海の上を走ることになった日本初の鉄道

開業当初、明治5~6年ごろの高輪築堤を描いた錦絵。現在の品川駅付近。和装と洋装、人力車と馬が混在している。歌川広重(三代)「東京品川海辺蒸気車鉄道之真景」。所蔵=『港区立郷土歴史館』。
開業当初、明治5~6年ごろの高輪築堤を描いた錦絵。現在の品川駅付近。和装と洋装、人力車と馬が混在している。歌川広重(三代)「東京品川海辺蒸気車鉄道之真景」。所蔵=『港区立郷土歴史館』。

明治5年(1872)、日本初の鉄道が新橋〜横浜間に開通する。今から153年前のことだ。全長29kmのうち、現在の田町〜品川付近の約2.7kmは、海上に線路があった。この「高輪築堤」は、盛り土をし、石を積み、築かれた堤の上を、蒸気機関車が走っていたのだ。内陸に用地が確保できなかったのは、当時の兵部省(軍事・防衛を管轄)や、薩摩藩の西郷隆盛の反対があったといわれるが、鉄道敷設の最高責任者だった大隈重信の決断によって、築堤の工事が始まった。

海に鉄道を通すという奇想天外な工事は難航し、特に田町側は何度も波に流された。だが、なんとか開業にこぎつけると、陸蒸気が煙を吐きながら海の上をゆく様は絶景で、浮世絵にも多く描かれ、観光名所となりにぎわった。

明治40年(1907)ごろ、芝浦から田町方面を撮影。波を和らげるためにゆるやかな角度で石を積んだ。出典=『芝區誌』。
明治40年(1907)ごろ、芝浦から田町方面を撮影。波を和らげるためにゆるやかな角度で石を積んだ。出典=『芝區誌』。
明治11年(1878)の地図に、現在の駅を記したもの(『実測東亰全圖』/内務省地理局)。所蔵=『港区立郷土歴史館』。
明治11年(1878)の地図に、現在の駅を記したもの(『実測東亰全圖』/内務省地理局)。所蔵=『港区立郷土歴史館』。

遺構発見によりまちづくりの工事計画も変更

以降、埋め立てが進み、線路も増え、築堤は地下に。同じところを山手線・京浜東北線が走っていたのだが、2019年、周辺の改良工事をきっかけに、かつての石積みの一部が発見されたのだ。

「このあたりを走っていたのは文献で分かっていたのですが、それがどのようになったのかは何も分かっていませんでした。田町〜品川間の車両基地をスリム化して高輪ゲートウェイ駅が開業したのに合わせ、山手線・京浜東北線の線路が海側に移動し、レールなどの撤去を行ったところ、この遺構が見つかりました」と、開発に携わった武田さんは話す。

第7橋梁橋台部(2021年4月2日撮影)。公開は2028年春の予定。提供=JR東日本。
第7橋梁橋台部(2021年4月2日撮影)。公開は2028年春の予定。提供=JR東日本。

この発見によって、それまでの開発計画を見直し、第7橋梁部を含む高輪築堤の一部を保存・公開することに。

「鉄道会社が進めるまちづくりのなかで日本初の鉄道の遺構が出てきたことはとても意義があることですし、日本の近代化のなかで鉄道敷設は大きな転換期だったはずです。当時の技術者の思いや、鉄道の歴史を継承していくために、遺構の一部を現地で保存・公開することを決めました」

築堤の地盤を固めていたのは、海中に打ち込まれた無数の松杭だった。水の中にあって空気に触れていなかったため保存状態も良く、ベンチや床材として再利用している。また、鉄道開業当時の位置にレールを埋め込んだ「高輪リンクライン」には、記録保存調査で取り出された石が、陸側・海側の2通りの積み方を再現し配置。往時の走行風景を想像するよすがになるだろう。

『TAKANAWA GATEWAY CITY』という新しい街。153年前に開業した鉄道の記憶が、たしかに息づいている。

『TAKANAWA GATEWAY CITY』内にあるギャラリーの床材には、遺構から掘り出された松が再利用されている。写真の一号機関車は実物大で、線路の幅は現在も変わっていない。
『TAKANAWA GATEWAY CITY』内にあるギャラリーの床材には、遺構から掘り出された松が再利用されている。写真の一号機関車は実物大で、線路の幅は現在も変わっていない。
レールを埋め込んだ高輪リンクライン。壁に描かれたアートワークにも注目したい。
レールを埋め込んだ高輪リンクライン。壁に描かれたアートワークにも注目したい。

ギャラリー展示『THE FIRST RAILWAY展 ―はじまりの鉄道―』

『TAKANAWA GATEWAY CITY』内にあるギャラリーでは、鉄道開業へ至る変遷や、発掘調査の紹介、第7橋梁の模型などを展示中。JR山手線・京浜東北線高輪ゲートウェイ駅から徒歩5分。10:00~19:00、休館日はビル休館日に準じる。東京都港区高輪2-22 TAKANAWA GATEWAY CITY 内 THE LINKPILLAR 2 1F。takanawagateway-city.com

取材・文=屋敷直子 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2026年5月号より