選び抜いた酒で世界を広げる“オルタナティブ酒屋”を開店
店主の青山弘幸さんは、1984年、東京生まれ。カバン職人の父をはじめ、周りには音楽家や写真家など、何かをつくり出す人々がいた。自然と「いいもの」をどう広げるかに関心を抱くようになる。大学卒業後は広告会社、スタートアップ企業でマーケティングに従事。商品やサービスを社会に届ける技術を磨き、その力を「自分の好きな領域に使いたい」と思うようになった。
青山さんが選んだのは、酒の世界だった。
「各地を旅してブルワリーや蒸留所を巡るなかで、お酒は酔うためのものではなく、土地の農業や歴史を映す土着的な存在だと実感しました。いいものはすでにある。でも、きちんと届いていないことにも気づかされました」
2023年には会社を辞め、物件探しに邁進。満を持して、『salo』を開いた。扱うのは、自身が感銘を受けた本格焼酎やクラフトビール、ミード(蜂蜜酒)など、いわゆる主流とは少し異なるラインアップ。“オルタナティブ”と名付けたのは、既存の価値観に対する新しい選択肢を提示する意図からだ。たとえば本格焼酎は、質の高い造り手がいて、より広がって多くの人に響く可能性がある分野の一つ。青山さんは生産者を訪ね、関係を築きながら、納得した酒を並べる。流行の銘柄ではなく、リアルな晩酌酒となる定番ラインもしっかり扱う。
鎌倉という場所も、店の思想と深く結びついている。青山さんは、「いいものなら根付く街」だと、この地を選んだ。暮らしの質を大切にする人が多く、時間をかけてでも価値が浸透していくと感じたからだ。
「すごく極端なことを言うと、売ることが目的じゃないんです。選び、伝え、つなぐこと。その積み重ねで、飲み手の選択肢が広がって、より豊かになれたらいいな、と」
青山さんが選び抜いたボトルは、今日も誰かの手に渡り、いつもの食卓に新しい物語を創っていく。
取材・文=沼 由美子 撮影=嶋崎征弘
『散歩の達人』2026年6月号より






