曲線のバーカウンターから禁酒法時代のバーに
赤羽のすずらん通り商店街から、少し離れた路地にあるバー。カウンター奥の壁には、店を象徴するようなマリリン・モンローのポスターが飾られている。レンガの壁の店内にゆったりしたカントリージャズが流れる空間だ。オープンは2018年。マスターの太田知昭さんに、その経緯を聞いた。
「赤羽のバーで7年くらい働いていました。この店の店長が体調を崩して辞めるタイミングで、たまたま僕が勤めていたバーの共通のお客様から『やってみたら?』と、声をかけていただいたのがきっかけです。そのお話をいただいて、物件を見たら、カウンターがちょっと面白い形だったんです。このカウンターを見て、アメリカのバーの雰囲気を想像して、スピークイージーならはまるんじゃないかと思いました」。
※スピークイージーとはアメリカの禁酒法時代に、看板を出さすに隠れて営業していたバー。
マリリン・モンローが活躍した華やかな時代
1階のシャッターアートにはじまり、入り口の扉や壁など、至る所にマリリン・モンローのピンナップやイラストがある。「カウンターの壁にあるポスターは、僕の部屋に貼ってあったものです。マリリン・モンローが活躍していた華やかな時代が好きで、映画も好きなので、実際に映画関係のお客さまも多いですよ」。
「禁酒法があったアメリカは、アンタッチャブルの時代ですよね」と、ここで今日初めてのお客さんが話しかけて来た。
「ですね。007などの映画も好きです」と太田さん。映画好き、バー好きの共通言語がぐっと心の距離を縮めてくれるようだ。
試行錯誤して作るオリジナルのカクテル
カクテルは試行錯誤して独自の味を作り出している。なかでもハバナモヒートは、缶素材の入れ物で提供するオリジナルの1杯。キューバのハバナクラブというラム酒を2種類使い、通常のモヒートよりもコクがある味に仕上げている。その時々で、常に新しいお酒を入荷しているそうだ。
懇意にしているメーカーが作る「初夏初恋(しょかはつこい)」というリキュールもそのひとつ。ジンを原酒に、とちおとめと日光山椒、ハバネロを加えた夏らしい爽やかな味のリキュールだ。口当たりは甘いが、後味はピリリと辛口。このリキュールにグレープフルーツジュースを加えてソルティドッグを作っている。
ウィスキーの誕生日(蒸留日)の星座をラベルに描いたステラーセレクションのウイスキーも、そのラベルの美しさに魅せられて入荷したそう。
年に一度は海外のベストバーへ勉強に行く
太田さんは、年に一度はバー巡りを目的に海外に渡航している。「今、業界でもアジアのバーが注目されています。アジアのベストバーで1位になった店に行くなどして、勉強させてもらっています。世界で活躍するバーテンダーは、実は日本人も多いんですよ。そういう方に紹介してもらって、一昨年はシンガポールとタイ、昨年は台湾などに行きました」と太田さん。「旅が好きなんですよ」と、どこか楽しそう。旅や新しいお酒からインスピレーションを受けたオリジナルのカクテルを味わえる。しかもオールドスタイルのバーで。貴重な体験ができるバーだ。
取材・分・撮影=新井鏡子