「釜石まつり」とは

秋風にのり、太鼓や笛の軽快な祭り囃子が聞こえてくる。

港に集まった人々の視線の先には、カラフルな大漁旗を潮風にはためかせながら、釜石港を進む十数隻の船団——。

岩手県釜石市で毎年10月の第3日曜を含む金~日曜の3日間にわたって開催される祭り。期間中は海から町までを舞台に、虎舞や神楽などの郷土芸能が各所で披露されるほか、神輿の渡御なども行われ、町じゅうがお祭りムード一色に染まる。

2日目に行われる「曳き船まつり」。神輿をのせた御召船を中心に、十数隻の船団が連なって釜石港内をパレードする。
2日目に行われる「曳き船まつり」。神輿をのせた御召船を中心に、十数隻の船団が連なって釜石港内をパレードする。
釜石に伝わる伝統芸能・虎舞。胴幕の中に二人一組で入り、本物の虎のごとく激しく跳ね踊る。
釜石に伝わる伝統芸能・虎舞。胴幕の中に二人一組で入り、本物の虎のごとく激しく跳ね踊る。

海と鉄、2つの祭礼から生まれた「釜石まつり」

三陸海岸のほぼ中央に位置する釜石市は、豊かな漁場に恵まれた港町であり、同時に日本近代製鉄発祥の地としても知られている。そんな町には、海と鉄、それぞれにゆかりのある2つの祭りが受け継がれてきた。

1つは尾崎神社の例大祭。そのルーツは元禄12年(1699)にまでさかのぼり、海を生業(なりわい)とする人々の海上安全や豊漁を願って行われてきた。なかでも、釜石湾の南東に延びる尾崎半島の奥宮から神様を神輿にのせて海を渡り、市街地の里宮へ迎える海上渡御は、江戸時代から続く伝統行事「曳き船まつり」として今も続いている。

もう1つが、鉱山や製鉄に携わる人々の信仰を集めてきた釜石製鐵所山神社の例大祭だ。釜石では、安政4年(1857)に大島高任(たかとう)が洋式高炉による鉄の製造に成功。これが日本近代製鉄の始まりとされ、以降、町は製鉄業とともに発展していった。山神社は製鉄所の守護神として祀られ、その祭礼もまた、今日まで大切に守り継がれている。

海に関わる尾崎神社と鉄に関わる山神社。それぞれの例大祭は昭和42年(1967)、釜石市制30周年を機に合同で開催されるようになった。これが現在の釜石まつりだ。

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祭りの見どころ3選

さまざまな見どころが続く祭りのなかでも、見逃せない3つのハイライトがこちら。

①神様が海を渡る「曳き船まつり」
「釜石まつり」最大の見どころといえば、2日目に行われる「曳き船まつり」。尾崎神社の神輿をのせた御召船が、大漁旗を掲げた十数隻の船と連なって釜石湾を渡ってくる。船上では虎舞や神楽が披露され、華やかな海上渡御を盛り立てる。海を舞台に船団が進む光景は、陸の祭りとはひと味違うスケール。岸壁からその全景を見届けたい。

②町のあちこちで出会う、勇壮な「虎舞」
太鼓や笛、鉦が奏でるお囃子に合わせ、大きな口を開けた虎が頭を振り、跳ね、時に激しく舞う虎舞は、釜石を代表する郷土芸能。「虎は一日に千里を行き、千里を帰る」という故事になぞらえて、舞には海へ出た人々の無事の帰還を願う意味や、火伏せの願いが込められてきたという。

釜石には複数の虎舞団体があり、団体ごとに舞やお囃子にも個性がある。「曳き船まつり」では船上で、最終日には市街地で、躍動感ある舞を間近に楽しもう。

二社の神輿が町をゆく「合同市内渡御」
祭りの最終日を飾るのが、尾崎神社と山神社による神輿の合同市内渡御だ。両神社を出発した2つの神輿が市内中心部で顔をそろえ、合同祭を終えると、虎舞や神楽、山車、手踊りなどを伴い、町のメインストリートへ。それぞれに歴史を重ねてきた二社の神輿が1つの大行列となって、沿道に多くの見物客が集まるなかを練り歩く。この祭りならではの景観だ。

尾崎神社から釜石港へとやってくる曳き船。
尾崎神社から釜石港へとやってくる曳き船。
頭を大きく振りながら舞う虎。近くで見ると迫力もひとしお。
頭を大きく振りながら舞う虎。近くで見ると迫力もひとしお。

震災の年も絶やすことなく続いた「釜石まつり」

2011年の東日本大震災では、釜石市でも津波が町の中心部に至り、甚大な被害を受けた。祭りは何度も中止が検討されたが、市民から「なんとかやってほしい」と開催を望む声が上がり、その年の秋、規模を縮小しながら釜石まつりは開催された。

がれきや被災した建物が残る町を神輿が進み、海には曳き船が出る。祭りには震災で犠牲になった人々への鎮魂と、町の復興への祈りも込められていた。

町が大きな傷を負ったその年にも人々は祭りを絶やさなかった。その事実は「釜石まつり」が単なる年中行事でなく、人々がともに立ち上がるための力にもなってきたことを教えてくれる。

現在は、人口減少や高齢化に伴う担い手不足という新たな課題もあるという。それでも祭りを支える人がいて、郷土芸能を次の世代へ伝える活動も続いている。祭りが続くことは、決して当たり前ではない。つないできた人々がいればこそ。

守り継がれてきた祭りが町を彩る3日間、その熱をぜひ現地で感じてみたい。

開催概要

開催期間:2026年10月16日(金)~18日(日)
会場:釜石市中心部、釜石港内(釜石市魚市場)
アクセス:JR釜石線釜石駅下車。釜石市中心部まで徒歩15分、釜石市魚市場まで徒歩20分

<主なスケジュール>
10月16日(金)
18:00~ 尾崎神社宵宮祭

10月17日(土)
11:30~ 尾崎神社神輿海上渡御(曳き船まつり)
17:30~ 釜石製鐵所山神社宵宮祭

10月18日(日)
11:20~ 尾崎神社・山神社合同祭
12:10~ 両神社神輿合同市内渡御

【問い合わせ先】
釜石まつり実行委員会(釜石観光物産協会内)
☎0193-27-8172
https://kamaishi-kankou.jp/

文=『旅の手帖』編集部