寺や神社にハートマークが!?
まずは、寺社の扉や窓などをじっくり観察すると発見できるハートのような形。ハートと言ってしまうと、西洋風のイメージがありお寺や神社にデザインされるのは違和感を持つかもしれません。
しかしこれは「猪の目(いのめ)」という、日本で古くから魔除けや招福を願う猪の目を模した模様で、正しい向きとしてはハートを逆さにした形です。
猪は、仏教においては「摩利支天(まりしてん)」という仏に仕えていたり、神道においては和気清麻呂(わけのきよまろ)を御祭神として祀る「護王神社」(京都)が“いのしし神社”として知られていたりと、神社仏閣と深い縁があります。
また、『日本書紀』の中の伊吹山の物語では、戦いの英雄であったヤマトタケルを猪が倒した描写まであるほど、パワーの強い存在だったのです。
そのため、猪の目のモチーフは戦に用いる刀剣などに記されている例も多く見られます。
桃の形の意味をたどると、あの漫画にもゆかりがある!?
続いては、神社仏閣の境内だけでなく、その周辺でも見かけることがある、桃のような形。お寺などが多い地域の橋の欄干(らんかん)などで見たことはありませんか?
これは「擬宝珠(ぎぼし)」と言います。
読んで字のごとく宝珠(ほうじゅ)を擬した(似せた、なぞらえた)ものという意味。では、宝珠とは何か?
正式名称は「如意宝珠」と言って、「どんな願いでも叶える不思議な珠(たま)」のこと。お地蔵さんや吉祥天、如意輪観音像などが手に持っていたり、五重塔などの頂上部分に取り付けられたりしています。
また、手水舎などで見かける龍神像は、手に宝珠を持っています。これは、宝珠が龍神の脳みそから生まれたと言う中国の伝説から来ているとされますが、ドラゴンと球といえば、あの超ヒット漫画を思い出しますね。
同作は、この龍の伝説をモチーフにしたという説もあるようです。
宇宙を表す小さな塔をお見逃しなく!
お寺の境内を歩いていると、丸や四角などの形を重ねた石塔を見かけることがあります。これは「五輪塔」と言って、「地・水・火・風・空(ちすいかふうくう)」の5つを表現した塔です。
もともとは、インド哲学にあった考え方ですが、仏教では、この5つで宇宙が構成されると考えられており、五輪塔はつまり宇宙全体を表すものということなのです。
ちなみに、お墓の後ろに立てる木札「卒塔婆(そとうば)」も、五輪塔を基にした形をしており、両脇に切れ込みがあるのはそのためです。
小さなデザインから歴史を読み取る
伝統ある家系には「家紋」が伝わっていますが、神社仏閣にも「宗紋」「社紋」があります。あまりにも種類が多いため、今回はその中から一つご紹介。
勾玉が三つ渦を巻くように配される「右三つ巴」の紋です。これは、海の流れや渦潮を表しているとされるため、水にまつわる神様がいる神社の紋になっている例が多くあります。
もっとも有名なのが「住吉神社」。こちらのご祭神は、住吉三神といって航海の安全を守ってくれる神様として知られています。
同じく、右三つ巴の紋が見られるのが「新宿十二社熊野神社」。熊野神社のご祭神は、山に由来する神様なので水とは無関係ですが、新宿西口の十二社の地が水に深く関わっています。今では、巨大なビル群とオフィス街になっていますが、実は、この神社の横にはかつて大きな池が広がっていたのです。
さらに、落差10m近くにもなる「十二社の滝」という大きな滝まであったそう。その様子は、江戸時代の浮世絵などに描かれているほか、明治時代の落語家・三遊亭圓朝が創作した『怪談乳房榎』という落語にも登場します。
現在は感じることのできない西新宿の古い様子に、神社の紋から思いを馳せられるのはロマンがありますよね。
ほかにも、おもしろい形や模様はまだまだあります。神社仏閣へ出かけた際には細部にまでググっと寄って、知る人ぞ知る意味を楽しんでみてください。
写真・文=Mr.tsubaking






