小西秀和さん(写真右)
1979年神戸市生まれ。日常採集標本家。カーブミラーをはじめとした見過ごされがちな日常の断片を編集したZINE4冊が、英国『Tate Library』に収蔵されている。近年は、拾った石ころを無償で手渡す「フリー石ころ」プロジェクトを各地で展開中。
Instagram: @hdkzkony
ポートフォリオ: https://note.com/hdkzkony/n/n4652be048660
異世界への入り口
「『日常採集標本』の活動として、日々気になったものを写真に撮ったり、拾ったりしています。
ある時スマホのカメラロールを見返していたら、カーブミラーの写真を何枚も撮っていたことに気づきました。意識して撮り始めると、カーブミラーのある風景に、どんどん惹かれるように」
「例えばカーブミラーの後ろは空なのに、ミラーは家並みを映している。背景とミラーの中とのギャップは面白さの一つです。カーブミラーの特性上、本来は見ることができない死角も映し出しています。
凹んでしまったミラーには、本来とは違う歪んだ世界が映されている。まるで身近にあるwonderな異世界への入り口に思えたんです」
「また、棒人間のような佇まいも魅力です。
動かないまま都会の片隅に立ち、景色を見続けている。まさに路上観察学会が言うところの『路上の目玉』のようですよね」
「好き」の最終形態は、そのものになりきること。なんと「カーブミラーマスク」まで自作した。
「私からは相手が見えているのに、相手はカーブミラーに映っている自分自身のことを見て、私のことは見ていない。ちょっと寂しいような、不思議な体験でした。
私はこれまでいろいろな街でカーブミラーを見てきたけれど、果たしてカーブミラーそのものを見ていたのか、そこに映り込むものを見ていたのか。あらためて問うきっかけにもなりましたね」
それぞれの日常をいつくしむ
小西さんが日常採集標本家として活動することになる原点は、動物園にパンダを見に行った日の出来事だった。
「パンダを見に行ったのは、暑い日。
長い行列に並びながら、『早く進まないかな』とイライラしていました。ところが近くにいたお子さんが、地面にアリを見つけて、すごく喜んでいたんです。
大人になると、目的を持って旅をしたり、お金を稼いで何かを買ったりと、非日常が喜びだと捉えられがち。でもその子のおかげで、足元の日常の中にもたくさん喜びが詰まっているんだと気づけました。もう一度、日常に目を向けようと思ったのが大きなきっかけです。」
「私は普段、福祉施設で働きながら、子供たちや障がいのある方たちとたくさん関わってきました。
どんなに小さくても重い障がいがあっても、一人ひとりが独自の世界観を持ち、自分がごきげんに過ごす方法を知っている。それを楽しんでもらえる場を作りたいと試行錯誤する中で『日常採集標本』という言葉が生まれました。
採集の喜びは、人間が狩猟採集民族だった時代からDNAに刻み込まれているもの。子供の頃は誰もが一度は、石ころやどんぐりを夢中で拾ったことがあるんじゃないでしょうか。
さらに標本は、お互いの違いを共有するためのツール。街を歩いて気になったものを写真に撮って標本にするワークショップをしてみると、人によって中身が全く違ったのが楽しかったですね」
コロナ禍で世界各地でロックダウンが実施された7週間、世界の人たちが撮った日常写真を集め『7WEEKS』というZINEにまとめた。最近ではイギリスで開催されたブックフェアにも出展。活動は世界へ広がりつつある。
「土地と人とのかけ合わせで、集まる『日常』は全く違うと思うんです。
私自身が好きなのは、実際に相手と対面しながらコミュニケーションを取ること。日本だけでなく世界各地で、そこに住む人たちと一緒に、日常採集標本に取り組んでいきたいですね」
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて小西秀和さん提供
『散歩の達人』2026年9月号より









