変わらぬ味を守る町そば屋の新作『味多香庵(みたかあん)』【三鷹】
創業90年になる町そば屋の新作は、せりそば。せりを噛(か)むシャキシャキという音に食欲を煽(あお)られ、自家製麺を勢いよく啜(すす)ると、なめらかな舌触り、豚の甘みが溶け込んだカツオ出汁の風味が口の中に舞う。「父に教わった基本を守っているだけ」と3代目・梅澤政宏さんは控えめだが、その笑顔から「変わらぬ味」を求める常連客への感謝が伝わる。笑顔がかわいい母・昭江さんは、看板娘歴約50年。
『味多香庵』店舗詳細
親子、孫と代々通う地元客も多い『キッチン・ブラウン』【東小金井】
1973年に開店し、それ以来夫婦で切り盛り。看板メニューのビーフシチューは、当初この辺りではあまり食べられる店がなく、「常連さんの中にはここで食べて初めて知ったという人もいるみたいです」と店主の石田紀彦さん。タマネギや果物を入れ、煮込むこと約5時間。表面に浮いてくる余分な油をこまめに取り除くので、ほろほろに溶けた牛スネ肉の旨味がすっきりと際立つ。ハンバーグにビーフシチューをかけた一品もおすすめ。
『キッチン・ブラウン』店舗詳細
食べ応え満点!街の人々の原動力『だんでぃらいおん』【東小金井】
粗びき肉に炒めたタマネギを多めに加え、フライパンとオーブンで中まで火を入れたビッグサイズのハンバーグをあむっと頬張る。噛み締めるたびに広がるのは、力強い牛肉のうまみと穏やかな豚肉の甘み。1978年に創業してからずっと、近隣の大学に通う学生たちの御用達。アルバイトも学生が多く、店主の成道収一さんが言うには「私が教えたレシピでハンバーグを拵(こしら)えて、自宅の冷凍庫にストックしている人もいます」。まるで、おふくろの味。
『だんでぃらいおん』店舗詳細
親子3代かけて磨き上げた味『福家』【三鷹】
「祖父が三鷹で商売を始めたのが1930年。とんかつ専門店にしたのは父です」。そう教えてくれたのは、現在の形になって2代目に当たる野村一仁さん。駅前に店を構え、代々街を見守ってきたので、長年の客は3代目が一緒に厨房に立つことになり喜んだという。こだわりの群馬県産「下田さん家の豚肉」をフレッシュなラードでカラリと揚げたとんかつは、サクッとした衣と銘柄豚のまろやかな甘みが食べる人を優しい気持ちにさせてくれる。
『福家』店舗詳細
店の名物が街のソウルフードに『宝華』【東小金井】
1971年、当時19歳の先代が東小金井で創業。今から1990年頃に「うちの宝にしよう」と始めた油そば、その名も宝そばはやがて街の名物となり、周辺で油そばを出す店が増えた。とはいえ、自家製麺の卵に似た朗らかな風味(卵不使用)や、油のうまみとキレの良さを併せ持つ醤油だれなど唯一無二の存在。「口の中をリセットするにはカイワレの辛味が不可欠」と店主の小榑(こぐれ)美加さん。もちっとした麺を箸で持ち上げると、よく絡んだたれがキラリ。
『宝華』店舗詳細
取材・文=信藤舞子 撮影=鈴木愛子 山出高士(味多香庵)
『散歩の達人』2025年2月号より