伝統の味に品格を添えて『毘沙門せんべい福屋』

天日干しの旨さ光る名物・毘沙門せんべいをはじめ、豊富な品揃え。
天日干しの旨さ光る名物・毘沙門せんべいをはじめ、豊富な品揃え。

所々の焦げ色は決して焼き過ぎではなく、旨さの引き立て役。数十年前、偶然工場の前を通り掛かった中村勘三郎は「もっと焼いてくれ、もっと!とせがんだそうです」と、福屋の2代目主人が教えてくれた。東京煎餅を引き立てるのは焦げの香ばしさと、名優は見透してた。ほのかな甘味をたたえた醤油味と手の平に収まるサイズ感、そして歯応えには品と程のよさがある。そこにちりばめた焦げ目に、愛嬌たっぷりの中村屋の笑顔が潜む。

手焼 勘三郎せんべい 1枚108円。
手焼 勘三郎せんべい 1枚108円。
茶目っ気あふれる17世中村勘三郎丈の笑顔が見えるような一句。
茶目っ気あふれる17世中村勘三郎丈の笑顔が見えるような一句。

『毘沙門せんべい福屋』店舗詳細

住所:東京都新宿区神楽坂4-2/営業時間:10:00~20:00(土は~18:00)/定休日:日・祝/アクセス:JR・地下鉄飯田橋駅から徒歩3分

職人の遊び心が生んだ珍しいせんべいも多数『神田淡平』

女将の鈴木佐代子さんと、若女将の晴絵さん。晴絵さんは元パティシエで「新風を吹き込んでくれました」と佐代子さん。
女将の鈴木佐代子さんと、若女将の晴絵さん。晴絵さんは元パティシエで「新風を吹き込んでくれました」と佐代子さん。

国産米を製粉し、生地を作ることから自社で行う。そのため、イカスミやシナモンなどいろいろなものを中に練り込み、バリエーションを増やせるという。とはいえ遊び心は果てしないが、奇をてらうわけではない。噛むほどに甘みが増すせんべいは、米の持ち味を生かすべく生地をよく寝かせ、配合も試行錯誤しているから。香ばしさに醤油の塩味、米の甘みがブワッと舞う。

激辛 特辛子煎餅 1枚210円。
激辛 特辛子煎餅 1枚210円。

『神田淡平』店舗詳細

芸どころが認めた味を守って『にんぎょう町 草加屋』

絶え間なくせんべいを裏返すご主人は、まるで修行僧。
絶え間なくせんべいを裏返すご主人は、まるで修行僧。

「一番大切なのは炭火です」と断言する3代目主人。最高の米を使い、砂糖は一切使わない。炭火で少しずつ焼くと自然の甘みと旨味が生まれる。備長炭の火おこしに2時間かけて焼き上げたせんべいは、清々しさすら宿る。キリリとした醤油味、パリンとキレのある歯応え。この江戸前せんべいを、近所にあった寄席に出演する噺家たちが買い求めたのもうなずける。明治座があり、かつて花街が栄えた人形町で、粋筋に認められた味だ。

手焼き煎餅 550円(5枚入り)。
手焼き煎餅 550円(5枚入り)。
年代ものの木箱で乾燥させる。
年代ものの木箱で乾燥させる。
江戸前の噺家・3代目桂三木助の手拭い。
江戸前の噺家・3代目桂三木助の手拭い。

『にんぎょう町 草加屋』店舗詳細

住所:東京都中央区日本橋人形町2-20-5/営業時間:10:00~18:00(土・祝は10:00~17:00)/定休日:日・月/アクセス:地下鉄日比谷線人形町駅から徒歩2分

和菓子をしのぐ実力派『三原堂本店』

人形町界隈の町名をデザインした化粧箱入りは、手みやげの人気者。
人形町界隈の町名をデザインした化粧箱入りは、手みやげの人気者。

せんべいは手焼き醤油味に限る……と言いたいけど、この味と食感だけは脱帽もの。和菓子店なのに、今や和菓子全体と同じ売り上げを誇り「せんべいの『三原堂』と言う方が多くて」と営業部・伊藤さんが笑うように、一般客もせんべいファンも満足させる。口の中で躍るつぶつぶ感の心地よさと、香ばしい醤油風味と良質の塩のバランスが、後引く旨さを作り上げている。敢えて個性を抑えた出しゃばらぬ味わいに、街の老舗菓子店を感じる。

塩せんべい 442円(10枚入り)。
塩せんべい 442円(10枚入り)。
元は和菓子専門だが、洋菓子も手掛けるのがうれしい。
元は和菓子専門だが、洋菓子も手掛けるのがうれしい。

『三原堂本店』店舗詳細

住所:東京都中央区日本橋人形町1-14-10/営業時間:9:30~19:30(土・日・祝は~18:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄半蔵門線水天宮前駅からすぐ

熟練の手わざを目の当たりに『本手焼せんべい 喜作』

店頭では熟練の職人さんが、特製手袋をはめて黙々と炭火に向かう。
店頭では熟練の職人さんが、特製手袋をはめて黙々と炭火に向かう。

わざとこわし、二度づけという言葉と、炭火焼きの生地に醤油の染みた焦げ目……せんべいマニアには夢の様な風景だ。割れたせんべいを「久助」と呼ぶが、『喜作』で働く職人が、販売できない久助を再度醤油に付け焼きして食べてたのを見た先代が商品化したという。「地味な作業だけど、こうしないとおいしくできないんです」と3代目が言うように、熟練の職人さんがじっくり焼く。これを割って醤油を潜くぐらせるセンスに拍手!

かたやき 二度付おこげ 669円。
かたやき 二度付おこげ 669円。
焼き台の上で、予熱を利用して焼き上がりの乾燥を行う。
焼き台の上で、予熱を利用して焼き上がりの乾燥を行う。

『本手焼せんべい 喜作』店舗詳細

住所:東京都文京区関口1-7-2/営業時間:9:30~19:00/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩3分

変わらぬ店構えに違わぬ味を『昔せんべい 大黒屋』

寺町らしく「墓参の帰りに必ず寄る常連も多いんです」と話す女将さん。
寺町らしく「墓参の帰りに必ず寄る常連も多いんです」と話す女将さん。

谷中七福神のひとつ、大黒天(護国院)に向かう参道のような役目を果たしていた坂道。「昔からうちはシンプルなんですよ」と3代目と共にせんべいを焼く女将さんが言う昔せんべいは、その名に違わぬ、パリパリでキリッと醤油味を押し出す、どこか懐かしい味わい。年季の入った店構えは、この味にこそ相ふ さわ応しい。昭和の東京なら、こんな店が街に一軒はあったはず。言葉の端々に言う女将さんの「普通」こそ、一番大切で難しいのだ。

炭火手焼 700円(5枚入り)。
炭火手焼 700円(5枚入り)。
当代の父である先代主人の勇姿が店内に。
当代の父である先代主人の勇姿が店内に。

『昔せんべい 大黒屋』店舗詳細

住所:東京都台東区谷中1-3-4/営業時間:10:00~17:00/定休日:木/アクセス:地下鉄千代田線根津駅から徒歩2分

家族で育んできた手焼きせんべいの味『こがね堂』

おしどり夫婦の上原健二さん、美な子さん。
おしどり夫婦の上原健二さん、美な子さん。

昭和初期、先代が西荻に開業。戦争から戻ったのちに高井戸で再出発し、今では地元の名物にまでなった。ザラ丸や白雪にフリーズドライの梅を散らしてみたり、変わり種は2代目の上原健二さんが発案。「食べてみると、砂糖の奥に梅を感じますでしょ」。確かに!最初に甘みが来て、次にほのかな酸味、それから醤油と米の味わい、香ばしさもどっと混じってくる。五味が追いかけっこし合う効果で、味がどんどん立体的になっていくぞ。

高井戸せんべい ザラ丸 540円(7枚入り)。
高井戸せんべい ザラ丸 540円(7枚入り)。
高井戸せんべい 白雪 540円(5枚入り、抹茶風味と詰め合わせ)。
高井戸せんべい 白雪 540円(5枚入り、抹茶風味と詰め合わせ)。
ひなまつりシーズン限定のひなあられ。完全手作りで、口溶けがたまらなくよい。
ひなまつりシーズン限定のひなあられ。完全手作りで、口溶けがたまらなくよい。

『こがね堂』店舗詳細

住所:東京都杉並区高井戸西1-29-1/営業時間:9:30~19:30/定休日:日/アクセス:京王井の頭線高井戸駅から徒歩1分

厳選した材料で米のよさを教えてくれる『富士見堂』

せんべい作りは自社で精米するところから。店の奥で生地を作っている。
せんべい作りは自社で精米するところから。店の奥で生地を作っている。

商品棚に小窓があり、取材時、のぞいてみると奥の工房で生地作りの真っ最中!「生地から作れば、米にもこだわれるんです」と代表取締役の佐々木健雄さん。次世代に米の文化をつなぐことが、せんべい屋の役割だという。さくっとした歯ざわりの白ほおばりは、北海道産の特別栽培米を使用。空気を含ませながら手作業で作り、そのエアリーな構造ゆえ口どけがよく、ダイレクトに米の旨味を感じさせる。特製甘醤油の上品な香りもいい。

白ほおばり 598円(12枚入り)。
白ほおばり 598円(12枚入り)。
バリエーション豊富なせんべい、あられが並ぶ。
バリエーション豊富なせんべい、あられが並ぶ。

『富士見堂』店舗詳細

住所:東京都葛飾区青戸3-25-7/営業時間:9:00~18:00/定休日:日/アクセス:京成本線・押上線青砥駅から徒歩5分

ファン層は幅広く、大人から子供まで『金時せんべい』

1枚1枚に気を配りつつ、職人が手焼き。熟練を要する仕事だ。
1枚1枚に気を配りつつ、職人が手焼き。熟練を要する仕事だ。

「地元の幼稚園では、園児がうちの小判(のりを散らしたミニ醤油せんべい)を食べながら帰りのバスを待つんです」と店主の馬場泰寛さん。ここは、そんな微笑ましいエピソードが似合う店なのだ。店内に並ぶせんべいは、職人技が光る硬派なものと、ほっこり系が百花繚乱。ひときわ目を引くのは白くて甘い雪を頂く富士山で、麓に当たるしょっぱい部分と交互に食べ進めるのがいい。甘い、しょっぱい、と異なる味覚が反応してワクワク。

富士山 1枚86円。
富士山 1枚86円。
店頭には和の雑貨も。
店頭には和の雑貨も。
活気あふれる野方商店街に位置。
活気あふれる野方商店街に位置。

『金時せんべい』店舗詳細

住所:東京都中野区野方5-30-20/営業時間:9:00~19:00/定休日:日・祝/アクセス:西武新宿線野方駅から徒歩1 分

かの噺家が贔屓にした粋な名店『八重垣煎餅』

せんべいを手焼きする様子をのぞける。
せんべいを手焼きする様子をのぞける。

店の一角で、網の上に並べたせんべいを職人がトングで一枚一枚ひっくり返す姿に、つい見入ってしまう。名物は、立川談志が愛した堅焼き。その偉大な名物の陰に、たくさんの優品があることを忘るべからず!東京ぬれやき煎について、店主の竹田旭さんは「失敗作から誕生したんです」と照れ笑い。一般的なぬれせんよりも表面がカリッとして、きりっとした醤油の風味と香ばしさもバッチリ保たれている。これは癖になるわ。

東京ぬれやき煎  432円(12枚入り)。
東京ぬれやき煎  432円(12枚入り)。
店舗が入るマンションの階上に、立川談志が住んでいた。店に直筆の標語も残る。
店舗が入るマンションの階上に、立川談志が住んでいた。店に直筆の標語も残る。

『八重垣煎餅』店舗詳細

住所:東京都文京区根津1-23-9-102/営業時間:10:00~19:00(日・祝は11:00~17:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄千代田線根津駅から徒歩5分

構成=柿崎真英 取材・文=高野ひろし、信藤舞子 撮影=丸毛透