ディスク百合おん
アングラ系のダンスミュージック「ナードコア」を得意とするテクノミュージシャン。短冊の魅力に心酔し、DJイベントなどでは短冊専門で回すスタイルに。所持枚数は2000枚を超え、自主製作の短冊もリリース。まさに、日本一の短冊ラバーと言っても過言ではあるまい!
ディスク百合おん思い出の1枚
ハーブ・アルパートとティファナ・ブラス『ビタースウィート・サンバ』(1994年)
言わずと知れたオールナイトニッポンのテーマ曲。なんと1994年までの歴代パーソナリティ年表が付録でついている。「こういうCD買う人はどんな人なんだろうって、妄想がはかどります」と、百合おんさん。小さな短冊の中に、遊び心がチラリ。それを体感できる一枚だ。
覚えていますか? 8cmCD(通称:短冊)のこと
1987年に登場したCDの規格。日本では1990年代に大ブームを巻き起こし、数々の名盤が生み出された。2000年代に入り12cmCD、いわゆるマキシシングルに取って代わられ姿を消すも、近年の平成レトロブームを背景に関心が高まっている。
いざ! 短冊をDig it!!!
百合おんさんが短冊に魅せられたのは9年ほど前。DJの音源を探している中で目に留まった。
「差別化で短冊に絞ろうと思ったんですが、やってるうちにハマっちゃって」
そもそも百合おんさんは短冊ブームの1990年代に青春を過ごした世代。ドハマりする素養はあったと言えよう。
「当時は小遣いが足りなくて買えなかったCDも、今なら100円で売っている。思わず手が伸びてしまいますよね」
そんな百合おんさんの行きつけディグスポットが『ココナッツディスク 池袋店』だ。店内へ足を踏み入れれば、入り口付近に短冊コーナーが。「ここは短冊に力を入れてくれて、重宝してます」と、着くや否や、さっそく物色を始めた。
「当時のアートワークってすごくカッコイイんですよね。僕が知らない短冊を選ぶときは完全にジャケ買いです」
まず、百合おんさんが手に取ったのはIcemanの『DARK HALF』だ。ジャケットには当時タイアップされていたドラマのシールが貼られている。
「このシールがいいんですよ~。『こんなドラマ見てたよな~』と、当時の記憶が蘇(よみがえ)る。思い出補正が強くなるんです」
ジャケットを見た瞬間、若き日に立ち返る。そんな懐かしさに襲われれば、そりゃ、買わずにいられなくなるわけだ。
「あ、これもいい!」と、手に取った一枚には試し書きらしき落書きが。
「元々持っていた人のバックボーンを妄想できて楽しいんですよ。他にも歌詞に赤ペンで線が引いてあることもある。そういうのを見たら、『ああ、ここがグッと来たんだな』と感じたりして」
まさか他人の人生までのぞけてしまうとは(妄想だけど)! しかし妄想遊びによって、その一枚に親しみが湧き、妙に魅力的に見えるから不思議だ。
「僕はコレクターじゃないんです。レアものにも美品にもこだわらない。むしろシールが貼られていたり、落書きされたりした方がいい。僕にとって短冊は、当時の記憶を蘇らせる再生装置なんです」
たっぷりの戦利品を手にホクホクの百合おんさん。その少年のような笑顔に感化され、筆者も思い出の一枚を買ってしまったことは言うまでもないだろう。
取材時はこんなの見つかりました!
THE BOOM『島唄』(1992年)
今となっては標準語の「オリジナル・ヴァージョン」が知られているが、元々は沖縄の方言で歌われ、沖縄限定でリリースされた、この「ウチナーグチ・ヴァージョン」が原型なのである。『琉球泡盛 Xi(クロッシー)』のCMに起用され、沖縄だけで1万枚を超える売上を記録した。
Iceman『DARK HALF』〜TOUCH YOUR DARKNESS(1996年)
浅倉大介、伊藤賢一、黒田倫弘のユニット・Icemanのデビューシングル。テレビ朝日系ドラマ『闇のパープル・アイ』の主題歌に起用されていた。「実は、1枚持ってるんです。でも、それはタイアップのシールが貼られてなくて……」と取材時に2枚目を購入した百合おんさんだった。
銚子電鉄乗車記念切符『潮風からの誘惑』(????年)
「今日見つけた中で、一番ヤバいかも」と、百合おんさん。銚子電鉄の乗車記念切符の付属CDだ。「こういうのってオルゴールやクラシックが多いんですけど、曲目見るに違いそう。楽しみ」。後日、「清涼感あるフュージョンだった!」と百合おんさんから連絡が。
『ココナッツディスク 池袋店』
アナログレコードやCD、カセットテープまで幅広く買い取り・販売を行っている。短冊は売れ筋で、専用の売り場も設置。「人気で品薄なんです。高価買取してますので、ぜひ!」とのこと。
取材・文=どてらい堂 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年10月号より






