小林仁さん
1959年東京生まれ。父親の一眼レフカメラをいじって遊んでいるうちに写真撮影に興味を持つ。高校時代には写真部に入りフィルム現像などのテクニックを学ぶ。写真共有サイトでつながったメンバーと写真を撮り歩く「お散歩フォト」を楽しむ。路上観察をしながら、人々の生活を感じさせる写真を撮り歩いている。
Instagram: @twinleaves
切り取り方で表情が変わる
「高校時代、写真部に入ったのをきっかけに写真を撮り始めました。2006年に写真共有プラットフォーム『Flickr』を使い始めたことを機に、オンライン上で写真仲間との交流が生まれ、一緒に街歩きしながら写真を撮るようになりました。
当時は被写体として、路地をはじめとした街の風景をよく撮っていましたね」
「その後、2010年にInstagramを始めた時、壁の写真ばかりが集まる『#ザ壁部』というハッシュタグを見つけたんです。それをきっかけに、壁って面白いなと興味を持ち、壁写真を撮るようになりました」
壁そのものの素材や配管、室外機、面格子といった常設のものの味わいはさることながら、そこに、錆や影、植物など意図せぬものの味わいが偶然重なる。画角に何を含めるかで、色とりどりの様相を味わえるのが魅力だ。
「風景を切り取る面白さが、壁写真の魅力です。『どの部分を切り取ったら絵になるかな』と考える過程そのものが楽しいですね。
とりわけ目を引くのが、暮らしの工夫を感じさせるアイテムたち。手書き看板や、勝手口に立てかけられた掃除道具。そうした何気なく置かれたものも、壁を彩るいいアクセントになっています」
いい壁は裏側に潜んでいる
これまで撮影した壁写真は、ゆうに1200枚を超える。「いい壁」は、表通りよりも裏通りに潜んでいるという。
「これまで撮った写真は、ほとんどが偶然出合ったものばかりです。知らない街へ行く際には、宿場町や旧街道を目指します。昔から人が暮らしてきた土地なので、味わいのある古い建物も多いんです。
中でも、昔ながらの生活道路が残る飲み屋街や商店街に行ったり、その街の人が普段利用するような精肉店や米穀店を目指すと、おのずと周辺でいい壁に出合える確率が高くなります」
さらにおすすめなのが、メインストリートよりも裏通り。店舗の表側はきれいに整えられていることが多い一方、裏通りには少し気のゆるんだ、リアルな暮らしの表情がにじみ出ています。
また、人通りの少ない場所でお客さんを惹きつけるため、看板や装飾にもさまざまな工夫が見られます」
写真を撮る際は、できる限り真正面から。その壁の個性を際立たせる主役を見定め、どこを取捨選択して切り取るか試行錯誤を重ねながら撮影する。撮影時に注目すると楽しいポイントについて、さらに詳しく伺った。
「個人的に特に好きなのは、お店の看板ですね。新しくてきれいな看板もいいですが、手作り感のある看板に惹かれます。
看板職人が手掛けたのであろう味わい深い書体や、錆などの経年変化と相まった配色など、唯一無二の見どころにあふれているんです。建物自体の意匠とあわせて味わうのも楽しいですね」
過去には、小林さんの投稿した写真がInstagramの公式アカウントで取り上げられたこともある。今でもフォロワーの多くは、ヨーロッパや中東、南米など、遠く離れた地域の方々だという。
海外から見て、「日本の壁」はどのような点がユニークなのだろうか。
「湿度の高い日本の壁は、海外の方には、しっとりとした風情が魅力的に映るようです。公式アカウントで紹介していただいたのも、路地の壁面に鉢植えが並ぶ写真でした。トタンが錆びていたり、ツタが壁を這っていたり。写真一枚とっても、どこか日本ならではの空気感が漂うんでしょうね」
「壁」は、日本の密かな名産品なのかもしれない。
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて小林仁さん提供
『散歩の達人』2026年8月号より







