仏教的な「食」も意識してメニューを提供する
そもそも「なゆた」とは、サンスクリット語でとても大きな桁数を表す「那由他」のこと。「たくさんの人が集う、楽しい場所にしたくて。なごんで、ゆったり、たのしくの意味もあります」と話すのはオーナーの野々部さん。真言宗豊山派の寺である金剛院33代目の住職だ。
漢字を分解すると「人」を「良くする」で「食」になるように、仏教では「食」をとても大切なものとして扱う。そのため、素材にも気を使い、一つ一つ丁寧に作る、野菜を中心としたメニューを提供している。
建物の1階がカフェになっており、地下1階や2階はイベントスペースなどとして利用。ヨガやシニアのフラダンス教室だけでなく、“説法婚活”やがんに悩む人が相談できるがんカフェになったり、子供食堂になったり……といろいろな用途で地域コミュニティとしての役割を果たしているのだ。
大人気の「お寺ごはん」。今日のメニューは……
住職おすすめの「お寺ごはん」は、メインのほかに副菜3品や小鉢、サラダ、味噌汁、ほうじ茶がつく大満足のメニューだ。内容は毎日変わるが、この日は出汁をたっぷり吸わせた車麩のフライ、ディルとキュウリと大根の浅漬、ひじき煮、人参とビーツの煮物、いんげんと高野豆腐の胡麻和え。
こだわりの有機酵素玄米は、キビ、アワ、古代米3種(赤・緑・黒)を配合し、小豆と金時豆の酵素で一晩発酵させ圧力釜で2時間かけて炊く。とてももちもちしていて噛みごたえがあった。冷めてもおいしいので、お弁当にも人気だという。
「仏さまが大好きで大好きで」と話すのは店長の松井さんだ。料理が好きで、別の仕事を持ちながら副業でカフェ店員としても働いていたところ、この店の立ち上げに誘われた。まさに天職!である。
その日入荷した食材を見て、スタッフ皆でアイディアを出しながらメニューを決めている。副菜はフードロスの環境的な立場から、大量には作らず30食程。常に通って下さる方には、同じメニューが重ならないようにも気を配っている。
苦手な野菜がある方には、別の副菜で対応できるように味付けに工夫して、常備7~8種の提供ができる準備もしている。また、最近はテイクアウトの需要もあるので「お寺ごはん弁当」には8~9種もの野菜が入っているそうだ。
腹八分目で健康、腹六分目で医者いらず、腹四分目でさとりを開くとは住職の言葉。私たちの食空間、食生活スタイルも「いかにSDGs(持続可能な開発目標)に資するかどうか」ということが、大きな流れのポイントなのかもしれない。そういう意味では、この寺カフェは次世代カフェとも言うべきか。
地域コミュニティの拠点として
客として来た人に対して、「なゆた」で行っているさまざまな活動の告知を見てもらい、いずれはボランティアにも参加してもらえるようになってほしい、というのが野々部さんの願いだ。
「高齢化により、地域が助け合って生きていかなければならない時代はすぐそこですから」と野々部さんは話す。
しゃれた外観のカフェであるとともに、食育に通じ、地域のコミュニティ活性化の拠点でもある。「なゆた」の活動の幅は徐々に広がりを見せている。
取材・文・撮影=ミヤウチマサコ