善知鳥
おかわりが止まらない優しい燗酒
かつて阿佐ケ谷にあった燗酒の名店『善知鳥』が一時休業し、5年の歳月を経て西荻窪で復活したのが2015年。店主の今悟さんが手の感覚だけでつける“ほっこり”した燗酒のファンは常連客のみならず、移転後、ますます増えている。銘柄は全15種類を揃えるが、阿佐ケ谷時代から燗をつけ続けている「長珍」「豊盃」などの定番5種は外せない。「酒の本質をわかって両思いになるには時間が必要です」と笑う店主がつければ、驚くほど味わいがやわらかくなる。手作りの青森おでんや自家製の珍味を肴にすれば果てしなくおかわりが止まらず、温泉に浸っているみたいに心地いい。だが、長居しすぎてのぼせるのにはご注意を。
『善知鳥』店舗詳細
日本酒 根津 多田
若い店主が丁寧につける愛の燗酒
オープンは2015年で、店主の多田修平さんは当時まだ30歳。だが、「顔の見える造り手の酒を丁寧に注ぎたい」と日本酒への情熱は並々ならぬものがあり、早々に蔵元からの信頼を得た。そんな店主が選んだ全40銘柄のうち、燗向きとすすめるのは重厚な「不老泉」や初心者にぴったりな「弥右衛門」など約8種類。燗つけは発展途上だと控えめだが、「お燗を知ったほうが、日本酒の楽しい世界が何倍にも広がります。それぞれの酒のことをちゃんと知って、もっとおいしく出せるようになりたい」と語る。“楽しい世界”とは、「温度によって表情を変え、隠れていた味わいがお燗によって引き出されること」と多田さんは力強く教えてくれた。
『日本酒 根津 多田』店舗詳細
火弖ル 吉祥寺本店
ゆる~く飲んで酔う燗酒処
思わず全身の力が抜けてしまうほど、ゆる~く飲める燗酒処。気負いはいらない。ウンチクはもっといらない。「燗酒はリラックスして飲むものです。意識するもんじゃない。知らないうちにおいしいなーって思ってもらえたらうれしい」と店主の小倉拓也さん。銘柄は「玉櫻」や「岩の井」などコアなファンが喜ぶものが多いが、小倉さんのスタンスは変わらず。多くは語らず黙々と燗をつけては、スッと良い加減の温度で出してくれる。そして、こちらは燗酒処といってもレモンサワーや自家製のボールのほか、前割り焼酎があるなど、酒類が豊富なのが特筆すべき点。色んな酒を行ったり来たりしながら、にやにやと飲む燗酒ほど楽しくラクチンなものはない。
『火弖ル 吉祥寺本店』店舗詳細
SAKEBOZU
スパイスと燗酒の世界へようこそ
まず店内に入ると漂うのは、魚を焼くのでも煮物を炊く香りでもない。異国を感じさせるスパイスの匂いなのだから、驚く。「これじゃあ、もう何屋かわかんないでしょ」と笑うのが店主の前田朋さん。燗酒といえば和食が定番だが、店主の発想はそれだけにとどまらず、スパイスや多国籍料理と融合させているところが面白い。「でも、濃醇なタイプの日本酒の酸とよく合うんですよ」との言葉どおり、合わせて納得。山椒が効いた「牛バラ肉の麻辣煮」やカルダモンが香る「いくらとウールガイののっけめし」も、どっしり重心が低い「梅津」「竹鶴」に難なくピタリとハマりすぎて怖いくらい。日本酒は懐の深い、いや深すぎる酒ということが実感できるはず。
『酒坊主(SAKEBOZU)』店舗詳細
酒ト壽
路地裏の古民家でじっくり一献
多くの人が行き交う神楽坂の路地裏にひっそりと佇む。古民家を改装したという落ち着いた店内は、まさにじっくり杯を傾けたくなる雰囲気。カウンターの隅に鎮座する古めかしい酒燗器を眺めていると、もうそれだけで燗酒が飲みたくなる。「燗酒と言っても、本格派にしたくなかったのでこれを採用しました。いいでしょ、この大衆感(笑)」と店主の山本和巳さん。上から酒を注げば5秒で約40度のぬる燗が出来上がるそうで、せっかちな酒飲みにはたまらなくうれしい。本格派にしたくないとはいえ、揃えるのは「天穏(てんおん)」「田从(たびと)」など、愛好家でも納得の銘柄が全30種類。特に力を入れているという鮮魚を使った料理がおいしく味わえる、食中酒が中心だ。
『酒ト壽』店舗詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=山内聖子 撮影=本野克佳