新宿中村屋『カジュアルダイニング Granna(グランナ)』。老舗の伝統を継承するカレー
明治34年(1901)創業の老舗、レトルトカレーや中華まんなど、お家の食卓でもおなじみの中村屋。昭和2年(1927)に日本で初めて本場のインドカレーを発売したといわれている。新宿中村屋ビル8階にある『カジュアルダイニング Granna』では、その純印度式カリーをはじめとした中村屋伝統の料理を気軽に楽しめる。
純印度式カリーはスパイスの奥深い味わいを感じつつもまろやかな味わい。発売当時の作り方を継承しているが、時代ごとに入手できる材料も変化するため、料理人たちはその都度、試行錯誤し、工夫を凝らしてきたという。
そして特筆すべきはライス。幻の米といわれる“白目米(しろめまい)”だ。お米らしい旨味があって、カリーとの相性が抜群。純印度式カリー70周年(1997年)を記念して幻の白目米を復活させようと、種もみ探しから始め、苦労の末、再びお客様に提供できるようになった。
「原点に立ち返って考えるっていうことを常に意識している」という中村屋。次は何を復活させてくれるのか、楽しみに待ちたい。
『カジュアルダイニング Granna』店舗詳細
『すずや 新宿本店』棟方志功も常連だった老舗の名物とんかつ茶漬け
『すずや 新宿本店』は歌舞伎町の入り口にあるとんかつ店。版画家の棟方志功や民芸運動で有名な柳宗悦など著名な人たちが常連客として通った、1974年創業の老舗だ。店内は明るく開放感があり、テーブルや椅子などの調度品は落ち着いた色調と懐かしさを感じるデザインで、居心地のいい空間となっている。
店の名物は来店客の7~8割の人が注文するというとんかつ茶づけ。たれは定番醤油味、からし醤油味、にんにく生姜醤油味から選べる。鉄板に乗せられた熱々のとんかつの上には大量の炒めキャベツと刻み海苔。まずは和風とんかつとしていただく。たれの醤油味の香ばしさと炒めキャベツの食感、さらに豚肉の旨味で食が進み全部食べ切りそうな勢いになるが、とんかつを2~3切れ残してストップ。〆は残りのご飯と炒めキャベツ、とんかつに番茶をかけていただく。1つで2度おいしい、大満足メニューなのだ。
『すずや 新宿本店』店舗詳細
『桂花ラーメン 新宿末広店』。東京で50年以上愛される熊本ラーメンの名店
1955年に熊本で久富サツキさんが創業した『桂花ラーメン』。その13年後の1968年、年の瀬12月に東京・新宿三丁目に出店し、熊本ラーメンを初めて東京に持ち込んだ。高度経済成長真っ只中、このほぼ2年後にはアジア初の日本万国博覧会が大阪で開催されるという華やかで希望に満ちた、そんな時代だった。
当時、東京でラーメンといえば、醬油味の中華そばが主流で、ご当地ラーメンといえば札幌の味噌ラーメンがあったぐらい。そこに九州の豚骨ラーメンの登場である。真っ白いスープに独特な香りを放つ黒い油がかかった、見たこともないラーメン。初めのうちこそこの未知のラーメンに、新しもの好きの東京人もさすがに及び腰だったが、メディアで紹介されたことをきっかけに注目されることとなる。
中でも、東京進出記念メニューの太肉麵(ターローメン)が大人気に。柔らかく煮込まれた太肉(豚の角煮)にたっぷりの生キャベツなどをトッピングした栄養満点の一杯だ。太肉麵はその後、熊本本店に逆輸入され今や『桂花』を代表する看板メニューだ。東京で半世紀以上に渡り人々の胃袋を満たし、何十年経ってもまた食べたくなる人生の一杯を提供し続ける『桂花ラーメン』。まさに新宿の名店である。
『桂花ラーメン 新宿末広店』店舗詳細
『お多幸 新宿店』100年引き継がれるつゆが味の決め手
大正12年(1923)に銀座で誕生した『お多幸』。昭和27年(1952)、当時銀座5丁目にあった本店で戦前から勤務していた野田嘉文さんが、のれん分けされた『お多幸 銀座店』を銀座8丁目に出店。続いて昭和34年(1959)には新宿店も誕生した。
おでんのつゆは、創業当時のものを継ぎ足しながら使い、昔から続いている製法でたねを仕込む。つゆはカツオと昆布のだし、濃口醤油と薄口醬油を混ぜた混合醤油などで味付けられ、長年使い続ける鍋の中で不動の人気の大根、玉子、こんにゃくなど38種が煮込まれている。変わりだねに、わかめやシューマイ、とうふなども。おでんのほか刺身、焼物といった酒のアテもそろっている。
店長おすすめのおまかせ盛り合わせ1050円は、好きな具材や苦手な具材を聞いてくれるものの、基本的にはスタッフが選んで盛り付けてくれる。
大根を食べてみると箸で簡単に切れるほど柔らかく、口の中に入れたら溶けていった。食べ終わったつゆは出汁だけじゃなく具材の味わいが織り込まれていて、スープのように飲める。
『お多幸 新宿店』店舗詳細
創業大正10年『王ろじ』初代店主のレシピそのままのとん丼
東京メトロ新宿三丁目駅を出て徒歩2分。商業ビルの間の路地に入ると、『王ろじ』がある。伊勢丹新宿店の裏あたり、ビルに囲まれた一軒家だ。
創業は大正10年。丸の内にあった洋食店「中央亭」で修業した初代店主が神楽坂で開業し、終戦直後の昭和21年に現在の店舗がある新宿へ移転した。『王ろじ』という店名は、初代店主が、路地で一番のお店にするという思いからつけた名前だ。
人気メニューのとん丼は、ロースをつかったとんかつとビーフカレーをあわせていただける人気メニュー。レシピだけでなく、皿と丼が一体となった不思議な器など、現在も当時のままのこだわりを守り続けている。
もうひとつのおすすめメニューは、注文を受けてから一杯ずつ作るというとん汁。ぜひともとん丼とセットで注文したい。
『王ろじ』店舗詳細
『隨園別館 新宿本店』ここでしか食べられない名物“貧乏人の北京ダック”
1963年、新宿1丁目にオープンした『隨園別館』。台湾料理と北京料理が融合され、さらに日本人にも好まれる料理を提供している。
創業当時からある水餃子や酢味のスープ(酸辣湯)と並び人気なのは、別名“貧乏人の北京ダック”と呼ばれる、合菜戴帽(がっさいだいぼう)1540円。ちなみにクレープの皮のような薄餅は1枚50円だ。
簡単に言うと薄焼き卵を乗せたモヤシ、ニラ、キャベツ、豚肉、春雨をショウガが利いた醤油ベースの調味料で手際よく炒められた五目野菜炒めを、クレープの皮のような薄餅に巻いて食べるというもの。中国の東北の家庭料理をこの店流にアレンジしたのだ。
自家製の甜麺醤は甘めでコクがあり、野菜のシャキシャキ感とふわふわ卵がたまらな~い。
無限に食べられそうだが、「これはうちのオリジナルだから北京のレストランで頼んでも出てこないです」と張本社長は笑う。これぞ『隨園別館』でしか食べられない名物だ。
『隨園別館 新宿本店』店舗詳細
『喫茶 楽屋』新宿末廣亭とともに歴史を刻む落語家さん御用達の喫茶店
地下鉄の新宿三丁目駅から約2分。東京で最も古い寄席新宿末廣亭の裏、背中合わせのように建つビルの2階にある『喫茶 楽屋』というちょっとユニークな店名の喫茶店。ここは新宿末廣亭と共に長い歴史を刻んできた知る人ぞ知る名店だ。
扉を開け、壁に寄席やショーのポスターがビッシリ貼られた階段を上っていくと、目の前にとても懐かしい風景が現れる。階段を上がりきった目の前には小さなカウンターがあり、フロアには緑のソファーと白いテーブル。壁に掛けられた短冊のメニューや障子、神棚や寄席文字で書かれた額など、まるで時間が止まったような空間が出来上がっている。
『喫茶楽屋』が開店したのは1958年のこと。お店を作ったのは北村銀太郎氏は新宿末廣亭の初代席亭。3代目店主の敬子さんは北村氏の孫にあたる。さらに敬子さんの曾祖父は落語界の大立者であった5代目柳亭左楽という凄いお血筋。お店を訪れる落語家の皆さんからは「敬ちゃん」「お嬢」と親しまれている。
『喫茶 楽屋』店舗詳細
1965年オープンのジャズクラブ『新宿PIT INN』。歴史は昼も夜も作られる!
日本のジャズ・シーンをリードし続ける老舗ジャズクラブ『新宿PIT INN』。雑居ビルの地下の扉を開くと、すべての椅子が奥のステージに向かって並ぶ店内は、そう広くはない。ただただ、演奏をする者とそれを聴く者たちのためだけの空間だ。
『新宿PIT INN』のライヴは、1ドリンク付のチケット制で、基本、昼の部の平日なら1300円(税別)1ドリンク付、夜の部3000円(税別)からの1ドリンク付で、ミニマム・チャージなし。出演者によってチケット料金は変動するが、ときに息をのむほど豪華なミュージシャンが出演する。夜の部では、国内の一流といわれるジャズ・ミュージシャンたちが、こぞってここで演奏するからだ。
一方、昼の部は『新宿PIT INN』で演奏することを目標にする若きミュージシャンたちの登竜門的存在。ここからスタートして、実力をつけ、夜の部に移行してく。『新宿PIT INN』の伝統で伝説だ。「ミュージシャンのやりたい音楽を自由にやってもらう」。これが『新宿PIT INN』のオープン当初からの姿勢。歴史は昼も夜も作られる。『新宿PIT INN』は、ジャズクラブの名店である。
『新宿PIT INN』店舗詳細
取材・文・撮影=京澤洋子、丸山美紀(アート・サプライ)、羽牟克郎、パンチ広沢、夏井誠