日本酒の楽しい世界が何倍にも広がります。それぞれの酒のことをちゃんと知って、もっとおいしく出せるようになりたい」と語る。“楽しい世界”とは、「温度によって表情を変え、隠れていた味わいがお燗によって引き出されること」と多田さんは力強く教えてくれた。

店主の多田修平さんの晩酌は燗酒という。
ピンクペッパーでピリリとアクセントをつけた、あん肝の白蒸し880円。

『日本酒 根津 多田』店舗詳細

住所:東京都文京区根津2-15-12木村ビル1F/営業時間:18:00~23:30(土・日は15:30~22:00)/定休日:月・不定休/アクセス:根津駅から徒歩3分

火弖ル 吉祥寺本店

ゆる~く飲んで酔う燗酒処

同店は吉祥寺の燗酒専門店「カイ燗」の2号店。酒を注ぐのが店主の小倉拓也さん。

思わず全身の力が抜けてしまうほど、ゆる~く飲める燗酒処。気負いはいらない。ウンチクはもっといらない。「燗酒はリラックスして飲むものです。意識するもんじゃない。知らないうちにおいしいなーって思ってもらえたらうれしい」と店主の小倉拓也さん。銘柄は「玉櫻」や「岩の井」などコアなファンが喜ぶものが多いが、小倉さんのスタンスは変わらず。多くは語らず黙々と燗をつけては、スッと良い加減の温度で出してくれる。そして、こちらは燗酒処といってもレモンサワーや自家製のボールのほか、前割り焼酎があるなど、酒類が豊富なのが特筆すべき点。色んな酒を行ったり来たりしながら、にやにやと飲む燗酒ほど楽しくラクチンなものはない。

奥が紅生姜を使った紅玉420円、手前がハムカツ480円。肴は素朴で懐かしいものが多数。
湯煎で温められたお酒たち。

『火弖ル 吉祥寺本店』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-30-14/営業時間:平日16:00~24:00、日16:00~23:00/定休日:不定休/アクセス:JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩4分

SAKEBOZU

スパイスと燗酒の世界へようこそ

南インドの漬物にヒントを得た「いくらとウールガイののっけめし」850円。

まず店内に入ると漂うのは、魚を焼くのでも煮物を炊く香りでもない。異国を感じさせるスパイスの匂いなのだから、驚く。「これじゃあ、もう何屋かわかんないでしょ」と笑うのが店主の前田朋さん。燗酒といえば和食が定番だが、店主の発想はそれだけにとどまらず、スパイスや多国籍料理と融合させているところが面白い。「でも、濃醇なタイプの日本酒の酸とよく合うんですよ」との言葉どおり、合わせて納得。山椒が効いた「牛バラ肉の麻辣煮」やカルダモンが香る「いくらとウールガイののっけめし」も、どっしり重心が低い「梅津」「竹鶴」に難なくピタリとハマりすぎて怖いくらい。日本酒は懐の深い、いや深すぎる酒ということが実感できるはず。

牛バラ肉の麻辣煮2200円は燗酒が止まらない肴。
厨房に立つ店主の前田朋さん。扱う銘柄は約17種類。

『酒坊主(SAKEBOZU)』店舗詳細

住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-37-1 ロナーYSビル2F/営業時間:平日16:00~22:00、日・祝14:00~20:00/定休日:不定休/アクセス:代々木八幡駅から徒歩5分

酒ト壽

路地裏の古民家でじっくり一献

燗をつける女将見習いの日下由樹子さん。

多くの人が行き交う神楽坂の路地裏にひっそりと佇む。古民家を改装したという落ち着いた店内は、まさにじっくり杯を傾けたくなる雰囲気。カウンターの隅に鎮座する古めかしい酒燗器を眺めていると、もうそれだけで燗酒が飲みたくなる。「燗酒と言っても、本格派にしたくなかったのでこれを採用しました。いいでしょ、この大衆感(笑)」と店主の山本和巳さん。上から酒を注げば5秒で約40度のぬる燗が出来上がるそうで、せっかちな酒飲みにはたまらなくうれしい。本格派にしたくないとはいえ、揃えるのは「天穏(てんおん)」「田从(たびと)」など、愛好家でも納得の銘柄が全30種類。特に力を入れているという鮮魚を使った料理がおいしく味わえる、食中酒が中心だ。

新鮮な金目煮付けは1078円と破格の安さ。そして旨い!
隠れ家のような場所に位置する。カウンター14席の他、2階の座敷22席もあり。

『酒ト壽』店舗詳細

住所:東京都新宿区神楽坂4-2/営業時間:17:00~23:30/定休日:日/アクセス:地下鉄有楽町線・南北線、JR中央線飯田橋駅から徒歩6~7分

構成=フラップネクスト 取材・文=山内聖子 撮影=本野克佳