あらゆる製法を体得し、道を極め続けるパン職人
三軒茶屋の交差点から下北沢方面へ茶沢通りをぶらり。買い物客でにぎわう商店街をあちこち寄り道したり、烏山川緑道で日向ぼっこしたり、のんびり気の向くまま散歩するのが楽しい。ふと、ポップな外観が目に入る。おもちゃ屋かと思い、ガラス越しに店内をのぞくと、どうやらパン屋のようだ。これは入らずにはいられない。
店に入り、まずバリエーションの多さにびっくり。シンプルな食事パンから総菜パン、サンドイッチ、おやつにもなる甘いパン、洋菓子など、ずらりと並んでいる。
「平日は30〜40種類、土・日はもっとたくさん用意します」
そう話すのは、店主の與儀(よぎ)高志さん。ここ本店で、下北沢にある支店の分も合わせて與儀さんがすべて一人で製造している。
独立して、自分の店を持つようになって約20年になるという與儀さん。修業時代には「あえてジャンルを決めず、とにかくパンの道を極めたいと思っていた」そうで、バゲットやカンパーニュが得意なブーランジェリー、フレンチレストランのベーカリー部門など、さまざまな店舗を渡り歩いた。さらに、ドイツ・シュトゥットガルトでの研修も経験。こうして培われた高い技術や幅広いアイデアが、種類豊富な品揃えにつながっているに違いない。
カフェスペースでうっとりするようなスイーツタイム
2階はカフェになっていて、ゆっくり食事をすることも。今にもしゃべりだしそうな人形たちは、與儀さんのコレクションでもあるアメリカン・ビンテージ。メニューは、7種類のパンがのったパン盛り合わせセットをはじめ、『nukumuku』の「ふんわり食パン」をトーストし、国産もち豚を使った自家燻製ベーコン、レタス、トマトを挟んだB.L.Tサンドなど、どれもこれも気になるラインアップばかり。ローストポーク、サルシッチャのような肉料理もあり、クラフトビールやワインと一緒に楽しむこともできる。
おやつ時にぴったりなのは、超厚切りのハニートースト。店自慢の「もちもち食パンスペシャル」を使い、表面に切り込みを入れバターをのせ、ハチミツをかけてオーブンで焼き上げている。トッピングのアイスクリーム、生クリームが少しずつ熱で溶かされ、切り込み部分からじんわり中に染み込んでいく様子がたまらない。はやる気持ちを抑えてナイフを入れると、ザクッとした手応えがあり、ふわりと甘い香りが舞う。
大きな口で頬張ると、トッピングの明るい甘み、小麦の風味やトーストの香ばしさが勢い良く広がる。こんがり焼けたミミのザクッという歯触りと、内側のもちもちした部分の食感の差が絶妙だ。温かいパンと、ひんやり冷たいアイスクリームのコントラストにもすっかり夢中。そして何より、噛み締めるたびにじんわり染み渡るような、食パンの旨味にうっとりしてしまうのだ。
おなかをすかせて行き、独り占めするのもあり。友人とシェアして、コーヒーを飲みながらゆっくり過ごすのもあり。食べ終わるまでの時間、きっとずっと幸せだ。
ナイフとフォークで上手にカットするのが難しく、パンくずが飛ぶけれど、「気にしなくて大丈夫です!」と與儀さんの妻・文美(ふみ)さん。わんぱくな子供みたいに、気楽に食べよう。
ちなみに、もちもち食パンスペシャルは『nukumuku』の看板商品の一つ。水を多めに使い、天然酵母と湯種を用いる製法でこの食感を実現している。食べた時にほのかに感じられる甘みは、長時間発酵によって国産小麦から生じた味わい。砂糖の華やかな甘みとはまた違う、朗らかな甘みだ。
独自のアイデアから生まれる唯一無二の進化系パン
さらに、『nukumuku』で常に人気上位にいるのが、キノコのような形が目を引くクリームパンと、生クリームをたっぷり絞ったあんぱん。クリームパンは、開業当初から作っている一品で、見た目や味のバランスなどマイナーチェンジをくり返しながら育ててきた。手に持つと意外と重みがあり、そのずっしりとした質量にワクワク。いずれもブリオッシュ生地に似たふわっとしたパンが味わい深い。
クリームパンの中に入っているのは、もっちりしたカスタードクリーム。一般的なカスタードクリームとプリンの中間ぐらいの固さがあり、インパクトが強い。コクのある奥久慈卵が使われ、味に深みがあるのも特徴。口溶けのいいパンと合わさり印象を残しつつ、パンそのものに潜む小麦の風味もぐっと引き出す。
あんぱんの中には、自家製あんこがぎっしり。その上に生クリームを絞った、これもまたインパクトのある一品だ。小豆は、小麦粉と同じ北海道の農家から仕入れたもので、その農家では小豆のさやを一つひとつていねいに手摘みで収穫しているらしい。『nukumuku』のあんこは、その小豆の形を生かしたきれいなつぶあん。口に入れると滋味があふれ、素材の力を感じられる。
売り場のショーケースには、N.Y.チーズケーキやクッキーバターサンド、マカロンが。ラスクやクッキーのような焼き菓子は、自宅にストックしたり、ちょっとした手土産にするのにもおすすめだ。
與儀さんの頭の中には、まだまだたくさん新商品のアイデアがあるとか。「おいしいのは大前提。そのうえで、いかにお客さまに楽しんでもらうか。子供たちの思い出に残るような店になりたい」と語る。
取材・文・撮影=信藤舞子







