塩もいいけどタレもいい。食べ比べを楽しもう
「うちのレバー、ほんとにおいしいから食べてみてよ」
板長の鈴木さんにすすめられて、まずレバーを塩でいただいた。熱々のレバーは噛むととろりとしていて、濃厚なコクが口の中に広がる。臭みはまったくない。いい塩梅で塩がきいていてばっちりだ。これはビールがすすむ。
よし、次はタレでレバーだ! とろとろなことは十分わかってる。わかってはいたけど……今度はタレとレバーが混じり合い、また別もののおいしさだ。
食べながら、タレ自体がとてもおいしいことに気づいた。甘すぎないのでくどくないし、かといって醤油の味ばかりが際立っているのでもない。絶妙なバランスなのだ。
故・梅宮辰夫氏が絶賛したというハツは、プリプリしていて噛みごたえが抜群だ。こちらも臭みはまったくないので、内臓系が苦手な人も一度試してもらいたい。
そして、2種のつくねもぜひ食べ比べてみよう。鳥ナンコツ入りはコリコリとした軽い歯ごたえが楽しい。タレのみで提供する。牛タン入りは弾力が強く、コクがある。どちらも旨味はたっぷりなので、違いを食べ比べよう。
仕入れにもこだわりあり。「漁港直送」「産地直送」がカギ
正肉はもちろん、内臓も旨味がしっかりと感じられる。新鮮であることはもちろんだが、それだけではない。
季節によって、それも鶏肉の部位ごとに産地を変えるのだ。かなり細かい作業となるが、味にはっきり違いが出るという。また、馴染みの仕入先から仕入れることで、価格も抑えている。
コワモテで名物店主の伊與田(いよた)さんは北海道出身で、かつて漁業関連の仕事をしていた。その繋がりで、白糠(しらぬか)漁港から直送で新鮮な魚介類を仕入れている。
この日も、幻の鮭といわれる鮭児(けいじ)や、天然のキングサーモンであるマスの介など、東京ではなかなかお目にかかれない魚がメニューに載っていた。
どちらも希少な魚なので、セットで見られることは珍しいという。鮭児は800円、マスの介は1200円と、ちょっと高いけど十分似その価値はある。産直とはいえ、思い切った価格なのでは?と聞くと、「安くなかったら脅しちゃうからね」と伊與田さんはにこやかに応えた。
黒板いっぱいに書かれたメニューを見ると、そのときの旬や季節感が満載だ。ほとんどの野菜は、伊與田さんの家族が所沢で営む無農薬の農園から直送する。週に2回ほど取りに行くが、どんな野菜が渡されるかはわからない。受け取った野菜を見てから献立を決めるのだという。
伊與田さんの故郷への想いから、取り寄せるものもある。バターソテーに使う肉厚のしいたけだ。釧路の障がい者支援施設から通年で取り寄せており、ふっくらとした身にバターが染み込んで、口の中でじゅわっと風味が広がる。残った汁に追加したごはんを入れて食べるのが流儀だという。
すべては、お客さまの「うまい!」のために。
伊與田さんは、この店で25年以上働き続けている。店の前だけでなく、荻窪の駅前まで毎朝掃除をすることは有名だ。店内も常に隅々まで掃除しているため、換気扇や天井までとてもきれいで驚く。
「安くても本当においしいものをたくさん食べてもらいたい。そのためには、やるべきことを毎日さぼらずに確実にやる。それだけ」
伊與田さんはいう。日々、相当な努力を続けていることがわかる言葉だ。
常連との距離も近いこの店には、親子3代にわたる客もいて、小さい子供もよく来るという。ひとりでも大勢でも楽しめる、あたたかさがある店だった。
『鳥もと 本店』店舗詳細
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ