錦糸町『山田家』。本所七不思議にちなむ人形焼は包装紙まで趣がある。

JR錦糸町駅の南口から徒歩約2分、四ツ目通り沿いにある昭和26年(1909)創業の『山田家』。 “本所七不思議”をモチーフにした人形焼が名物で、元々は7話にちなむ型があったそうだが、今では“置行堀(おいてけぼり)”に登場する狸(たぬき)と“津軽太鼓”の太鼓のみが残る。これに加えてまん丸の三笠山(みかさやま)と餡なしの紅葉の4種類が同店の人形焼だ。

『山田家』の人形焼の生地は、一般的なものより卵の割合が多い贅沢な配合だ。元鶏卵問屋である同店が60年以上使い続けているのは茨城県のひたち農園直送の奥久慈卵。卵黄が濃厚で卵白がしっかりしているため、柔らかな口溶けの良さを求めて粉を減らしても、生地に十分な張りが出るそうだ。ふんわりしっとりとした生地の中には北海道産小豆と白ザラメを使う薄紫色の餡がたっぷり。

漫画家で江戸風俗研究家でもあった宮尾しげを氏が描いた本所七不思議7話が載る包装紙も味わい深い。同店をひいきにしている直木賞受賞作家の宮部みゆき氏は、この包み紙をヒントに『本所深川ふしぎ草子』を執筆し、吉川英治文学新人賞を受賞した。

焼きたての狸。ぷっくりと膨らんだお腹が愛らしい。
焼きたての狸。ぷっくりと膨らんだお腹が愛らしい。
漫画家の宮尾しげを氏が『山田家』のために描いた“本所七不思議”の包装紙。
漫画家の宮尾しげを氏が『山田家』のために描いた“本所七不思議”の包装紙。
現在の『山田家』の人形焼は4種類。右から反時計回りに狸、紅葉、三笠山×2、太鼓。
現在の『山田家』の人形焼は4種類。右から反時計回りに狸、紅葉、三笠山×2、太鼓。
住所:東京都墨田区江東橋3-8-11/営業時間:10:00〜18:00/定休日:水・1月1日/アクセス:JR錦糸町駅・地下鉄半蔵門線錦糸町駅から徒歩約2分

四谷『坂本屋』。東京のカステラといえばここ!

JR・地下鉄四ツ谷駅から徒歩5分、四谷1丁目にある明治30年(1897)創業の『坂本屋』。和菓子店『坂本屋』で、かすてらをはじめたのは大正5年(1916)、多才だったと伝わる2代目だ。独学でかすてらの作り方を習得し、同店の味を生み出した。同店のかすてらの材料は、卵と小麦粉、砂糖、水飴、みりん。これだけだ。材料の仕入れ先もずっと同じ。かすてら作りに欠かせない、泡切りと呼ばれる気泡を抜く作業をしながら、ガス窯で1時間かけてじっくり焼き上げる。ガスで焼くと電気よりも風味が強く出るという。

3代目の坂本純一さんを含めて3人で、一日平均10枚のかすてらを焼き上げる。かすてら1枚で8斤分なので、店頭に並ぶのは一日80斤分だ。0.5斤から3斤まで、0.5刻みに全6サイズあり、サイズや用途により箱なし、箱入り、桐箱入りが選べるが、『坂本屋』のかすてらといえば、ラップでぴっちりと包み、包装紙でくるりと包まれた箱なしの0.5斤だ。一番人気で、同店の顔のような存在だ。

1枚を半分に切ったものを、0.5斤×8個に切り分けている。
1枚を半分に切ったものを、0.5斤×8個に切り分けている。
店内にはかすてらの甘い香りがただよう。
店内にはかすてらの甘い香りがただよう。
一番人気の0.5斤箱なし。
一番人気の0.5斤箱なし。
住所:東京都新宿区四谷1-18-12 坂本屋ビル /営業時間:平日9:30~17:30/土9:30~17:00/定休日:日・祝/アクセス:JR・地下鉄四ツ谷駅より徒歩5分

飯田橋『不二家 飯田橋神楽坂店』。ここでしか食べられない手焼きのペコちゃん焼が貴重!

神楽坂通りと外堀通りが交差する、神楽坂の入り口からすぐの場所にある『不二家 飯田橋神楽坂店』が、洋菓子店『不二家』のフランチャイズチェーンとして創業したのは昭和42年(1967)。以来家族経営を続けており、現オーナーの平松潮(ひらまつうしお)さんで3代目になる。

かつては全国の『不二家』店頭で焼いていたという大判焼き、ペコちゃん焼を同店ではじめたのは昭和44年(1969)。チャレンジ精神に富んだ店舗が業績アップのために焼くことが多かったというが、場所をとるうえ、手焼きで手間暇がかかるため、業績が上向いたお店は焼くことをやめ、そうでない店舗は閉店し、今ではペコちゃん焼を焼いているのはここだけになった。ペコちゃん焼は材料の仕入れから本体の『不二家』とは異なる。焼きたてのペコちゃん焼はさっくりふんわり。一番人気のミルキークリームは練乳の甘さとコクがたまらない。3代目が改良したという生地は風味がいい。甘さが控えめなので、濃厚なクリームと合わせてもくどくなく、一人で2~3種類食べられそうだ。

一番人気のミルキークリーム。
一番人気のミルキークリーム。
シュールでかわいいペコちゃん焼。
シュールでかわいいペコちゃん焼。
おめかしのリボンは味の目印。
おめかしのリボンは味の目印。
住所:東京都新宿区神楽坂1-12/営業時間:10:00~20:00/定休日:無/アクセス:JR飯田橋駅から徒歩2分・地下鉄飯田橋駅すぐ

『千成もなか本舗』大塚店。和風パンケーキって?

JR山手線大塚駅の南口・都電荒川線大塚駅前から徒歩1分、荒川線の軌道のすぐ側にある『千成もなか本舗』大塚店。昭和12年(1937)に最中専門店として創業したが、まもなくしてどら焼きなどの和菓子もはじめた。 平成8年(1996)には大塚店から徒歩15分、JR山手線・都営三田線巣鴨駅から徒歩1,2分の場所に巣鴨店を開き、以来2店舗を営んできた。現在は、初代の清水信次郎氏の孫にあたる清水秀広社長と、社長の姉の大塘(おおども)恵美さんらご家族が店を守る。

看板商品は店名の通り最中だが、それをしのぐほど人気なのが常連客のリクエストを受けて、10年ほど前から始めたという餡なしのどら焼き、その名も和風パンケーキ。 どら焼きを皮だけ売るなんて納得できないという職人さんを説得して販売を始めたそうだ。銅板に生地を流してガラスの蓋をして蒸し焼きにし、一呼吸おいたらさっと裏返す。卵をたっぷり贅沢に、小麦粉と同割配合し、隠し味に醤油と酒を入れることで香ばしくコクのある生地が焼き上がる。甘い香りは店の外まで漂っている。

職人さん一人で一日2000枚焼き上げることもあるという!
職人さん一人で一日2000枚焼き上げることもあるという!
左はミニサイズ、右はレギュラーサイズの和風パンケーキ。
左はミニサイズ、右はレギュラーサイズの和風パンケーキ。
『千成もなか本舗』大塚店。
『千成もなか本舗』大塚店。
住所:東京都豊島区南大塚3-54-4/営業時間:10:00~19:00/定休日:年中無休/アクセス:JR山手線大塚駅、都電荒川線大塚駅前より徒歩1分

六本木『OYOGE』。鯛のないたい焼き屋で手土産を!

東京ミッドタウンから徒歩4分ほどの場所に2020年3月にオープンした鯛のないたい焼き屋『OYOGE(およげ)』。店主の渡辺真一さんは元フランス料理の料理人。自分なら洋菓子の手法を使うことで冷めてもおいしいたい焼きを作れると思ったのが開業のきっかけだ。

「毎日焼かれることが嫌になり逃げ出したたい焼き」に代わり焼かれているのはイワシ、アジ、アサリの3匹。普段は目立たないけれど日本人になじみのある3匹だ。フィナンシェをイメージして冷めてもおいしいことを目指したという生地には、アーモンドプードルやもち粉、牛乳、きび砂糖が入る。外側は香ばしくサックリ、中はしっとりとろりとしている。一般的なたい焼きの皮とはもちろん異なるけれど、もっちりとした食感は洋菓子とも違っていて独特だ。オープン以来一番人気のイワシには、クリームチーズを練り込んだ滑らかなつぶあんが入る。あんに爽やかさとミルキーなコクが加わり、しっとりとした生地に馴染む。

焼き立ては外側が香ばしく中はとろり。(写真提供:OYOGE)
焼き立ては外側が香ばしく中はとろり。(写真提供:OYOGE)
特注の型で焼き上げる。(写真提供:OYOGE)
特注の型で焼き上げる。(写真提供:OYOGE)
3匹入ったBOXセット。冷めてもおいしいから手土産にも!(写真提供:OYOGE)
3匹入ったBOXセット。冷めてもおいしいから手土産にも!(写真提供:OYOGE)
住所:東京都港区六本木7-13-10 TOMASビル1階102号室/営業時間:10:30〜23:00/アクセス:地下鉄日比谷線・大江戸線六本木駅から徒歩5分

取材・文・撮影=原亜樹子(菓子文化研究家)