仕事じゃないんだし好きに混ぜてくれたら

「どう食べたらいいかとよくお客さんに聞かれます。仕事じゃないんだし好きに混ぜてくれたらいいんです」と、店主・滝沢健二さん。

2016年開店の店は、駅前でも大通りでもない坂道の途中のビルの奥まった一室。当初はご近所さんにもあまり気づかれなかったという。

「自宅と同じ文京区内で、自転車で通えるのが第一条件。カレー作りに集中できれば人通りは気にしませんでした。ここは外気の影響が少なくて、夏は涼しく冬は暖かい。ガラス戸越しに外も見える。来るたびにいい場所だな〜って」

メニューは入り口の黒板でチェック。ライスは180gから増減可。
メニューは入り口の黒板でチェック。ライスは180gから増減可。

練習では漬物や総菜も容赦なく混ぜた

しかしなぜこんなにぎやかなライスに? と聞けば、これは開店前に生まれたアイデア。自宅でカレーの練習をするうち食べ飽きた滝沢さんは、身近な野菜や漬物、総菜を容赦なく混ぜて口にした。

「食感は違うし、これ何? って考えるのがすごく面白くて。なんか、“面白い”と“おいしい”は友達だなって思ったんです。ただ、ここまで盛るつもりはなかったけど(笑)」。

野菜はそれぞれ味を変えて調理。意表を突く切り干し大根の存在も、この話を聞けば納得だ。
一方、カレーは日替わりで肉、魚の2種類のみ。アジやしらす、合鴨、塩豚などの変化球ぞろいの具材でそそられる。刺激的な辛さもまったり感もなく、のど越しよくスルスルいける。

 鰯&タマリンド 1000円。
鰯&タマリンド 1000円。

備え付けの調味料で、自分好みの味に

「僕の中でカレーはおかずよりもスープに近い。日本の料理に例えると、冷や汁(笑)? だから具より液体がおいしくないとダメなんです」 。

ベースは、トマトを使ったパキスタンカレー、チキンをピーナツバターで煮込むアフリカ料理、ココナッツを使ったインドネシア料理のルンダン。

「カレーの一歩外側にいるようなこの3つを混ぜたら面白そう!」

という発想だった。

食べる分だけカレーをかけたらよく混ぜてどうぞ。
食べる分だけカレーをかけたらよく混ぜてどうぞ。

が、カレーはこれで完成というわけではない。ナンプラーやエビチリココナツ、マンゴーピクルスといった備え付けの調味料をおのおの足して、自分好みの味に。仕上げは私たちに託されているのだ。そのためカレーの塩分はあらかじめ抑えて設定。ライスも好きに増減できる。まるで、作り手とキャッチボールでもしてるみたい。

そういや、『ホンカトリー』とは和歌の技法「本歌取り」が由来とか。先人の古歌の一部を取り入れ新たな歌を詠む。そんな面白さのごく一端をカレーで味わえるような気がするのは私だけだろうか。

全7席のカウンターで野菜を盛る滝沢さん。「カレーのこと以外は内装も道具も結構行き当たりばったりです(笑)」。
全7席のカウンターで野菜を盛る滝沢さん。「カレーのこと以外は内装も道具も結構行き当たりばったりです(笑)」。
ホンカトリー
住所:東京都文京区湯島2-7-9 サニーハイツ西久保B02/営業時間:11:00~16:00(売り切れ次第終了)/定休日:日・祝/アクセス:JR中央・総武線御茶ノ水駅聖橋口、地下鉄千代田線湯島駅、地下鉄丸ノ内線・大江戸線本郷三丁目駅から各徒歩9分

取材・文=下里康子 撮影=金井塚太郎
『散歩の達人』2020年9月号より