こんなに防災に無頓着でいいはずがない
街の中には、普段は気に留めていないが、いざという時に必要となる設備がある。たとえば路面が凍結している時に撒く砂が入った砂箱や、突然心停止を起こした人に電気ショックを行う医療機器・AEDなどだろうか。
火事を消す際に用いられる消防設備は、その最たるものだろう。街を歩いていると、よく「消火栓」とか「防火水槽」などと書かれた赤い円形の標識を目にする。しかし私自身「消火に使う何かがあるのだな」と漠然と認識するだけで、「消防水利」と「防火水槽」と「消火栓」の違いが分かっていない。実際に使用するのは消防隊や消防団の人々であったとしても、このように防災に無頓着ではいけないのではないか。
消防水利とは何か?
そもそも消防水利とは何か。
その名の通り「消防のために水を利用すること」であり、総務省消防庁が示す「消防水利の基準」によれば、具体的には「消火栓、私設消火栓、防火水そう、プール、河川、溝等、濠、池等、海、湖、井戸、下水道」などを指すという。池や海など自然の水も消防水利なのである。
消火栓とは? 防火水槽とは?
「消火栓」も「防火水槽」も消防水利の一種類であり、「消火栓」は水道本管に直接つないで取水する。一方「防火水槽」は貯水タンクのようなもので、動力ポンプを用いて吸水する必要がある。
設置数の内訳で言えば消防水利の74%が消火栓、21%が防火水槽と圧倒的に消火栓の数が多いが、過去の震災時に水道が断水して消火栓が使えなくなったこともあり、現在では防火水槽の設置が進められているという。(参考:総務省消防庁「消防力の整備指針及び消防水利の基準に関する検討会・ワーキンググループ合同会議」第二回・平成26年7月3日資料 )。
我々はなんと多くの消火栓と防火水槽に守られているのか
前出の「消防水利の基準」では、市街地や準市街地では防火対象物から一定の距離(80m~120m)以下の地点に消防水利を設ける必要があるとしている。
さらに消防法第21条2で「消防長又は消防署長は、前項の規定により指定をした消防水利には、総務省令で定めるところにより、標識を掲げなければならない。」と規定されており、街の至るところで「消火栓」「防火水槽」の標識を目撃するのは、街に多数の消防水利があることの証でもある。
改めて街に点在する消防系標識を眺めてみる。消火栓の標識は大抵地上から3~4mくらいの位置に設置されており、空を見上げる機会でもなければ目に留まる機会は少ない。
一方、防火水槽や消防水利標識は目線の高さにあることが多く、否が応でも目に入ってくる。
退色、サビが進行して味わいを深める消防系標識
このような防火水槽や消防水利標識は、道路交通標識に比べて古びたものが多く見られるように思う。交換頻度が低いからであろうか。もともとの消防水利標識は赤と青の二色遣いであるが、だんだんと退色していくと赤も青もなくなる上に、白黒(いや、白赤か)まで反転する。更に劣化が進むと全体にサビが回って、もはや茶色の円盤と化してしまうのである。
防火水槽標識も、最初は赤一色であるが、こちらも退色とサビが進行していくと最終的には白黒反転看板に行きつく。その途中段階として、地の赤とサビの赤とで全体が赤の防火水槽看板が発生することもある。
標識を巡って防災意識を高めよう。ただし徒歩がおすすめ!
余談ではあるが、防火水槽標識には「防火水槽」と「防火水そう」という二種の表記があり、後者のひらがなの方がゆるくて個人的には好みだ。
こうした消防系標識を確認していくことで、どこに防火設備があるのかを確認することもでき、ひいては防災意識の高まりにも繋がっていくのではないだろうか。
しかし道路交通法第45条1で「消防用機械器具の置場若しくは消防用防火水槽の側端又はこれらの道路に接する出入口から五メートル以内の部分」また「消火栓、指定消防水利の標識が設けられている位置又は消防用防火水槽の吸水口若しくは吸管投入孔から五メートル以内の部分」は駐車禁止場所と規定されているため、標識巡りは徒歩をおすすめしたい。
絵・取材・文=オギリマサホ