日本のビートルズ・ファンにとっての聖なる場所
今は聴くことが叶わないビートルズ・ナンバーのライブ演奏をほぼ毎日本物さながらに提供し、ファンのビートルズ愛を充たしてくれている。という意味でも、日本のビートルズ・ファンにとって、これ以上聖なる場所はない。
「最近は家族連れや若い女性のお客さんも増えています。一人で来店してカウンター席で楽しむ方もいたり、皆さんがそれぞれの方法でビートルズの音楽を楽しんでいらっしゃいます。ビートルズは世代を超えて受け継がれていることを実感します」
そんな同店の看板バンドが、パロッツである。リバプールで行われた「ビートルズ・コンベンション」で称賛され、ポール・マッカートニーにも認められた日本が世界に誇るコピーバンド。その人気は海を超え、名だたるミュージシャンの間でも評判なのだという。
「ビートルズを知らないまま上司に連れてこられた方で、パロッツを聞いてビートルズに興味を持ち、ファンになったという人もいらっしゃいます。アンプや楽器もビートルズが実際に使用していた機材にこだわっていますから、目の前で、楽器の弾き方を見たいという声もよく聞きます。ビートルズがライブ活動をやめてしまった後期の曲を再現しているという点も喜ばれています」
9月にリリースされたアルバム『アビーロード』のボックスセットからも伺えるように、ビートルズ・ファン=マニアという傾向が見られる昨今、このハコは、バンド演奏の細かい再現を注視するお客さんも満足させつつ、ビートルズを肴にただおいしいお酒を飲みたいという客層にも優しいお店と言えるだろう。解散から50年近くが経過するも、常に新しい話題を提供しながら、幅広い世代のさまざまなタイプのファンを増やし続けてきたビートルズ。それはこの店の客層に象徴されるのかもしれない。
「ビートルズだからありえるお店ですね。ビートルズには不思議な魅力がある。私も毎日ビートルズを聴いているんですが、全然古く感じないし、飽きない。自然に身体がリズムを刻んでいます」
勝手にポールになる瞬間がある
「君は声が高いからポールの歌が合うはず、といわれてポール役になった」と、その経緯を語るパロッツのポール役=ゴードン野口さん。ポール役一筋33年、世界で最も有名なポール役のひとりである。ポールに会ったとき、本人から「ハイ、ポール!」と言われ、ポールの娘のステラにも「ハイ、ダディ」と言われた貴重な経験をもつ。「見ている人が求める演奏ができるか、ビートルズの匂いがするか」とビートルズをコピーする難しさを語るが、今では自然と、勝手にポールになる瞬間があるとか。ここまで来たら一生ポールを演奏していく覚悟だという。リーダーだったジョン役のチャッピー吉井さん亡き後のパロッツを支えるゴードンさん。円より丸い、名人芸ともいえるボーカルとベースプレイをぜひここ『ABBEY ROAD』で体験してほしい。
リクエストの傾向にも変化が
リクエストの上位10曲はだいたい決まっているが、10年おきぐらいに変化があるという。「世の中の雰囲気に影響され、景気のいいときは明るい曲、悪いときは暗めの曲に人気があつまる。今は、教えを請う、救いを求めているような曲「レット・イット・ビー」「イン・マイ・ライフ」が人気。楽曲がすばらしいのはもちろん、歌詞の内容もリクエストと深い関わりがある気がします」とゴードンさん。
取材・文=竹部吉晃 撮影=小野広幸