旧参道で出合った絶品イタリアパン
江戸幕府の五代将軍・徳川綱吉が、生母・桂昌院の願いを受け、天和元年(1681)に創建した大本山護国寺。その門前から、東側へ続く坂が富士見坂だ。名前の通り、かつて坂上からは富士山を遠望できたそう。坂の北側には、中層マンションの「Brillia護国寺富士見坂」が立つ。
「護国寺に寄り添うように建ち、上階からは境内も眺望できます。外壁タイルは、護国寺の瓦屋根をイメージした墨色の櫛引き調タイルを使っています」と石川さん。
護国寺仁王門方面へ向かうと、門前から南へゆるやかに下っている音羽通りが見える。
「この通りは、かつて護国寺の参道でした」とは、通り沿いで『パーネエオリオ』を営む小林照明さん。小林さんは江戸時代末期から先祖代々商いをしてきたこの場所で、イタリアパンの専門店を開いた。特に人気なのが、イタリアの師匠から「俺の子供を預けるから大切にしろよ」と譲り受けたパネトーネ酵母で作る、パネトーネ。バターと卵をたっぷりのリッチな生地とふわふわ食感が素晴らしく、遠方から買いに来る客もいるほど!
ヴィンンテージと欧風、どちらが好み?
大塚警察署前の交差点を東に上ると、ジブリ映画で有名になったコクリコ坂に出る。坂に沿った高台に建つのが「音羽ハウス」だ。
「約4600平方メートルもの敷地に建つ、1970年築のヴィンテージマンションです。広尾ガーデンヒルズと同じ設計事務所が手掛けており、ベランダの意匠などファサードに風格を感じさせます」と石川さん。
再び音羽通りに戻り南へ進むと、欧風テイストのホテルのような外観が目を引く中層マンションが目に留まる。
「この『パークスクエア文京音羽』は、音羽通りのある西側のブライトコートと、『鳩山会館』周辺の緑を望む東側のフォレストコートの2棟構成。利便性の高さと、緑あふれる空間が共存するという贅沢な環境なんですよ」。
マンション北側にはカジュアルフレンチの『TeF』があり、ランチ時は女性客を中心に大にぎわい。帰り際、パティシエである奥様手製の焼き菓子を手土産に買っていくお客も多い。
高台の上に流れる穏やかな空気
今度は針路を一転、音羽通りの西側へ。閑静な目白台坂を上ると現れるのが、人気のヴィンテージマンション「目白台ハウス」だ。オリーブ色のタイルと山吹色、白の3色に彩られた外観は、レトロな佇まい。かつては多くの著名人や文豪が暮らしたアパートメントで、谷崎潤一郎や瀬戸内寂聴などが仕事場として使っていたそう。石川さんいわく「護国寺・江戸川橋周辺は、大規模修繕が施され管理の行き届いた人気のヴィンテージマンションが点在しています」。
坂をさらに進むと、山縣有朋が築いた庭園の残る『ホテル椿山荘』、その先に両翼を広げたような造りの東京カテドラル聖マリア大聖堂が。この文京区関口界隈は雰囲気が落ち着いていて、行き交う人々にもどことなく品を感じる。
「大聖堂の隣に建つのが、『ヒルズ目白台』です。目白通り側のヒルトップコートと、その奥のフォレストコートに分かれ、前者は広い間口を活かした3室南向きワイドスパンの住戸が多い。後者は1フロア3戸と角住戸率の高さが特徴です」。
都心にいながら四季の移ろいを感じる
目白通りから、ヒルズ目白台の西へ伸びる小道へ折れると、旧熊本藩主細川家の屋敷跡に立つ『永青文庫』が見えてくる。大名細川家に伝わる文化財と、16代の細川護立(もりたつ)が蒐集した美術工芸品を所蔵する美術館だ。
「この辺りはイチョウ並木や神田川の桜、庭園のもみじなど都心にありながら四季折々の自然を感じられる。のんびり散歩するのにぴったりの場所だと思います」とは学芸員の舟串彩さん。
永青文庫を出て胸突坂を下ると、そこは神田川。季節は春、ふわふわと揺れる満開の桜が迎えてくれた。駒塚橋を渡り、印刷所の集まる関口一丁目を歩いていると、ウッドデッキのある瀟洒な建物が。
「この『我楽田長屋』は、印刷工場をリノベーションしたコワーキングスペースです」と代表の横山貴敏さん。道を挟んだ隣には、イベント開催やギャラリーとして使えるレンタルスペースの『我楽田工房』も。中を覗くと、地元ママによる楽しそうな音楽教室が行われていた。
「子育て世代の方をはじめ、この地域で起業したい、何か始めようとしてる人を応援したい。いつかこの街がシリコンバレーのような場所になったら、と思っています」。
2019年には神田川沿いに文京区初のクラフトビール醸造所ができるなど、新たな胎動も聞こえてくるこのエリア。歴史薫るこの街がどのように変化していくのか、今から楽しみでならない。