愛され大衆酒場の変わらないともしび
店内にはびっしりとメニューが掲げられ、季節替わりの料理も豊富。お酒は焼酎だけでも120種類以上で、東京では珍しい銘柄もある。価格もリーズナブルで、大衆酒場の安心感が漂(ただよ)う老舗だ。
『和田屋』のルーツは、かつて麻布にあった定食屋に遡(さかのぼ)る。そこで働いた人たちが各地区で店を構えた「個人店」だが、看板には「チェーン店」の文字。店主の新沼さんは「スペースが空いたから入れたんじゃないか」と笑う。1982年の創業時は5歳。現在は両親と3人で店を切り盛りする。
「僕と父母の3人の家族経営です。普通に喋(しゃべ)っているつもりなのに、お客さんからは『ケンカはやめなよ』と言われます。家族ならではの距離感なのかもしれません」
そんな家庭的な雰囲気もある店内には、芸人やプロレスラーなど、著名人のサインが数々並んでいる。
「コロナ禍で店を開けられなくなったとき、高円寺で暮らした芸人さんたちがテレビなどで名前を挙げてくれてたんです。彼らが売れるにつれ店も忙しくなりました」
若い世代にも注目され客層も広がり、メニューも増えた。それと同時に、昔からの常連も大切にする。
「転勤などで引っ越しても、東京に来た際に顔を出してくれる人もいます。ありがたいですよね。ピーク時はなかなか入れないこともありますが、実は今日この時間に来るかなという人のために席を空けておいたり。ここまで来れたのは常連さんのおかげでもあります」
豊富なお酒と料理。そして人々の居場所を守る姿勢。特別なことではないが、その気概こそが人々を引き寄せ続けるのかもしれない。
新沼さんは幼少の頃から高円寺で過ごし、店とともに街の変化を見続けてきた。
「街はだいぶ変わりました。小さい頃から知るお店も今は数軒しかありません。寂しさもありつつ、高円寺らしさは良い形で若い世代に引き継がれていると思っています」
時代に寄り添いながら、なびかず淡々と店を守り続ける。高円寺の一角で、今日も明かりが灯(とも)る。
『和田屋』店舗詳細
取材・文=石原たきび 撮影=佐藤侑治
『散歩の達人』2026年8月号より






