要事前予約、公式な裏メニュー
東京では、六本木方面に隠れ家風の有名専門店がある。だけど今回は別の穴場。テレサ・テンも通ったという、同じく六本木にあった伝説的名店「東一」の流れをくむ石頭火鍋を食せる店で、比較的リーズナブルな点もよい。
神保町にある中華料理の『SANKOUEN』がそこ。系列店で町中華を供する『三幸園』が近くにあるので間違わないようにね。この辺りでは早い時期からスタイリッシュな雰囲気を打ち出した店内はゆったりくつろげる造り。
ちなみに台湾料理店ではない。裏メニューとしてのみ石頭火鍋を供している。肉の仕込みに準備がかかるためで、事前の予約が必要。それさえ心得ておけば、初めてでもあっさり注文できる。お店での呼び方は、発音しやすく石頭火鍋(スートーホーコー)です。
鍋はやはり、数人でつつくのがスタンダードな味わい方。そこで取材は3人でお邪魔した。担当編集N村と、台湾中国語を教わっているW老師(=先生)である。本職は不動産で、台北っ子ながら下手な東京者より東京に精通している食いしん坊。レアな美味情報を提供して頂いているし、本場で親しんだ舌にも判断してもらおうという次第である。
鍋奉行不要! 3部構成で飽きない味
本場の石頭火鍋は、庶民料理ゆえ、棚の皿に並べた食材を思い思いに選んで投入したり、肉も羊なども用いる。『SANKOUEN』の石頭火鍋は、そのあたりは日本人向けに洗練させている。
石頭火鍋はざっくり3部構成。まずテーブルにこの料理用の特製石鍋が置かれ、熱を加えながら表面にごま油をたぷり含ませる。かぐわしい香りにまずやられる。
続いて玉ネギと特製ダレに1日漬け込んだ牛肉を焼肉風に投入。火が通ったら碗に盛って玉子ダレで頂く。薬味の特製豆板醤がまた美味。これが「第1部・焼肉編」、鍋が空いたら「第2部・煮込み編」へ移行する。
石鍋に鳥だしのスープを投入、カニ、うずらの卵、タケノコ、椎茸、人参等を煮込み仕上がりを待つ。
鍋はお店の人が全部席に来てこしらえ、手際よく碗に取り分けてくれる。複数の人が箸でつつき合う鍋はコロナ的に心配といわれるけど、このスタイルなら心配もなし。鍋奉行不要で、食べる事に集中できるのである。
煮込み編は、第2波が待ち受けている。今度はすり身にした生のイカと鶏肉の団子、春雨、青梗菜、豆腐を投入、出来たてのすり身の団子の美味いことといったら……。
「第3部・〆編」は、スープに飯か麵を投入。お薦めは米だなあ。
趣向が変わるたびに重なった味が深いうま味へ昇華し、米つぶに染みこんで、お粥に凝縮するのだ。この数段構えの鍋、食いしん坊ぞろいの台湾人でなければ思いつけそうにもない、恐るべし美味である。
紹興酒は10種から選べる
鍋をこしらえている間、間が持たないというのなら(そうでなくても)、オーダーしたいのが中国酒の利き酒セット950円。台湾および中国各地から取り寄せた10種類の紹興酒(正しくは紹興黃酒)から3盃選んで飲むことが出来る。バリエーション豊かで量もあるのでお得。3人なら2セット頼んで、お替わりはその後考えるくらいがいい。
黙々と完食したW老師の感想は「台湾のとはちょっと違うスタイルですねー、だけどとても美味しい。台湾人の友達と一緒にまた来てみたい、店の雰囲気もいいし」
なる程、台湾目線だと別の角度から興味深い美味なのか。
石頭火鍋は、もともと韓国の石鍋が台湾で魔改造されたもの。それがさらに日本で品良くチューンアップされたといったところか。
最後に杏仁豆腐+αのデザートがついて料理は終了。このボリュームで、お店の人が作ってくれて(店員は全員鍋作りの手ほどきを受けている)お一人様4500円。お腹一杯、文句はなし。
我が道を行くお味のほどを、神保町へ本を漁りに行きがてら、自分の舌で試してみて頂きたい。予約は忘れずにね。
取材・文・撮影=奥谷道草