つくばでパン屋が増えた背景とは
つくばは研究学園都市という性格上、もともと外国人の留学生・研究者が多かった。また、研究などで海外生活が長かった日本人も少なくない。そういった層から、慣れ親しんだ日常食としてパンが求められ、パン屋が増えたのは自然の成り行きだった。
その様子につくば市商工会が着目。『ピーターパン』が発起人となり、2004年につくばを「パンの街」としてアピールし始めた。翌年につくばエクスプレスが開通すると、今度はファミリー世帯が増加。パンの需要に拍車をかけたことも見逃せない。
「パンの街」のイメージが定着したところで、商工会は宣伝活動を終える。代わって長塚さんが運営する地元タウン誌の『つくまる』が、取材で生まれた多くの店との縁を生かして2019年から「つくばパンまつり」を開催するようになった。それが人気イベントに成長し、現在に至るというわけだ。
長塚さんによれば、駅近くにパン屋はあまりなく、店は家賃の安い周辺に拡散している。つくばは車社会なので、駅から遠くても全く問題はないのだ。つくばのパン文化は純粋な地元民の間で支えられ、独自の成長を遂げている。「パンの街」宣伝の発起人である『ピーターパン』も、つくば駅から車で約10分ほどの位置にあるが、イートインコーナーでコーヒーを飲みながら憩う人々の姿が絶えない。幅広い客層に合わせて毎日焼くパンは80〜90種類。要望に応じて種類が増えていったそうだ。
店数が多いゆえに個性と質が求められ、互いに競い合う形になり、全体の質をレベルアップさせたのだ。でも、あくまで日常の食なので、日曜定休の店が多いのも特色らしい。
地元のパンが一堂に会するうれしい取り組み
近年、そんな状況下で誕生したのが、長塚さんがパンまつりと別に運営する「お楽しみパン」だ。元々はコロナ禍に、手早くまとめ買いできるようにと始めた企画で、八百屋や野菜直売所などへ近隣の数軒のパン屋の選りすぐりの品を同時に並べて、日替わりで販売する。つくばならではのパン販売の風景かもしれない。複数のパン屋の商品を一度にあれこれ食べ比べられるなんて、うらやましすぎる。
つくばのパン屋の店主は今、次の世代に移りつつあるという。『ピーターパン』の店主・酒井さんも2代目である。中にはうまく引き継げず、先行きが危ぶまれる店もあり、今後の課題となっているそうだが、豊かなパン文化に魅了され移住して開店したり、地元の名店で修業して独立したりする店が目立つ。つくばのパン文化、ますます成長と変貌を遂げそうだ。
【パンの街の素顔 ①】パンまつり今年も大盛況
パンの街つくばを象徴するイベント。例年月末につくば駅前のつくばセンター広場で開催。6回目となった2026年は、21軒のパン屋が集結。近隣の人気店のみならず東京、三重、長崎、北海道からも参加があり、カフェなども出店。開場直後はパンを買い求める客で大にぎわい。
【パンの街の素顔 ②】日替わりがうれしい「お楽しみパン」
『つくまる』のスタッフが、つくば周辺のパン屋をまわってできたてを集め、3カ所の野菜直売所・八百屋で販売している人気企画(平日の11時30分ごろに陳列)。参加パン屋は全14軒。日替わりで3~4軒のパンが数種類ずつ並ぶ。気軽に試すなら、つくば駅から徒歩20分の『Lafrutta』が比較的アクセスもよく、おすすめだ。
つくばのパン文化の立役者『ピーターパン』
「パンの街つくば」宣伝の発起人、故・酒井幸宏さんが練馬から故郷に戻り、1979年に開業。現在は息子で2代目の厚志さんが営んでいる。朝7時開店、紙コップ代+20円で、自家焙煎コーヒーと共にパンをイートインできるなど、地元民の憩いの場でもある。開店以来の看板商品は、店名でもある円盤状の「ピーターパン」。つくばの研究機関が開発した小麦「ユメシホウ」を使った食パンも、独特のコクがあって美味。
『ピーターパン』店舗詳細
取材・文=奥谷道草 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2026年7月号より





