会話を大切にする、銘酒揃いの老舗『鈴木三河屋』[ 溜池山王 ]

ひとつの蔵の酒を種類豊富にストック

「皆様が納得のいくお酒選びをご提案します」
「皆様が納得のいくお酒選びをご提案します」

昭和30年代から、東京の中心に店を構える『鈴木三河屋』。2代目店主・鈴木修さんが若くして店を継いだ頃は洋酒を主に扱っていたが、石川県の「菊姫(きくひめ)」との取り引きを機に日本酒中心へとシフトした。それから約30年、コンパクトな店内に日本酒界をリードしてきた面々が並ぶ様子は、少数精鋭と呼ぶにふさわしい。この店独自のスタイルといえば、売り場に冷蔵庫を置いていないこと。棚の上に並ぶのはサンプルのダミー瓶で、客自身が商品を手に取るスタイルではないため、自然と会話が生まれる。

厳しい品質管理で知られる島根県の「王祿(おうろく)」。全国26軒の特約店のうちの1軒だ。
厳しい品質管理で知られる島根県の「王祿(おうろく)」。全国26軒の特約店のうちの1軒だ。

「お待たせしてしまう事になりますが、より良い状態で商品をお渡ししたい。コロナ禍で、営業時間を短縮したからこそ充実した接客を心掛けています」と、鈴木さん。目当ての銘柄を持つ常連客も多いが、一見さんにも常に公平に接し、まるでかかりつけ医のような親身な姿勢でぴったりの酒を提案してくれる。
「これから日本酒を飲み始めたいという方も、ぜひお待ちしています」

毎日2種類ずつ無料の試飲も用意。この日は山形県の「山形正宗」純米吟醸うすにごり生酒と静岡県の「喜久醉(きくよい)」純米吟醸松下米50。
毎日2種類ずつ無料の試飲も用意。この日は山形県の「山形正宗」純米吟醸うすにごり生酒と静岡県の「喜久醉(きくよい)」純米吟醸松下米50。
地下貯蔵庫(15℃)では、奈良県の「花巴(はなともえ)」山廃純米のオリジナル品を自家熟成中。
地下貯蔵庫(15℃)では、奈良県の「花巴(はなともえ)」山廃純米のオリジナル品を自家熟成中。

【店主のおすすめPICK UP!】

天美(てんび) 純米吟醸生原酒 長州酒造(山口県) 1760円(720㎖)

柑橘系の穏やかな香り。フレッシュ感と旨味のバランスが料理にも合う。
柑橘系の穏やかな香り。フレッシュ感と旨味のバランスが料理にも合う。

R01BY 丈径(たけみち) 生原酒 王祿酒造(島根県) 2200円(720㎖)

濃縮された旨味と滑らかな酸味があり、キレも◎。お燗でもおすすめ。
濃縮された旨味と滑らかな酸味があり、キレも◎。お燗でもおすすめ。

会津娘(あいづむすめ) 穣(じょう) 純米吟醸 羽黒前27 2021BY(有機)髙橋庄作酒造店(福島県) 2310円(720㎖)

田んぼごとに仕込む限定シリーズ。豊かな米の味わいを堪能できます。
田んぼごとに仕込む限定シリーズ。豊かな米の味わいを堪能できます。

『鈴木三河屋』店舗詳細

住所:東京都港区赤坂2-18-5/アクセス:地下鉄銀座線・南北線溜池山王駅から徒歩2分

あふれ出る酒愛で、全国各地の蔵を発掘『地酒屋こだま』[ 大塚 ]

冷蔵庫にぎっしり並ぶお酒たちが生き生きして見える

500人を超えるメンバーを擁する日本酒会の運営や、銘酒居酒屋での修業を経て開店した児玉さん。福岡県の「山の壽(やまのことぶき)」と共に。「人の目を気にして生きるなんて、くだらないことさ!」
500人を超えるメンバーを擁する日本酒会の運営や、銘酒居酒屋での修業を経て開店した児玉さん。福岡県の「山の壽(やまのことぶき)」と共に。「人の目を気にして生きるなんて、くだらないことさ!」

「俺を選んでくれ」。そんな声が聞こえる気がする。「狭いからでしょ?」と、店主の児玉武也さんは笑うが、冷蔵庫にぎっしり並ぶお酒たちは、水槽の中で泳ぐ魚のように、生き生きして見えるのだ。児玉さんが店を開店したのは2010年のこと。店内ほぼすべての商品が無料で試飲できるのは、お客さんに酒選びを絶対に失敗してほしくないという思いから。「同じ銘柄でも毎年酒質は違う。噓をつきながら商売はできないからさ」。

「一言メモ」では収まりきっていない紹介カードが、この店らしい。
「一言メモ」では収まりきっていない紹介カードが、この店らしい。

取引きする蔵元の基準は、「結局は友達になれるかどうかだね」と、児玉さん。そんな蔵との二人三脚を経て、満を持して店に並ぶ酒は、無名で小規模なものも多い。しかし、日本各地にはこんなにおいしくて溌剌(はつらつ)とした酒が、まだまだある事を感じずにはいられないものばかりだ。「でも“こだま色”に染める気はないんです。その酒がどこに向かったらもっと良くなるか、導くのが僕の仕事です」
客のため、酒蔵のため、なにより酒のために児玉さんの愛は今日も注がれる。

「無駄に話しかけないけど、気軽に声をかけてね」。これがこだまスタイル。ちなみに店内BGMはメタルだ。
「無駄に話しかけないけど、気軽に声をかけてね」。これがこだまスタイル。ちなみに店内BGMはメタルだ。
小さな店なので来店は1組2名まで、店内も5名までに制限中。
小さな店なので来店は1組2名まで、店内も5名までに制限中。

【店主のおすすめPICK UP!】

本金(ほんきん)諏訪純米吟醸 火入れ2020BY 1595円 (720㎖)酒ぬのや本金酒造 (長野県)

全てが諏訪産。柑橘系の酸と透明感ある旨味の秀逸なバランスが魅力。
全てが諏訪産。柑橘系の酸と透明感ある旨味の秀逸なバランスが魅力。

辰泉(たついずみ)純米吟醸生原酒 京の華1号生2020BY 1870円 (720㎖)辰泉酒造 (福島県)

京の華米の滋味深い旨味を、程よいフルーティーさが包む柔らかな旨酒。
京の華米の滋味深い旨味を、程よいフルーティーさが包む柔らかな旨酒。

北安大國(ほくあんだいこく)純米生原酒 別誂米旨熟成2017BY 1760円 (720㎖)北安醸造 (長野県)

ジューシーな酸+濃醇な旨味を2年以上寝かせて、深みと厚みが増した旨酒。
ジューシーな酸+濃醇な旨味を2年以上寝かせて、深みと厚みが増した旨酒。

『地酒屋こだま』店舗詳細

住所:東京都豊島区南大塚2-32-8/営業時間:13:00~20:00(土は11:00~20:00、日は11:00~19:00)/定休日:月/アクセス:JR山手線大塚駅から徒歩6分

日本酒の楽しさを広げてくれる、燗酒の聖地『大塚屋』[ 武蔵関 ]

「おいしい燗酒で、身も心も温まってください」

入り口目の前の燗酒の“島”にまず注目。ご主人が持つのは静岡県の「杉錦(すぎにしき)」と福岡県の「独楽蔵(こまぐら)」。奥様が持つのは島根県の「玉櫻(たまざくら)」。焼酎も圧巻の品揃え。
入り口目の前の燗酒の“島”にまず注目。ご主人が持つのは静岡県の「杉錦(すぎにしき)」と福岡県の「独楽蔵(こまぐら)」。奥様が持つのは島根県の「玉櫻(たまざくら)」。焼酎も圧巻の品揃え。

「酒は純米、燗ならなお良し」。日本酒界の重鎮・上原浩氏の格言を店先に掲げる酒屋が、武蔵関の住宅地にある。
約30年前、時代は「淡麗辛口」全盛期。店主の横山哲也さん・京子さん夫妻は、他の酒販店らと共に日々勉強会をしていた。その後、一般的に冷酒の「芳醇旨口」の時代が到来するが、横山夫妻がピンときたのは「日置桜(ひおきざくら)」、「鷹勇(たかいさみ)」と、どちらも鳥取県の燗上がりする銘柄だった。「売れ残っても、どうせ自分たちで飲むし」と、二人が好きになり、造り手に共感したものを集めていったところ、いつしか「燗酒の聖地」と呼ばれるまでになった。

木の香りがする日本酒セラー。
木の香りがする日本酒セラー。

店内の酒は、生酛(きもと)や山廃(やまはい)仕込みといった天然の乳酸菌を用いて時間と手間をかけて醸されたものが多い。「自然な香りがあって、微生物の働きを感じられて、体になじみます」と、京子さん。こうしたオーガニックな志向や、酸味のある味わいは、 ワイン愛好家の共感も得やすいという。「一升瓶で買っていただき、ゆっくりと味の変化を楽しむのも醍醐味ですよ」

練馬区の都内唯一の味噌蔵「糀屋三郎右衛門」をはじめ、食品や調味料も販売。
練馬区の都内唯一の味噌蔵「糀屋三郎右衛門」をはじめ、食品や調味料も販売。
2020年に現在の場所に移転。一見民家だが、地下貯蔵庫やバーカウンターも完備。
2020年に現在の場所に移転。一見民家だが、地下貯蔵庫やバーカウンターも完備。

【店主のおすすめPICK UP!】

酔右衛門(よえもん)特別純米 吟ぎんが 3410円 (1 .8ℓ)川村酒造店 (岩手県)

シャープで気品ある酸と緻密で清らかな旨味が特徴。冷やでも燗でも。
シャープで気品ある酸と緻密で清らかな旨味が特徴。冷やでも燗でも。

杉錦(すぎにしき)山廃純米にごり酒 3080円 (1 .8ℓ)杉井酒造 (静岡県)

旨辛口の爽やかなにごり酒で火入れ済。お鍋の供に最適。常温が◎。
旨辛口の爽やかなにごり酒で火入れ済。お鍋の供に最適。常温が◎。

辨天娘(べんてんむすめ)生酛強力(ごうりき)純米 3768円 (1 .8ℓ)太田酒造場 (鳥取県)

極熱燗ならこちら。強力米の野性味あふれる骨太な旨さを体感できます。
極熱燗ならこちら。強力米の野性味あふれる骨太な旨さを体感できます。

『大塚屋』店舗詳細

住所:東京都練馬区関町北2-16-11/営業時間:10:00~19:00(日は11:00~)/定休日:月/アクセス:西武新宿線武蔵関駅から徒歩3分

酒の境界線を取り払う、ニューカマー『Caliquors Tokyo』[ 神田 ]

「ポップにキャッチーにお酒選びをお手伝い◎」

思わず身構えてしまうような酒が並ぶが、店主の白石さんはとても気さくなのでご安心を。
思わず身構えてしまうような酒が並ぶが、店主の白石さんはとても気さくなのでご安心を。

神田駅近くの雑居ビルに、夜な夜な酒ラバーが集う風変りな酒屋が現れた。店主の白石達磨(たつま)さんは、自他共に認める無類の酒好き。20代の頃から音楽活動の傍ら全国各地の酒関係者と交流を重ね、突然クラフトビール専門誌の編集長になったかと思えば、飲食業に転身したり、イベントを企画したりと、まさに神出鬼没。新しいアプローチで酒を発信する基地にしたい、との思いで2020年に開店した。

あくまで酒を知り、買ってもらう事が目的なので、角打ちではなく有料試飲。
あくまで酒を知り、買ってもらう事が目的なので、角打ちではなく有料試飲。

扱うのは、クラフトビールとナチュールワイン、そしてオールお燗向けの日本酒の3本柱。どれも造り手の思想が色濃く反映された代物で、その道のプロが見てもギョッとする尖(とが)りっぷり。有料試飲に来る客は飲食店関係者も多く、皆が「酒の事なら白石君に聞こう」といった具合で、3種の酒が軽やかにクロスオーバーする。つまり、ワイン目当てで来ても、ビールにも日本酒にも出合う“着火点”だらけの空間が広がっているのだ。
「この店は自分の酒部屋のようなもの。遊びに行く感覚で、来ちゃってください」

ビール、ワイン、燗酒のトリオ。店名の「Cali」は、「三毛猫(Calico Cat)」にちなんでいる。「サヴァ」などグラスも一級品。割ったら罰金なのでご注意を。
ビール、ワイン、燗酒のトリオ。店名の「Cali」は、「三毛猫(Calico Cat)」にちなんでいる。「サヴァ」などグラスも一級品。割ったら罰金なのでご注意を。
作家ものの酒器も揃う。お気に入りを選んで燗酒を試してみて。
作家ものの酒器も揃う。お気に入りを選んで燗酒を試してみて。

【店主のおすすめPICK UP!】

冨玲(ふれい) 純粋清酒(上撰)2310円(1.8ℓ)梅津酒造(鳥取県)

速醸ながら深みがあり、真摯(しんし)に発酵させきった事が伝わってくる。
速醸ながら深みがあり、真摯(しんし)に発酵させきった事が伝わってくる。

初桜(はつざくら) 特別純米火入れ 玉栄2620円(1.8ℓ)安井酒造場(滋賀県)

どの温度帯でも食事に寄り添う。開栓後もゆっくり付き合いたい滋味。
どの温度帯でも食事に寄り添う。開栓後もゆっくり付き合いたい滋味。

十旭日(じゅうじあさひ) きもと純米雄町13%レトロラベル 3080円(1.8ℓ)旭日酒造(島根県)

加水によりさらっとした優しい口当たりながら、旨味もある万能選手。
加水によりさらっとした優しい口当たりながら、旨味もある万能選手。

『Caliquors Tokyo』店舗詳細

住所:東京都千代田区神田紺屋町28 紺屋ビル101/営業時間:15:00~23:00/定休日:無(不定休あり)/アクセス:JR・地下鉄神田駅から徒歩2分

取材・文=高橋 輝(編集部) 撮影=逢坂 聡